MiniDINコネクター、いわゆるPS/2が普及
話をキーボードI/Fに戻そう。5pin DINコネクターに替わり、6pinのMiniDINコネクターが採用されるようになったのは1987年だ。この年、IBMはPS/2シリーズのPCを発表するが、このPS/2で採用されたのが6pinのMiniDINコネクターである。
もっとも電気的およびプロトコル的にはAT用の5pin DINコネクターと互換性があり、純粋に機械的形状の違いのみである。だからこそ、5pin DINと6pin MiniDINを変換するようなコネクターを噛ませるだけで、従来の5pin DINのキーボードをそのまま使うこともできたし、逆に6pin MiniDINコネクターのキーボードを5pin DINのマザーボードに接続することも可能だった。
当初はそれほど普及が進まなかった6pin MiniDINであるが、Microsoftとインテルが共同で"Hardware Design Guide"(のちに"Hardware Design Guide for Microsoft Windows 95"に改称)という仕様をリリース。これに続き1996年には"PC 97 Hardware Design Guide"をリリースするが、この中でこの中でキーボードとマウスはこのMiniDINコネクターを使ったものにすることを提唱したことで一気に普及が進んだ。
IBMが偉かったのは、マウスに関しても同じ6pin MiniDINを使う規格にしていたことだ。構造的にはシリアルマウスなのだが、以後はこのMini 6pinがマウスの標準I/Fになった。この6pin MiniDINは、最初に導入したPS/2の名前を取って、PS/2キーボードやPS/2マウスとして呼ばれている。
1998年には"PC 99 System Design Guide"がリリースされ、この際には色分けも明確化された。PS/2マウスは明緑、PS/2キーボードは明紫になっているが、これは"PC 99 System Design Guide"で定められた色である。
キーボードとマウスのI/Fは、これでほぼ完成。2000年に入ると、もうバスマウスや5pin DINコネクターのキーボードは(保有して使っているユーザーはいただろうが)新品が店頭に並ぶことはほぼなくなった。
ちなみにIBM-PC/ATの5pin DINキーボードと、PS/2の6pin MiniDINキーボードでは、キーボードの側は単にコネクターの形状が変わっただけだが、PC側に若干の違いがある。IBM-PC/ATのオリジナルの場合、一度立ち上げた後でキーボードを抜くと、差し込んでももうキー入力ができなくなっていた。
これはPCとキーボードの間の通信プロトコルが、途中でキーボードが抜かれることを想定しておらず、一度抜いてしまうと同期がとれない(信号そのものはClock信号に同期する形で受け取れるのだが、どこがStart bitかを認識できないために、信号を正しくデータ化できない)という問題があった。
PS/2ではこれへの対応が行なわれており、PCを立ち上げたあとでキーボードやマウスのコネクターを抜き、再度差し込むとちゃんと使えるようになる。その意味では、ATのキーボードはPlug & Playには対応していなかったわけで、Plug & Playへの対応が主眼の1つだったPC 97 Hardware Design GuideでPS/2キーボードやマウスが必須になったのも当然と言えよう。
USBへの移行が進みPS/2の採用が減少
そんなキーボードとマウスのI/Fだが、USBの登場により、どんどんUSBへの移行が進んでいった。1998年にいきなりiMacでADBポートを廃し、強制的にUSBへの移行を行なったApple Computerは参考にならないが、AT互換機でもPS/2マウスとキーボードの端子がどんどん減ってきている。
筆者がこれまで触ってきたマザーボードで言えば、ASUSが2018年10月に発売したROG MAXIMUS XI HERO(WI-FI)には、PS/2キーボードとマウスのどちらでも接続できるポートが1つ用意されていたというのが最後で、その後はUSBのみになっている。
一応今でもPS/2キーボードやマウスは購入できる(Amazonなどで"PS/2キーボード"あるいは"PS/2マウス"で検索してほしい)が、すでにこれらに対応する新品のPCはないと言っても差し支えない状況である。その意味でも、過去のI/Fになってしまった、としていいだろう。

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