
この記事は『AI白書2025 生成AIエディション』の告知です。
2017年の刊行以来、AIの話題を、技術から企業の利用事例、海外動向、関連する制度・政策まで、広く紹介してきた『AI白書』。その最新版は『AI白書2025 生成AIエディション』として、東京大学 松尾・岩澤研究室の協力のもと、大規模言語モデル(LLM)の軽量化・高速化の手法、LLMの安全性、EU AI法の規制概要、GDPRとの比較によるブリュッセル効果の可能性、米国のバイデン政権の遺産とトランプ政権による方向転換など、AI社会の到来を見据えた視点で整理・解説している。
「DeepSeek-R1」のニュースに代表されるように、2025年も新しい手法やサービスが次々と登場し、AIの爆発的な進化と市場拡大が予想されている。では、生成AIを研究・開発している欧米のスタートアップには、どのような企業があるのか。『AI白書2025 生成AIエディション』では、AIスタートアップ等42社を取り上げ、それぞれの事業内容を株式会社ABEJAラボ長の藤本敬介氏が解説している。ここではその中から12社を紹介する(なお、追記はASCII編集部による)。
Archetype AI
Archetype AIは、物理的世界を理解・解釈するAI技術を開発するスタートアップであり、AIで物理的世界の隠れたパターンを解読し、人間の知覚を超えた現象を理解して現実世界の問題を解決することをミッションとしている。同社の主なサービス「Newton」はマルチモーダルなセンサーデータと自然言語を融合してリアルタイムで物理世界を理解・推論する物理AIの基盤モデルである。レーダーやカメラなど多様なセンサーデータを普遍的な埋め込み空間にエンコードし、圧縮された数学的表現を作成する技術により、建設現場の安全性向上やスマートホームの高度化など、様々な産業分野での活用が期待されている。
Figure AI, Inc.
Figure AIは、2022年に設立された人型ロボットの開発企業である。主な活動は、自動化された人間のようなタスクを実行できるロボットの設計と製造である。BMWの工場でのテストプログラムにも参加しており、自動車産業への適用が進められている。また、AIとロボティクスの研究に重点を置き、シミュレーションや生成モデルを使用したロボット訓練を行っている。
Perplexity AI
Perplexity AIは、2022年8月に設立された会話型AI検索エンジンを提供する企業である。同社の検索エンジンは、自然言語処理を用いて個人化された結果を提供し、特定の検索モードも備えたフリーミアムモデルを採用している。企業向けにはカスタマイズ可能なWebページ生成機能を持つエンタープライズ版も展開している。GoogleやOpenAIといった大手企業に挑む新興企業として注目を集めており、今後の展開が期待されている。
(追記)各社が「Deep Research」機能を発表して話題となっているが、Perplexity AIは無料版ユーザーにも「Deep Research」を提供している(回数制限あり)。
Safe Superintelligence Inc.
Safe Superintelligence(SSI)は、OpenAIの元共同創業者イリヤ・サツケバー氏が設立したAI研究所である。同社はカリフォルニア州パロアルトとイスラエルのテルアビブに拠点を置き、安全な超知能AIの開発を目指している。2024年9月には10億ドル以上の資金を調達し、主にコンピューティング能力の向上と優秀な人材の採用に充てる予定だ。同社のミッションは、人間を超えるAIシステムの安全な開発にあり、AIの能力と安全性を両立させることに重点を置いている。
(追記)サツケバー氏についてはThe Guardianが2023年11月に動画「Ilya: the AI scientist shaping the world」を公開している。サツケバー氏は「AGIが近い将来に実現する可能性は十分に高く、そのことを真剣に受け止めるべきだ」と語っている。
Imbue
Imbueは、AIエージェントの開発と推論・コード作成タスクの自動化を目指すAI研究所である。主な活動は、実世界で安全に動作し、より高い目標を達成できる実用的なAIエージェントの構築である。当初、3D世界でAIの学習能力をテストする計画を立てていたが、現在は内部で有用なモデル開発に注力している。同社は現在、AIエージェントの進化を通じて、複雑なタスクを実行できる技術の開発に取り組んでいる。
Anthropic
