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組織をつくる・変えるための「人と心の動かし方」をリクルートMSが解説

「実はコスパが高い」 今も昔も“なりたくない”管理職に対する3つの誤解

2025年01月27日 07時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 “なりたくない”と言われ続けている管理職。厚生労働省の調査(2018年)では、61.1%の一般社員・係長・主任が「管理職に昇進したくない」と回答している。なりたくない理由は、「責任が重い」といったものから、「業務量が増える」、「部下を管理・指導できる自信がない」などさまざまだ。

 リクルートマネジメントソリューションズ(リクルートMS)は、2025年1月22日、「管理職」をテーマとしたメディア向け共有会を開催。管理職に対する誤解と管理職が組織をつくる・変えるために学ぶべき“人や集団の習性”について解説した。

 同社の技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員である古野庸一氏は、「昔から管理職になりたくないといわれているが、色々なデータからその傾向は加速している。人それぞれではあるが、管理職に対して誤解を抱いている人がいたり、向いているのになりたくない人がいる現状は問題」と説明する。

リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員 古野庸一氏

「実務能力が長けた人がなる」「コスパが悪い」「経験すると伸びる」 ― 管理職の仕事に対する3つの誤解

 冒頭のように、なりたくないとよく言われる管理職だが、「昇進してみないと分からないことがある」と古野氏。リクルートMSの調査によると、昇進前にネガティブだった管理職の半数以上(53.3%)が、昇進後にはポジティブな意識に反転しているという。その理由としては、「より大きな影響力を周囲に及ぼせる(32.7%)」、「現場の仕事とは違う面白さがある(32.7%)」、「自分にとって成長が感じられる(31.9%)」などが上位回答だった。

 ポジティブに反転した管理職からは、「とりあえず経験してみよう」、「部下育成のダイナミズムを感じられるのは管理職のみ」といったアドバイスも寄せられたといい、古野氏も、「半分がネガティブのままではあるが、一度立場を変えてみる価値はあるのでは」と提案する。

管理職に昇進後、ネガティブからポジティブに意向が変化した理由

 管理職に対する誤解も根強く存在する。例えば、管理職は「現場の実務能力が長けた人が昇進するもの」という誤解だ。しかし、実際は現場のプレイヤーと管理職はまったく別の能力が求められるという。「特に(現場で高い能力を発揮してきた)スーパープレイヤーは、なぜ部下が上手くいかないかを理解できないことがよくある」と古野氏。

 また、「忙しくてコスパが悪い」というイメージもあるが、むしろ管理職は「実はコスパがめちゃくちゃ良い」(古野氏)という。どんな時代でも、どんな活動でも、人を動かしてコトをなすこと、つまり管理能力が求められる。そのため管理職は、生涯どこでも使える能力を得られる絶好の機会だといえる。

 一方で、「管理能力は経験すると高まる」というのも誤解だという。管理職の仕事は、置かれた環境、メンバーの多様性や組み合わせによって勝手が違い、「学習環境的には意地悪」(古野氏)なためだ。そのため一度学んでも、別の仕事で再現することが難しい。

管理職という仕事に対する3つの誤解

 意地悪な学習環境ではあるが、一生役立つ管理能力を身に着けるにはどうしたら良いか。古野氏は、「組織をつくる」「組織を変える」ために、自身の経験だけではなく、人の本性や集団の習性を学ぶべきだと強調する。

組織をつくる:キーとなるのは「貢献意欲の促進」「コミュニケーションのデザイン」「組織文化の形成」

 実際に管理職になった際、まず始めるべきことは、組織の土台作りである。組織の目的・目標・方針を設定して、それを実現するための戦略や計画を立案、メンバーに役割を付与するといった基礎を固めることで組織は動きだすが、それはあくまで“運が良ければ”の話だという。

 どうしても組織によって、内心従わない、役割以上の仕事をしないメンバーがいたり(メンバーの問題)、上司を信頼しない、方針や戦略を認めないメンバーがいたり(上司とメンバー間の問題)、協力しない、他人の足を引っ張るメンバーがいたり(メンバー間・組織全体の問題)と、さまざまな問題が生じる。ただ、これらの問題のほとんどが、人の感情や人格的素質に起因する「ソフトイシュー」の問題だという。

 実際リクルートMSの調査によると、新任マネージャーが直面する問題のほとんどが、前述の組織の目的の設定といった論理的なハードイシューではなく、“対人関係”を中心としたソフトイシューによるものだった。

組織づくりにおける運が悪い例

 とはいえ、責任者たる管理職は、運に頼るわけにはいけない。ソフトイシューをデザインすることで、これらの問題回避に注力する必要がある。古野氏が挙げた、代表的なソフトイシューのデザインが、「貢献意欲の促進」、「コミュニケーションのデザイン」、「組織文化の形成」の3つである。

 「貢献意欲の促進」は、組織のために頑張りたいかという、動機づけの設計となる。「特に、モチベーション理論はベースとして知っておくべきだが、意外と管理職も意識していない」と古野氏。知っておくべきモチベーション理論として紹介されたのが、「ハックマン=オルダム」モデルだ。5つの「仕事の特性」がモチベーションを左右するというもので、部下のアサイメントをする際に役に立つという。

モチベーション理論のひとつ「ハックマン=オルダム」モデル

 「コミュニケーションのデザイン」において、多様なメンバーの力を引き出しす大切な手法が「対話」だ。ただ、向かい合って話すことではなく、偏見を持たずに、影響を与えようとせず、自由に耳を傾けるのが対話である。

 対話の効能には、「メンバーの納得感の醸成」、「イノベーションの生成」、「リスクマネジメント」などがあるが、対話を推進することはそう容易ではない。他者の立場に身を置くことは難しく、多面性が表面化される中ではどうしても対立が生じてしまう。コンセンサスまでに時間がかかるため、生産性とは真逆の手法でもある。

 組織において対話を促進するためには、ワークショップなどを通して、他社や組織の視点で考えてみたり、自分の意見を自分で否定するような機会を設けることが重要だという。

コミュニケーションのデザインにおいて重要な手法である「対話」

 最後は、「組織文化の形成」だ。組織文化により醸成され、上記の対話の前提になるものに「心理的安全性の構築」がある。

 昨今よくうたわれる心理的安全性だが、実際に高めていくにはどうしたら良いのか。「実は個人要因よりも組織要因を改善することが有効」(古野氏)だという。主体性があるメンバーを増やしたりするよりも、「リーダーとの良好な関係」や「裁量が大きく明確な仕事」、「支援的な組織風土」などを整備することが、心理的安全性を確保する道となる。

「心理的安全性」を高める要因と効果

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