遊食 ! 東日本 第2回

酒処・新潟の老舗酒造で県外に出回らない銘酒たちをたっぷり味わってきた!【魚沼の旅─観光編─】

文●風都ナツメ マップ●フジマキ容子

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 意外な名物から興味を引く観光スポットまで、東日本にはまだ知られていない魅力がたくさん。実際につなぐ旅編集部が東日本の市町村を訪れて、「ワクワクする」シーンを体験レポートします。記念すべき第1回目は、新潟県魚沼市。「観光編」と「グルメ編」に分けてご紹介します。(グルメ編はこちらから)

 魚沼市といえばお米「コシヒカリ」が有名ですよね。新潟県自体、米どころとして知られているのでお米も日本酒も美味しいイメージです。

乗り換え1回で魚沼市へ

 そんな魚沼市の中心となる駅は小出駅。大宮駅から上越新幹線で浦佐駅または越後湯沢駅下車、JR上越線に乗り換えて小出駅に向かいます。

 浦佐ルートも越後湯沢ルートも、かかる料金は変わりません。が、乗車時間を比較すると浦佐ルートは1時間強、越後湯沢ルートは1時間半程度かかります。とはいえ上越新幹線は1時間に1~2本しか走っておらず、必ずしも「浦佐ルートで30分早く到着できる」とは限らないため、乗り換えアプリなどでおすすめされたルートを取るのが良いと思います。

 新幹線に長く乗りたい人は浦佐ルート(ひと駅分長く乗れます)、在来線に長く乗りたい人は越後湯沢ルート(越後湯沢から小出は9駅約45分、浦佐から小出は2駅約10分です)という選び方もできそうですね。ちなみに私はダイヤの都合で越後湯沢ルートを選択しました。

越後湯沢駅って分岐しているんですね

 JR上越線の電車の中は、一つの車両に5人くらいが乗っている空き具合。こののんびりとした雰囲気を堪能したかったので、私はずっと窓の外の風景を眺めていました。広々とした田んぼが広がっていたり、途中にスキー場があったり、遠くの山に黒い雲がかかっているのを見て「雨が降るかなあ」と思ったりして過ごしていました。

 そうやって約45分間「のんびり」を満喫すると、いよいよ目的地の小出駅に到着です。小出駅では思いがけない発見が。

約45分、のんびり在来線に揺られて到着

「小出駅」の看板を書いたのは俳優の渡辺謙さん!

 小出駅の外に出ると、駅舎の壁に「小出駅」と書かれたかっこいい看板を発見。近寄ると、なんと俳優の渡辺謙さんが書いたものでした。渡辺さんは魚沼市出身ということで駅名看板を手掛けたんだそう。

達筆!

小出駅はこぢんまりとしていますが、とてもきれいな駅舎でした

日本酒の美味しさを底上げするのは「雪」の力

 新潟県は日本酒生産量全国第3位、酒蔵の数は90と日本一を誇ります(新潟県産業労働観光部産業振興課資料より)。魚沼市は米どころということもあり、美味しい日本酒に出会いたい!と思った私は、今回の旅の目的の一つ、「玉川酒造」の直売所&酒蔵見学施設「越後ゆきくら館」に向かいます。

玉川酒造の日本酒の一部

 玉川酒造は、令和6年春の全国新酒鑑評会で金賞を受賞した雪中貯蔵大吟醸「越後ゆきくら」をはじめ、さまざまなお酒が日本酒コンクールで賞を受賞しているという実力を持つ酒造です。1673年(寛文13年)第4代将軍徳川家綱公の時代から日本酒を作り続けている老舗でもあります。

 玉川酒造の特徴は「雪蔵」という、雪を使った貯蔵庫。冬に積もった雪を特殊なシートで覆うことで、貯蔵庫内の温度が2~3度に保たれています。酒蔵見学ではスタッフの方が雪蔵の中も案内してくれるということで、私も申し込みました(申し込みは無料)。

左側のシートに覆われているのが雪蔵。正面は醸造蔵で、右が越後ゆきくら館

 雪蔵では大吟醸「越後ゆきくら」と、県内2ヵ所でしか買うことができないという純米大吟醸「潟王(がたおう)」が熟成中でした。今回案内してくれた観光部長兼店長の大塚照男さんによると、雪のおかげで湿度が高くて低温の環境が保たれ、角がとれたマイルドな日本酒に仕上がるのだそう。実際に雪蔵の中に入るととてもひんやりしていて、外が暑かったぶん最初はとても快適に感じましたが、だんだん寒さを感じるほど! 