Anthropicは、元OpenAIの研究者らにより2021年に設立されたAIスタートアップである。同社は、AIのリスクを考慮しながら技術開発を進め、AIモデルの透明性を重視している。代表的なサービスはAIチャットボット「Claude」であり、最新モデルの「Claude 3」シリーズは高性能と効率性を両立している。
(追記)日本でも知名度が高いAnthropicは、LLMの内部構造を可視化する手法LLMの内部構造を可視化する手法も開発している。なおCEOのダリオ・アモデイ氏はThe Economistが公開している動画の中で、AGIの実現を「2026年か2027年」と予測している。
Surgical Safety Technologies
Surgical Safety Technologiesは、AIを活用して手術の安全性と質を向上させる技術を開発する企業である。主なサービスは「OR Black Box」プラットフォームであり、手術室内のデータを収集・分析し、リアルタイムの洞察を提供する。このシステムは、カメラ、マイク、センサーを使用して手術室の様々なデータをとらえ、AIと機械学習を用いて分析する。プライバシー保護のため、データは匿名化されている。同社の技術は、手術の安全性向上、効率化、教育支援に貢献している。具体的には、コンプライアンスの向上、リスク軽減、手術スケジューリングの最適化などの成果が報告されており、北米や欧州の主要医療センターで採用されている。
Humane Inc.
Humaneは、2018年に元Appleのデザイナーらによって設立されたサンフランシスコ拠点のAIスタートアップである。人とテクノロジーの新しい関係を提案し、より直感的で人間中心の技術体験を提供することを目指している。同社が開発した「Ai Pin」は、ウェアラブルデバイスとして胸に装着し、音声で操作できる機能を備えている。手のひらに情報を投影できるプロジェクターも搭載されている。ユーザーの生活にシームレスに溶け込む革新的なデバイスであるものの、扱いにくさから批判を受けている。
(追記)『AI白書2025 生成AIエディション』では、AI PC、AI スマホについても解説している。AI PCに、AI処理に特化したプロセッサーNeural Processing Unit(NPU)が搭載されているように、今後、AIデバイスの更なる進化が期待されている。
Isomorphic Labs
Isomorphic Labsは、2021年11月に創業したロンドンに本社を置くAI創薬企業である。Google DeepMindの創業者デミス・ハサビス氏が設立し、CEOを務めている。同社は、DeepMindが開発したAIモデル「AlphaFold 2」の技術を基盤としている。2024年5月には、「AlphaFold 3」が発表され、タンパク質構造予測だけでなく、薬物分子との相互作用も予測できるようになった。AI技術を通じて薬剤開発の効率化と新薬創出の加速を目指している。
(追記)デミス・ハサビス卿は、上述したThe Economistの動画で、Anthropicのダリオ・アモデイ氏と異なり、AGIの登場をもう少し先になる見通しを示している。ロングインタビュー動画「Google DeepMind CEO Demis Hassabis: The Path To AGI, Deceptive AIs, Building a Virtual Cell」では、現状のAIについて「一貫性がない。ある分野では強く、ある分野では驚くほど弱い」と課題を挙げている。
Mistral AI
Mistral AIは、2023年4月にフランス・パリで設立されたAIスタートアップである。同社はオープンソースと商用の基盤モデルの開発に注力しており、オープンソースモデルの提供、商用モデルのAPI提供、モデルのカスタマイズプラットフォームを展開している。主力サービスの「Mistral Large 2」は32kトークンのコンテキストを持ち、多言語対応が特徴である。創業メンバーは元Google DeepMindやMetaのAI研究者で構成され、AIの透明性向上とコスト効率の追求を目指している。Mistral AIは急速に成長し、欧州のAI分野におけるリーダー的存在となっている。
(追記)テクノロジー業界の大物がAGIの実現時期を様々に予見しているが、Mistral AIのCEOアーサー・メンシュ氏のAGIに関する立場は独特だ。彼は昨年、ニューヨークタイムズ紙に「私は神を信じていない。無神論者だ。だからAGIも信じていない」と語っている。
Wayve
