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開発・運用を「変革」する生成AIソリューションも実用化のフェイズに

AIエージェントを見据えたオープンな基盤を強化 “日本IBMのAI戦略”の現在地

2025年03月18日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 日本IBMは、2025年3月13日、AI戦略に関する説明会を開催。2025年は「AIをビジネス価値に転換する1年」として、「AIサービスインテグレータ」を目指す方針を掲げた。

 日本IBMの取締役常務執行役員 テクノロジー事業本部長 兼 Chief AI Officerである村田将輝氏は、「IBMのAI戦略の特徴は、『優れたテクノロジーによるソフトウェア』と『専門性を持ったコンサルティング』、SAPやオラクル、セールスフォース、アドビ、マイクロソフトなどとの『戦略パートナーとのエコシステム』を持つ点にある。AIサービスインテグレータとして、AIの能力を迅速に、生産的に、安全に、ビジネス価値に転換するための架け橋になることを目指す」と述べた。

 また、2月末に発表したばかりの独自の最新LLM「Granite 3.2」については、「推論機能の導入によって一般的に生じる機能劣化を回避し、全体性能を保つことに成功している。オープンで、小さなモデルをファインチューニングすることで企業の価値につなげる」と説明した。

日本IBM 取締役常務執行役員 テクノロジー事業本部長兼Chief AI Officer 村田将輝氏

AIをビジネス価値に転換するための3つのAI戦略

 村田氏は、日本IBMが進める2025年のAI戦略について、3つのポイントを掲げた。

 1点目は、オープンな「AIプラットフォームサービス」の提供である。

 同社では2020年に、DXのためのオープンな共通基盤として、デジタルサービスプラットフォーム(DSP)を構築しており、これをAIにまで発展させたのが「AIプラットフォームサービス」となる。DSP基盤は、IBM CloudやIBM製ハードウェア、IBM Fusionだけでなく、AWSやAzure、デルやHPE、レノボのハードウェアを採用。さらに、Red HatのOpenShiftや、HashiCorpのTerraformを運用自動化の基盤として活用する。

 この基盤上に、マイクロサービス化された、各業界向けの業務サービスやセキュリティサービスの部品と共に、AIサービスの部品が配置される。これらの部品は、パートナーと共にIBMによって事前開発され、AIアプリケーションをつなぐだけで、安全に利用できるという。

DSP基盤にAIサービスの部品を追加

 このように構築されたAIプラットフォームサービスは、「AIアプリケーション基盤」や「AIエージェント共通基盤」、「AIゲートウェイ」、「AIモデル(LLM)管理基盤」、「AIデータ管理基盤」、「AIセキュリティ/ガバナンス基盤」で構成される。IBMテクノロジーやIBMコンサルティングによるアセットと、パートナーのオファリング、オープンソースによる機能を組み合わせて、幅広いAI活用のニーズに応えていく。

 AIプラットフォームサービスについて村田氏は、「IBMにロックインしたものではなく、オープンスタンダード、オープンアーキテクチャー、オープンソフトウェアを重視して構築している。プラグインのアーキテクチャーになっており、必要な機能をつなげば安全に動かすことができ、AIの新機能の追加、外部のLLMやデータサービスとの接続も可能である。AIエージェントの登場などによって生まれる複数のAIの能力を活用するというニーズにも対応し、安全に、統一された形で動かすことができる」と説明した。

AIプラットフォームサービスの概要

 AI戦略の2つ目のポイントは、「IT変革のためAIソリューション」の本番環境への適用と拡大である。

 IT変革のためのAIソリューションは、システム開発や運用向けに、watsonxをはじめとする最新のAI技術を体系化したもので、「AI戦略策定とガバナンス」「コード生成のためのAI」「テスト自動化のためのAI」「IT運用高度化のためのAI」「プロジェクト管理のためのAI」の5つのソリューションで構成される(参考記事:IBM、生成AIで開発/運用を「変革」するソリューションを体系化)。

IT変革のためAIソリューションの全容

 日本IBMの執行役員 IBMフェロー コンサルティング事業本部 最高技術責任者である二上哲也氏は、「既存の顧客システムに、『IT変革のためのAIソリューション』を適用するには、それぞれの顧客とともに、コンサルティングベースでAI戦略を策定していく必要がある。日本IBMは、IT業務に関わる課題を特定するために、すべてのフェーズでAIを活用したソリューションやツールを提供し、IT環境の効率化に貢献することができる」と述べた。

日本IBM 執行役員 IBMフェロー コンサルティング事業本部 最高技術責任者 二上哲也氏

 5つのソリューションのひとつ、「AI戦略策定とガバナンス」の今後の取り組みとしては、「モダナイズのための『AIエージェント』の開発にも着手し、2025年半ばにリリースする」と二上氏。AIの本番活用の指針となる「AI成熟度モデル」も開発中であり、LLM Opsの本格化にも対応していくという。

AI成熟度モデル

 「コード生成のためのAI」では、複数の顧客において本番適用が拡大しており、2025年には金融系、製造系の大規模基幹システムでの運用が見込まれているという。また、COBOLやPL/1などの共通的なコードを学習させた「IBM共通コード基盤モデル v1」をリリースしているが、2025年には顧客固有のコードを学習しながら、オンプレミスで利用できる環境も用意する。

基幹システムにおける「コード生成のためのAI」の活用

 「テスト自動化のためのAI」では、画面打鍵テストをはじめ、画像比較やテストデータ生成、単体テスト用のプログラム生成など、顧客ニーズに合わせた機能拡張によって、テスト自動化ソリューションの価値を拡大していく。

 「IT運用高度化のためのAI」では、2025年内に、同社のアプリケーション保守サービス(AMS)のすべてにAIを導入。業種向けのIBMインダストリーソリューションにおいても、AIによるIT運用高度化機能を搭載するほか、IT運用のレベルを診断する「IT運用高度化アセスメント」を、2025年3月から提供開始する。さらに、IT運用全体を分析し、可視化するダッシュボード機能として「IBM Consulting AIOps 2.0」を、2025年第2四半期に投入予定だ。

IBM Consulting AIOps 2.0

 最後の「プロジェクト管理のためのAI」では、「レポート自動生成機能」の本番適用がスタートしているという。また、新たに生成AIによって定量評価を補完する「総合評価コメントの自動生成」機能を、2025年5月にリリースする。

 AI戦略の3つ目のポイントが、AIパートナーシップを通じた「AI+(AIファースト)」への変革を加速させることだ。

 村田氏は、「AIのパイロットプロジェクトの多くが局所的なアプローチであり、経済的効率が生まれないといいう課題がある。AIとデータ、人、統合されるシステムをまたがる全体をデザインして、AIファーストな変革を顧客とともに加速させていきたい。そのために展開するのが『AI時代のITアーキテクチャー』」と説明する。

 日本IBMでは、「AI時代のITアーキテクチャー」に基づき、さまざまな機能を提供することで、全体での整合性を維持した状態でのAI活用を支援していく。加えて、業種ごとに異なる状況に対応するために、11業種に最適化されたAI時代のITアーキテクチャーも用意される。

AI時代のITアーキテクチャー

 また二上氏は、「『AIパートナーシップ包括サービス』を開始して、開発・保守・運用において、AIによる効率化を実現するほか、金融機関などが参加している『AI+PLIコンソーシアム』を通じて、PL/1に関する生成AI活用の最新動向やノウハウを共有する。さらには、IBMコンサルタントの知見を集結したAIプラットフォームである『IBM Consulting Advantage』によって、顧客との共創を加速していく」と展望を語った。

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