
好きなブランドの革靴が
9万円台になっていたんです
高くなってる〜!
筆者は2年前、パラブーツというブランドの革靴「シャンボード」を新品で買いました。うれしくて記事にもしましたし(大人の革靴としてパラブーツ「シャンボード」を選びました)、今でもよく履いています。

こちらが「シャンボード」。ブランドの定番モデルです
そのとき、相当な決心をして「7万1500円」で買ったんですね。ところが、この前パラブーツの実店舗に行ったら、「9万6800円」になっていたのです。2年で2万円以上の値上げ。びっくりした。びっくりして泣いちゃった。

パラブーツ 丸の内店。ここでシャンボードを買いました。店員さんの接客がすばらしかったことをよく覚えています
「びっくりして泣いちゃった」というのは、ふざけてネットスラングを使っているわけではない。なぜなら、筆者はパラブーツが好きだから、シャンボードが好きだからです。だから記事にもしたし、同ブランドの別の靴も欲しい。でも、かなり値上がりしていた。
だから、わりと本気で泣きたくなったんですよ。リアルに。9万円台はキツいなあ……。
近年の革製品の値上げには
さまざまな理由がある
今は、何でも値上げの時代です。パラブーツもその例外ではないというわけですが、なぜ価格が上がるのでしょう。もちろん円安も大きいですし、昨今の社会情勢による原材料費の価格高騰など、ブランドによってもその理由はさまざま。ここでは「インポート(輸入品)の革製品」に関して話を進めてみましょう。
まず、革製品を作るには動物の皮を加工した革素材が必要になります。こちらには当然、人件費や加工に使う薬剤のコストがかかっています。この工程にかかる費用が、近年上昇していたのです。
素材に関していえば、高品質な牛革を作れる業者を、コロナ禍でヨーロッパの企業が囲い込むという流れもありました。業者が倒産してはまずいということで、買収などで革素材の供給を確保するわけです。逆に言えば、その企業以外に素材は供給されにくくなります。
高級ブランドの需要はありながら、なかなか多くの場所に革素材が出回らないという状況が続いていました。そしてコロナ禍が沈静化するにともなって、業績の回復をねらって値上げする企業もあります。そのため、この数年、革製品の価格は上昇する傾向にありました。

シャンボードは、牛革をオイルアップした「リスレザー」を使用。パラブーツのファクトリー内には、高級な牛革で作られたリスレザーが大量に保管されているとか
また、牛や豚の皮は食用の副産物という面もあるのですが(もちろん、これらの動物の革製品を買わない・身に着けないという人もいます)、ヘビやワニなどは主に皮を取るためだけに処理されます。これが動物愛護の観点から非難されるので、代わりに牛や豚の需要が増した流れもあるそうです。
その牛の皮に関しても、牛肉の需要が増えて供給を急ぐため、皮の質がよい牛を育てにくくなっているという面もあるといいます。
繰り返しになりますが、その上で、コロナ禍の影響や円安もあるわけで……。よって、日本でインポートの革製品を購入するとなると、どうしても値上がりの影響を受けてしまいがちなのです。
現状を正しく知ることも
知識をアップデートすることも大切
筆者が丸の内にあるパラブーツの実店舗を訪れたのは、10月13〜14日の2日間、有楽町の国際フォーラムで開催されていた「TOKYO GX ACTION BEGINNING〜知るから始まる脱炭素〜」を取材した帰り道でした。
東京都では、2030年のカーボンハーフ(CO2排出量が2000年比で実質50%削減されている状態)と、2050年のカーボンニュートラル(CO2排出量と吸収量の均衡が取れ、実質ゼロになっている状態)の実現に向けて、化石燃料からクリーンエネルギー中心の社会へと転換する「グリーントランスフォーメーション(GX)」に関する取り組みを実施しています。
その一環として、都民の一人ひとりがGXを理解し、行動を変えていくことを目指したプロジェクト「TOKYO GX ACTION」が始動。TOKYO GX ACTION BEGINNINGは、そのキックオフイベントにあたります。

TOKYO GX ACTION BEGINNINGの会場

展示はHOUSE、MOBILITY、FOOD、ENERGYという4つのエリアに分けられ、それぞれをテーマとした企業の製品やサービスが出展していました
「ははー、なるほど。イベントにひっかけて、『環境の問題を考えて、革製品の使用を見直そうと感じました』とでも言いたいのだな」と思った人もいらっしゃるかもしれません。ただ、話はそう簡単ではないのです。
確かに、合成皮革は石油などから作られるため、動物を育てるよりも環境負荷が小さいという特徴があります。
一方、(素材にもよりますが)天然皮革と比べると長持ちしにくい(経年劣化)という問題も生まれます。もちろん、どんな天然皮革でも経年にしたがって変化はするのですが、牛革や豚革は手入れをすれば長期間利用できます。
筆者の経験からいうと、古着店などを巡ると、何十年も前の革製品を見かけることもあります。それらは今でも普通に利用できるほど、風合いや素材としての強度を保っています。現在の合成皮革を使った製品が、何十年後も残っているかどうか。
たとえば、合成皮革を利用した靴が、3〜4年でボロボロになるとします。それだけを履くとなった場合、単純に考えれば、10年の間に2〜3回買い替えることになる。でも、手入れをきちんとすれば、それなりの金額の革靴なら10年以上は履き続けられます。
こうなると、「どっちが“エコ”なのか?」と聞かれても、即答しにくいでしょう。

パラブーツがソールを自社生産していることもあって、ソールを交換しながら、シャンボードを10年、20年と履き続けている人もめずらしくありません
「だから合成皮革は信用ならない、天然皮革でなければ」と言いたいわけではない。重要なのは、現状を正しく知ること、そして自身の知識をアップデートしていくことです。
環境問題について、一人ひとりが考えていくことはもちろん大切です。それは、単に環境に優しい素材を導入するだけではない。今あるものを大事に使っていくことだって、“環境に配慮”した行為でしょう。
技術が進歩すれば、何十年と長持ちするような合成皮革、あるいは天然皮革に負けない魅力を持つ植物性の素材なども出てくるかもしれません。
今、どんな素材が開発されているのか。これから先、自分の好きな製品は何の素材で作られていくのか。それらについての知識を持ち、ムダのないように利用していけば、たとえば「靴を買う、靴を履き続ける」ことだけでも地球の環境に貢献できるはずです。
……しかし、9万6800円かあ。次の一足、おいそれと手は出ません。自分が履いているシャンボードには、まだまだがんばってもらうことになりそうです。まだ2年だしな。あと15年は履くぞ。
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