Wayveは、自動運転技術の進化を目指し、AIを積極的に活用する英国のスタートアップである。同社は、高精細地図に依存せず、End to End(E2E)のAIシステムを開発し、様々な環境で運行可能な自動車を目指している。Embodied AI(身体性を持つAI)における科学的なブレークスルーを達成することを目指して、生成AI世界モデルである「GAIA-1」、自動運転技術とLLMを組み合わせたAIモデル「LINGO-2」など、実世界の環境から学習して適応する自動運転システムの開発に取り組んでいる。
(追記)2025年3月に「GAIA-2」が発表された。
The Not Company (NotCo)
NotCoは、2015年にチリで設立された植物ベースの食品会社である。AI技術を活用して食材の組み合わせや味、テクスチャを最適化し、健康的なプラントベース食品を開発している。生成AIなどを活用したAIプラットフォーム「Giuseppe」を用いて新しい食品を生み出している。多くの企業とパートナーシップを結び、植物ベース食品の市場拡大に貢献している。 NotCoは、消費者の変化するニーズに応じた商品を提供し続けており、AIを駆使した食品開発のリーダーとして注目されている。
東京大学 松尾・岩澤研究室ら第一人者が徹底解説 『AI白書2025 生成AIエディション』
『AI白書2025 生成AIエディション』は、東京大学 松尾・岩澤研究室、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)所長の村上明子氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士の中崎尚氏、ボストン コンサルティング グループなどが、最新の研究論文、生成AIの技術や市場動向、法的論点を解説している。上記以外の欧米企業については、本書をチェックいただきたい。また、国内企業については経済産業省の生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」参加企業の代表者らにインタビューしており、AI開発の課題と今後の展望が把握できる内容となっている。
『AI白書2025 生成AIエディション』
監修:岩澤有祐[東京大学大学院工学系研究科准教授]
協力:東京大学 松尾・岩澤研究室
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
発売日:2025年3月1日
定価:4,400円(税込)
ISBN:978-4-04-911238-2
サイズ:A4判、248ページ、2色刷(一部4色刷)
詳細はKADOKAWAサイトへ
【目次】
第1章「生成AI社会の到来」
安心・安全なAIを目指して AI規制の国際潮流と日本企業が果たす役割:村上明子[AIセーフティ・インスティテュート所長]、岩澤有祐[東京大学大学院工学系研究科准教授]対談/生成AIサービスはAI PC、AI スマホへ/私がアルファ碁よりも本当につくりたかったAI:Demis Hassabis[Google DeepMind CEO]/「深層学習の父」はなぜ、AIを恐れているのか?:Geoffrey Hinton[トロント大学名誉教授]/生成AIを用いた表現を通じた「人間」の探求:苅部太郎[アーティスト/写真家]
第2章「生成AIの技術動向」
生成AIの概要/動画像生成と拡散モデル/大規模言語モデルとTransformer/大規模言語モデルを活用する技術/大規模言語モデルの軽量化・高速化/大規模言語モデルの安全性
第3章「生成AIと産業界」
生成AIの市場と産業への影響/注目の欧米の生成AIスタートアップ・研究機関/国外企業における生成AIの取り組み(Roblox、Canva、他)/GENIAC採択事業者に聞く 日本の生成AI開発の課題と展望(株式会社ELYZA、株式会社Kotoba Technologies Japan、富士通株式会社、株式会社ABEJA、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所、ストックマーク株式会社、チューニング株式会社、株式会社Preferred Elements/株式会社Preferred Networks、AiHUB株式会社、AI inside株式会社、株式会社EQUES、NABLAS株式会社、SyntheticGestalt株式会社、国立研究開発法人海洋研究開発機構、カラクリ株式会社、株式会社データグリッド、株式会社ヒューマノーム研究所、フューチャー株式会社、株式会社リコー、株式会社ユビタス、株式会社Deepreneur、ボストン コンサルティング グループ)
第4章「生成AIの法整理」
AI規制・ガバナンスをめぐる世界の動向/国外のAI規制と関連法/国内のAIガイドラインと倫理/国内における生成AIの開発・学習・生成・利用における法規制の現状