雪蔵の仕組み。先程見たシートの下はこの図のようになっていて、黄色に囲われた部分が今いる場所です。前年の雪は11月頃まで残っているそう

雪蔵の中の様子。ガラスの向こうで日本酒を熟成しています

 続いては、先程の外観写真の正面に見えた醸造蔵へ。醸造蔵では、酒米の蒸し場や貯蔵タンクなどを見ることができます。何回か酒蔵見学をしたことがありますが、蒸し場が間近で見られるのはとてもレアなのでは? 10月頃から翌年の4月頃にかけて酒造りをするため、その時期の午前中に訪れれば仕込みの様子も見られるそうです。私も見てみたかった!

蒸し場が近い! 左手の銀色の箱で蒸した米を、丸い木の板の上に広げます

高さ3メートルくらいありそうなタンクが並ぶ貯蔵庫。こちらではリキュール系のお酒が貯蔵されています

 見学後は越後ゆきくら館で試飲タイム! なんとこちらでは常時10種類のお酒が用意されており、好きなものを何種類でも試飲できるんです。玉川酒造のお酒は県内で飲まれているものが多く、県外にはあまり出回りません。ということであまり見かけないお酒ばかりで、どれをいただこうか非常に悩みます。

訪れたときのラインアップ

 実は「越後ゆきくら館」は、魚沼の豪農・目黒氏の邸宅の蔵を移築したもの。目黒家で始まった酒造りを引き継いで今に至っています。そんな歴史があることから純米大吟醸「目黒五郎助」はマストでいただくことに。ほかにレアな「潟王」、ゆず酒「UZ」、日本酒ベースのリキュール「越後武士」、オーク樽で貯蔵した「越後武士 エイジドインオーク」を試飲しました。

 「目黒五郎助」は華やかで甘味があり、「潟王」は香りが強くスッキリめの味わいで、「UZ」はまるでユズのジュースのような風味。「越後武士」はアルコール度数が46度とのことで、のどにカッと刺激がくるほどの強さです。「越後武士 エイジドインオーク」は樽の香りが楽しめ、まるでウイスキーのような不思議なお酒でした。

 玉川酒造では地元の人に受け入れられるお酒からユニークなお酒まで、さまざまなものを作っています。雪蔵で熟成中だった大吟醸「越後ゆきくら」は7月1日から販売とのことで、取材のタイミングでは試飲も購入もできませんでしたが、ぜひ一度飲んでみたい!

チャンピオンベルトをイメージしたという「潟王」のラベル。地元で親しまれているという本醸造「玉風味」は、モナコSAKEアワード2023で金賞に輝きました

玉川酒造 越後ゆきくら館
住所:新潟県魚沼市須原1643
アクセス:JR只見線越後須原駅から徒歩7分、南越後観光バス「宮原」バス停から徒歩5分
HP:http://www.yukikura.com/

この人のおかげで今の魚沼があると言っても過言ではない!豪農・目黒氏のすごすぎる功績

立派な茅葺屋根が目を引きます

 「越後ゆきくら館は目黒邸の蔵を移築したもの」という話を聞いたので、目黒邸にも足を運びました。目黒邸は国指定重要文化財で、越後ゆきくら館との距離は歩いて10分ほど。試飲の酔い覚ましとしてもちょうどいい距離感です。

 魚沼市の庄屋で豪農の目黒氏は、戦国時代の大名・会津蘆名氏に仕えたのち帰農したといわれています。庄屋とは、地域のひとびとを束ねたり年貢の割り振りをしたりする、今の村長のような役割。近代になると新潟県議会議員を務めたり、帝国議会の衆議院議員を務めるなど、政界から産業、道路や只見線の整備などに尽力し、多くの功績を残しています。今に残るインフラの整備にまで関わっていたなんて、豪農の域を超えているのでは!?

