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最新ユーザー事例探求 第61回

インサイドセールスの真価は、営業とマーケのハブとなるデータ活用

リード発掘の秘訣は「ベテラン営業の知見×法人DB」 USEN ICT Solutionsにおける営業DXの歩み

2025年01月28日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 「インサイドセールスは、マーティングやフィールドセールス部門の配下というのが一般的。ただそれだと、“営業対マーケティング”の構図は潰せない。インサイドセールスがひとつの部門としての地位を築かないと上手くいかない」 ― そう語るのは、USEN ICT Solutions(U-NEXT.HD)の執行役員 インサイドセールス統括部長である角家栄吉氏だ。

 インサイドセールスは、顧客と対面で接するフィールドセールスとは異なり、電話やメールなどの非対面で顧客にアプローチする営業領域である。USEN ICT Solutionsのインサイドセールス部門のミッションは、“フィールドセールスに対して商談を創出”することである。

 同部門はこのミッションのために、ユーソナーの法人企業データベース(DB)「LBC(Linkage Business Code)」を中核にデータ活用を推進。その結果、今では、営業におけるハブの役割を担っているという。データ活用の経緯や詳細を角家氏に聞いた。

USEN ICT Solutions 執行役員 インサイドセールス統括部長 角家栄吉氏

多様なICTサービスを展開するからこそ、企業単位での顧客データ基盤が必要に

 USEN ICT Solutionsは、USEN&U-NEXT GROUPにおいて通信・エネルギー事業を担う一社だ。「マルチサービスベンダー」として、ネットワークやセキュリティ、クラウドサービスなど150以上の法人向けサービスをあつかい、4万社を超える企業の課題解決を支援してきた。一方で、多様なサービスを展開する企業だからこその悩みを抱えていたという。

USEN ICT Solutionsの事業内容

 かつての同社の顧客データは、営業が接点を持った企業情報をリスト化するだけの、いわば“電話帳”であった。主なターゲットは情報システム部門であるため、大半は本社に接点を作るという営業スタイルをとるが、「いろいろな担当者がいろいろな角度でアプローチをするため、お叱り受けることがあった」と角家氏。

 そこで、企業単位で顧客データをまとめることの重要性に行き着き、目をつけたのがユーソナーの法人企業DB「LBC」だ。LBCは、ユーソナーが独自に収集・構築した820万件の事務所を網羅する法人DBであり、その網羅性と年間2000万項目をメンテナンスするという精度の高さが特徴だ。

 同社は、LBCを中核に独自のSFA兼CRMを内製。インサイドセールスやフィールドセールスが得た情報から契約後の情報まで、営業プロセス全体のデータも統合して、MA(マーケティングオートメーション)やCTI(コールセンターシステム)もつないだ。「どの営業がいつ接点を持ったのか、どのような契約をしているか、いつウェブサイトを閲覧しているかなどがすべて把握できる」(角家氏)

 この基盤によって顧客からの指摘はなくなり、今では定量的な成果も生まれている。企業データのマッチングがスムーズになったことで、1000件の問い合わせ対応において、トータルで3時間弱の工数を削減。企業情報を手動で把握する手間が減り、顧客に対するフォローアップのスピードと精度も上がったという。

ユーソナーの法人企業データベース「LBC」および顧客データ統合ソリューション「uSonar」

ベテラン営業の知見×法人DBで確度の高い見込み客を発掘

 SFA兼CRMの構築によって、喫緊の課題を解決したUSEN ICT Solutions。次のステップとしてインサイドセールス部門が着手したのが、ユーソナーの顧客データ統合ソリューション「uSonar」を通じた“法人DBの活用”による新規アプローチ先の創出だ。

 アプローチ先の発掘で重要なのは、対象となる顧客数を把握することだという。日本全国の法人をカバーすることがUSEN ICT Solutionsの強みであるゆえに、売上規模や業種など、セグメントの切り取り方で母数が大きく変わってしまう。サービスが増え続け、頻繁に入れ変わる中では「ターゲットの母数を捉えること」、そして「サービスごとに切り口を加えてターゲティングの確度を高めること」が求められた。

