センシティブな顧客企業の情報を守りつつデータ活用も促し、“業界の新たなスタンダード”へ
M&A仲介ビジネスをBoxが進化させる ―日本M&AセンターがBoxを選択した理由
2024年10月09日 11時00分更新
高額な専用ツール・VDRをやめてBoxを“新たなスタンダード”に
冒頭の蔦氏コメントにもあったように、M&Aの仲介業務では、「売りたい」と考える企業からさまざまな種類の機密情報を預かることになる。この情報を基に、企業価値(評価額)を算定したうえで、「買いたい」企業向けのドキュメント(企業概要書)をまとめ、提案を行うのがM&A仲介の流れだ。
もちろん、こうした情報が外部に流出・漏洩するようなことは、絶対に避けなければならない。企業の詳しい経営状況や個人情報はもちろんのこと、「売却を検討している」という事実が知られるだけでも、取引先の金融機関などにはネガティブに受け取られてしまいかねないからだ。
こうしたセンシティブな情報をステークホルダー間でセキュアに共有するために、M&A業界ではこれまで「VDR(仮想データルーム)」と呼ばれる専用のドキュメント共有システムが利用されてきた。ただし一般的なVDRは、ドキュメント数やユーザー数、容量に応じて課金が発生するため、利用料が非常に高額になるという。蔦氏は「案件の規模にもよりますが、毎月数百万円かかるケースもあります」と説明する。
そこで日本M&Aセンターでは、新たに導入したBoxをVDRとしても活用することに決めた。Boxならば、社内外のステークホルダーを簡単に招待することができる一方で、アクセス権限はフォルダやファイルの単位で細かく、かつ簡単に設定できる。データの暗号化、監査証跡(アクセスログ)といったセキュリティやコンプライアンスの機能も備えており、一定額で容量無制限という点もうれしい。
「大手企業のM&A案件ならばまだしも、当社のメインターゲットである中小企業のM&A案件では、VDRは高額すぎます。実際のところ、VDRができることはBoxで全部実現していますから、Boxでも同じじゃないかと。Boxで全部置き換えてしまおう、というのが僕の持論です」
VDRからBoxへの切り替えは、2024年5月から段階的にスタートさせており、顧客から強く求められないかぎりはBoxを使っていく方針だという。
「われわれ日本M&Aセンターは、中小企業のM&A仲介ビジネスにおける“スタンダード”を作ってきたという自負があります。われわれが今回、VDRの代わりにBoxを使う実績を作ることで、これも新たな業界のスタンダードになるかもしれませんね」
コンテンツ+生成AIの「Box AI」による業務変革に大きな期待
Boxの全社導入をスタートしておよそ1年半。現在は「ユーザーに慣れてもらう期間」だと考え、まだ外部ツール連携は行っていない。時期を見て、SalesforceやMicrosoft 365、ZoomといったツールとのAPI連携を行っていくという。
その先のデータ活用についてはどう考えているのか。そう尋ねたところ、蔦氏は「Box AI」による生成AIを介したコンテンツデータの活用に期待していると話した。
「すでに『ChatGPT』は導入しているのですが、結局のところ業務データと密接にひも付かなければ、生成AIの業務活用は促進されないと感じています。たとえば、生成AIが社内の規定集を参照して質問に答えてくれる、といったものですね。大量に蓄積されたコンテンツの中から、Box AIが欲しい情報を持ってきてくれる――そこには期待しています」
そして“生成AI活用の本丸”として期待しているのが、生成AIに過去の案件情報を参照させて、情報の抽出や要約を行わせるというものだ。「そこまでできるかどうかはわかりませんが」と前置きしたうえで、蔦氏は次のように期待を語った。
「当社のBoxには過去のM&A案件に関するコンテンツが蓄積されていますが、人間がそれをすべて見るわけにはいきません。そこで、Box AIをうまく活用できないかと考えています。たとえば会社を買いたいお客様に対して、『この業界では過去にこういうM&A買収事例がありました』と一覧をすぐに出せる、『お客様ならばこういう業種、こういう地域のM&Aが適しています』といったアドバイスをしてくれる、そういった使い方ができれば理想的ですね」