目黒邸の説明

 目黒邸が建てられたのは1797年。225年以上前の建築ですが、毎日しっかり手入れがされているためとてもきれいに保存されています。中に入ると、右手には目黒家の人々が使っていた広々とした部屋、左手に使用人の部屋や馬屋などがありました。歴史系のテレビドラマや民話に出てくる家みたい!

土間から見た宅内の様子。使用人は住み込みと通いを合わせて20人ほどいたというので、相当力を持っていたことが分かります

土間の右手は3間ぶち抜きの大広間

同じ位置から左手側を撮影。囲炉裏があります

 柱などの建築素材も非常に立派。案内してくれたスタッフさんに聞くと「建築時点で200年くらい前の材料を使っているので、今から約400~500年前の木ということになる」とのこと。戦国時代の木材だなんてすごすぎませんか? 

 邸宅の中はぐるりと1周することができ、寝室や茶室、あとから増築した部屋などを見ることができます(1階のみ。2階は見学不可)。

寝室と茶室。猫足みたいなこたつがあったり、床の間に一枚板を使っていたりと裕福なことが伝わってきます

廊下にあった羽の文様。宮大工さんが、縁起のいいモチーフで虫食いの跡などを埋めて修理してくれたのだそう。他にひし形を3つ重ねたようなモチーフもありました

平屋と思いきや、裏にまわるとはなれが。左の白壁の建物はあとから増築した部分で、京都から大工を呼んで作られました。外観が銀閣寺っぽいといわれているそうですが、どうですか?

 目黒邸の主屋を出ると、「酒蔵跡」を見つけました。もとは目黒氏が酒造りを始めたとのことでしたが、越後ゆきくら館の建物はここにあったんですね!

ここに、さっきまで私がいた越後ゆきくら館の建物があったと思うと感慨深い気持ちに

 目黒邸の裏手は公園のようになっていて、散策路に沿って進むと「目黒邸資料館」に行くことができます。日記や生活用具、明治時代に入ってからの資料などが多く展示されており、目黒家が魚沼の発展や人々の暮らしにどのように関係してきたのかが紹介されています。

散策路の様子。石段などもあるので歩きやすい靴がおすすめです

目黒邸資料館

目黒邸
住所:新潟県魚沼市須原890
アクセス:JR只見線越後須原駅から徒歩5分
HP:https://www.city.uonuma.lg.jp/site/megurotei/

満開の百合の香りに癒やされる~

 魚沼といえばコシヒカリやお酒というイメージが強いですが、実はもう一つ、ぜひ見てほしいものがあります。それが百合の花。

華やかな色でとてもきれいな百合

 新潟県は全国一の百合栽培面積を誇り、その中でも魚沼市は県内最大の産地。市内の月岡公園ではそんな百合約10,000本を楽しむことができ、6月下旬~7月上旬と9月下旬~10月上旬に見ごろを迎えます。

 百合というと私はDragon Ashの楽曲「百合の咲く場所で」を思い出す世代です。そういえばまさにここが「百合の咲く場所」ですね。なんだかちょっとしみじみしました。

ちょうど夏の見ごろシーズン! 散策を楽しんでいる人もたくさんいました

月岡公園
住所:新潟県魚沼市堀之内2012
アクセス:JR上越線越後堀之内駅から徒歩20分
HP:https://www.iine-uonuma.jp/osusume/4014/

酒蔵きっかけで知る魚沼の歴史

 私は「魚沼観光というと酒蔵見学かな?」と思っていました。が、酒蔵だけでなく、その裏には街の発展に寄与した豪農がいたことなど、私が持っていたイメージと土地の歴史が地続きになっていることが知れて、まるで大人の社会科のような旅でした。「酒蔵と豪農がつながるのか!」という、パズルのピースがはまったような快感も味わえてたまりません。大人になると学びも楽しくなって、なんだか今までよりちょっと日本のことが深堀りできた気分。

 旅のもうひとつのお楽しみ、グルメ編も、ぜひこちらから読んでみてくださいね → (魚沼の旅─グルメ編

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