 まず活用したのは、LBCの法人データが持つ、約100種類の属性データだ。LBCの法人データには、社名や住所、電話番号といった基本情報から、従業員数や売上高、業種などのさまざまな属性データが付与されている。この属性データを用いることで、各サービスのターゲティングが、契約に至るだけの接点を確保できるかが見極められるという。

 「この属性だけでも、例えば“2期連続で増収している”勢いがある企業を見える化できる。拠点間をつなぐネットワーク系サービスは“拠点数”、アカウントベースのSaaS系サービスは“従業員数”といった属性を参照すれば、各サービスがどれだけのインパクトを生むかが計算できる」と角家氏。

 加えてuSonarでは、企業の特徴や業績動向、興味関心などをさらに細分化した2000種類以上の「ストーリー」を基にターゲットを抽出できる。「移転しそうな企業」や「広告宣伝費が増えた企業」、「SDGsを推進している企業」など、あらゆる企業のマーケティングに対応するべく、その切り口は多種多様だ。これにインサイドセールスが得た情報を掛け合わせることで、より確度の高いターゲティングが行える。

属性情報よりもさらに細かい2000種類を超える“ストーリー”

 この膨大な量のストーリーを同社はどう活用しているのか。ひとつは、予め想定したターゲットに近いストーリーを選択するパターン。もうひとつは、ストーリーを起点に各サービスに適した新たな切り口を見つけるパターンだ。後者に関しては、闇雲に選定するのではなく、“現場営業の知見”を活かすことを重要視しているという。

 そのため、フィールドセールスにもストーリーの一覧を共有して、適切なストーリーが眠っていないかを議論する。「営業の経験を持たないとターゲティングの勘所はつかめない。マーケティング主導になるとデータ中心の判断となり、過去の施策などに引きずられてしまう」と角家氏。

 こうした取り組みの中、特に効果があったストーリーが「決算月」だという。「決算の手前のタイミングで来期の予算を設計されるので、その一か月前にアプローチすることで投資判断に食い込むことができる」(角家氏)といい、どのサービスにおいても成果が得られている。

 その他にも、SaaSサービスには、「従業員数が増えた」「求人募集を出し始めた」ストーリー、Google WorkspaceやMicrosoft 365といったワークスペース系サービスには「クラウド上にメールサーバーを置いている」ストーリー、Wi-Fi環境の構築サービスには、「オフィスの人数が増えた」ストーリーが刺さったという。

 加えて、オンライン上の行動から興味関心を持つ顧客を抽出できる「インテントデータ」の活用も始めている。uSonarの「ライブアクセス」機能では、顧客のIPアドレスを基に、自社サイトを閲覧している企業を1分単位で把握でき、同社でも各ページの閲覧データを取得している。「例えば、サービス約款や解約のページを閲覧している企業を検知することで、担当営業からフォローアップすることができる」と角家氏。

 今後は、指定のキーワードに関心のある顧客を特定する「興味シグナル」の機能も活用していく予定だ。

「電話するだけの部署ではつまらない」 ― インサイドセールスがマーケティング・フィールドセールスのハブに

 こうしてデータ分析を積極的に推進してきたインサイドセールス部門は、社内における“データのスペシャリスト”としての地位を確立した。角家氏は、「もともと各部門が対等に意見を言い合える土壌を大事にしてきた。その中でもマーティングとフィールドセールスの中間に立つのがインサイドセールスであり、“ハブ”としての役割を担うことを意識してきた」と語る。

 ユーソナーの用意した顧客の属性やストーリーを活用して、さらに各部門と連携して、新規アプローチ先の創出を重ねてきたことが、今のインサイドセールス部門の礎を築いた。角家氏は、「ただ単に電話をするだけの部署っていうのは、つまらない。データを残す役割なのであれば、そのデータに対する分析まで担いたいし、そのためのスキルも磨いていきたい。そういう社員が増えていけば、企業内の立ち位置も確立できる」と締めくくった。

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