開発効率の改善に加えて、人材強化や買収も
では、今回、1年間に生成AI分野に3000億円を投資する狙いはなにか。
この投資は、「ソフトウェアの生産性向上」、「フロントラインワーカーの生産性向上」、「データセンターへの投資」の3点になる。また、AI人材の強化や、必要に応じて小規模のM&Aも行うことも明らかにしている。
ひとつめの「ソフトウェアの生産性向上」では、生成AIを活用したソフトウェア開発におけるエンジニア不足の解消だ。具体的には、GlobalLogicにおける生成AIの活用を促進。要件定義や設計、テスト工程でのソフトウェア開発作業効率の向上を図るとともに、ヒューマンエラーの削減による品質向上を目指すという。これを日立グループ全体のソフトウェア開発にも適用していくことになる。
2つめの「フロントラインワーカーの生産性向上」では、日立グループ社内におけるコールセンターや製造現場などを対象にした生成AI利用による生産性向上への取り組みとなる。また、そこで培ったノウハウを顧客にも展開していくことになる。
小島社長兼CEOは、「コールセンターなどにおいては、現場の知識やノウハウを存分に生かすためにも生成AIの活用は不可欠だと考えている」としながら、「日本の労働人口の8割がフロントラインワーカーであり、この領域の生産性向上は、日立グループにとっても重要な意味を持つ。また、エネルギー、鉄道、産業分野に対して、生成AIをいかに活用するかといったことも考えていく。そのための先行投資になる」とする。
鉄道や原子力プラントなどでは、現場拡張型のインダストリアルメタバースを開発。そこにも投資を行うことを明らかにした。
ここでも課題となるデータセンターへの投資
そして、3つめの「データセンターへの投資」は、データセンターを取り巻くビジネスへの投資と捉えることができる。
ここでは、主な成長投資領域のひとつとして、NVIDIAとのパートナーシップに基づいて開発を進めている高信頼データ管理ソリューション「Hitachi iQ」をあげた。
Hitachi iQは、NVIDIAの最新のAIテクノロジーをベースに、Hitachi Vantaraの次世代ストレージプラットフォームを組み合わせた新たなポートフォリオと位置づけられており、産業およびエンタープライズ市場におけるDXを加速するために、AI機能を提供することになる。第1弾製品として、NVIDIA DGXインフラストラクチャと高信頼性ストレージ上に構築したNVIDIA DGX BasePOD認証済み統合ソリューションを提供。複数のコンサンプションモデルを用意することで、必要なものだけを選択して利用できる仕組みを通じて、オンプレミスのパフォーマンス向上や、ROIの向上が可能になるという。
今後は、NVIDIA H100を搭載したハイエンドのNVIDIA HGX製品とNVIDIA H100 Tensor コア GPUおよびL40S GPUで構成するPCI-Eベースのミッドレンジ製品などのラインアップを強化。エンタープライズグレードのAIツールとフレームワークからなるソフトウェアプラットフォームであるNVIDIA AI Enterpriseも提供する。
さらに、Hitachi Vantaraでは、ファイルストレージ技術「Hitachi Content Software for File」を活用した第5世代ベースの新たな高速ストレージノードを提供する予定であり、複雑なAIワークロードに対応した高速ストレージソリューションの提供が可能になるという。
小島社長兼CEOは、「生成AIの広がりにあわせて、データ管理インフラが相当伸びると見ている。また、今後は、ストレージの成長が期待できるだろう」と指摘。「ミッドレンジモデルにおいても、パフォーマンスの改善と、チャネルの強化といった課題が解決し、この成果が2024年度には出てくる。これまでの日立とは、違う姿を見せることができる」と自信をのぞかせる。
その上で、「生成AIは、ハイブリッドクラウドで活用することが前提となるが、日立の技術はプライベートクラウドとパブリッククラウドを意識せずに利用できるだけでなく、手元のものはセキュアな環境で管理するといった使い分けができる特徴を持つ。これは、他社にはない技術であり、ハイブリッドクラウドの進展とともに、日立には大きなチャンスがあると考えている」とする。
その一方で、データセンター需要の急拡大においては、日立エンジーの受変電設備、日立グローバルライフソリューションズの冷却設備などによるオファリングを強化する考えであり、「データセンター向けに、グリーンでレジリエントなサービスを、ワンストップで提供する。ここにも投資をしていく」とした。
このように日立製作所の生成AIへの成長投資は、生成AIへの開発投資ではなく、生成AIの利活用を促進し、それを提案するための環境づくりへの投資だといっていい。それがいまの日立の生成AIとの向き合い方になる。
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