2024年の国内ビジネス戦略を説明、“すぐに使えるAI”ビジネスAIのアプローチを紹介
SAP鈴木社長、クラウドERPの浸透を経て2024年は「ビジネスAI元年に」
2024年02月16日 07時00分更新
SAPジャパンが2024年2月15日、2024年のビジネス戦略説明会を開催した。同社 代表取締役社長の鈴木洋史氏は、2024年を「ビジネスAI元年にする」と述べ、エンタープライズアプリケーションとビジネスAIの両方でナンバー1を目指すための日本市場での戦略を説明した。
「ERPもクラウド」が当たり前になった2023年
2023年のSAPは、グローバルでも日本でも好調だった。グローバルでは総売上は前年比9%増の312億700万ユーロ、中でも注力分野であるクラウドの売り上げは同23%増を記録した。「S/4HANA Cloud」の売り上げは前年比72%増となり、全体の売り上げ増を牽引している。さらに、同社が重要な指標と位置付けるカレント・クラウド・バックログ(12ヶ月先のクラウド売上見込み)は前年比27%増。
鈴木氏は「すべての指標で目標を達成、または大きく上回る結果となった」と語る。
SAPジャパンも好調だ。総売上は前年比12%増で、グローバルの増加率である9%を上回った。鈴木氏は「特に10月~12月期は前年同期比17%増となり、通年の業績を牽引した」と述べ、「日本においても、ERP領域でクラウドが当たり前の選択肢になったと実感できる1年になった」とまとめた。
ビジネスですぐに使えるAI“ビジネスAI”
2024年のビジネス戦略として、SAPジャパンは次の3つの柱を掲げる。
(1)イノベーションとポートフォリオの最適化
(2)パートナーエコシステムの拡大
(3)社会課題の解決・サステナビリティの取り組み
このうち、鈴木氏が最も時間を割いて説明したのは(1)だ。具体的には「AIを組み込んだ最先端のクラウドソリューションを提供することに注力する」という。ここ数年のSAPがフォーカスしているクラウドERPを中心に、その周辺でインダストリークラウド、サステナビリティなどのソリューションを展開し、それらをつなぐ“接着剤”としての「SAP Business Technology Platform(BTP)」を提供するという方針はそのままに、すべてのSAPソリューションにAIを組み込む。これにより、すぐにビジネスでAIが使えるようになる「ビジネスAI」を実現するとしている。
なお、ビジネスAIはSAPがグローバルで推進しているAI戦略であり、SAPのCEOであるクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏もイベントの席で、SAPのAI戦略を「ビジネスAI」と称している。
鈴木氏は「SAPジャパンでも2024年を“ビジネスAI元年”と位置付け、ローカライズなど、日本市場で提供する施策に注力していく」と述べ、「ビジネスAIを通じて経営に役立つ機能を提供したい」と続けた。
そこで重要になるのが“フィット・ツー・スタンダード”(業務を標準=ERPに合わせる)と、ERPのカスタマイズを極力しない“クリーンコア”という2つのキーワードだ。ERP本体はカスタマイズせず、その代わりにBTPで機能拡張するという手法を推奨しており、そのために「SAP Build」などの開発ツールも揃えている。これにより、アップグレードが容易になり、ビジネスAIなど最新の機能もすぐに使用できるようになる。
ビジネスAIそのものは、4層の構造となっている。一番下の要素技術の層は、Microsoft/OpenAI、Anthropic、Cohereといったパートナーが提供する生成AIの要素技術を活用する。その上に、BTP上に構築されたAI基盤「AI Foundation」があり、ここから各クラウドアプリケーションにAIが組み込まれる。最上位にあるのは、同社が2023年秋に発表したAIコパイロットの「Joule(ジュール)」だ。「話しかけるだけでERPから適切な答えが返ってくる」と鈴木氏。この4層を、プライバシーを保ちながら、安全かつセキュアな方法で提供するという。
Jouleはすでに人事向けSaaSの「SAP SuccessFactors」で利用できるほか、2024年の1月~3月期にはS/4HANA Cloud Public Editionや、BTPでも利用できるようになる予定だという。その後も利用できる範囲を拡大していく方針で、日本語への対応については「パートナーエコシステムを含めて対応中」とのこと。
今年の“推し”は引き続き「RISE with SAP」と「GROW with SAP」だ。前者はS/4HANA Cloud Private EditionとBTPの組み合わせで、大企業向けと位置付ける。オンプレからクラウドERPへの移行や新規導入に必要な技術とサービスを組み合わせたもので、2023年にはNEC、ダイキン工業、日立造船などがRISEを採用した。後者は中堅・中小企業向けで、S/4HANA Cloud Public EditionとBTPを組み合わせた。鈴木氏によると「2023年、日本におけるS/4HANA Cloud Public Editionのビジネスは、金額と件数の両方で世界の平均を大きく上回った」という。
パートナーにもクリーンコア戦略を浸透させる
2024年のビジネス戦略、2つ目の柱はパートナーエコシステムの拡大だ。
2023年はパートナー再販のクラウドビジネスが前年比44%増となった。42社が新たにパートナーとして加わり、SAP認定コンサルタントの数は前年から11%増加。こうした動きを牽引しているのは中堅・中小向けだという。「中堅・中小向けは新規案件は100%パートナー企業から再販している。GROW with SAPで協業するパートナー企業が増える形になった」と鈴木氏。中堅中小企業は「最も伸びている領域の1つ」であり、パートナーエコシステムビジネスに手応えを感じているという。
今年も新規パートナーを拡大する方針で、中でも「SaaS志向のパートナーを拡充していく」と鈴木氏は語る。パートナーの自走ビジネスを実現するために、導入段階前のマーケティングや営業活動といった段階から支援も行う。クリーンコアやフィット・ツー・スタンダードを進める方針を浸透させるために、プロジェクトの支援担当者を設置して品質の向上を支援したり、本番稼働後のポストセールス活動などの伴走型協業も進めるという。また、パートナーソリューションを「SAP Store」で販売するなど、拡販の支援も行っていく。
3つ目の柱、社会課題の解決・サステナビリティについては、複数の取り組みを紹介した。中でも、年初の能登半島地震では避難所情報の集約と可視化という支援を行った。具体的には、市町村が管理する指定避難所のデータ、自衛隊などが収集した孤立集落のデータなどがバラバラに混在していたものを、データを突き合わせて網羅的に可視化し、石川県の防災システムに統合するアプリケーションを、SAP BTPを使ってわずか3日で開発、提供したという。
最後に鈴木氏は、「グローバルでナンバー1のエンタープライズアプリケーションとビジネスAIカンパニーになる」という目標の達成に向けてSAPジャパンが貢献するために、社員のアイディアで意見を出し合って策定したという「中期変革プログラム」(2024年~2026年)にも触れた。「200人を超える社員が自ら、顧客、社員、社会の成功をサポートする3つのサクセス活動、そしてSAPジャパンの成長のためのグロース活動の両輪で、一体となって推進していく」と鈴木氏。
鈴木氏は「ビジネスAIは、日本が“失われた30年”を取り戻す最大のチャンスだ」と語る。IMD「世界競争力ランキング」2023年版において、日本はOECD 64カ国中35位という過去最低の順位を更新したが、4つの指標の中でも特に低かったのが「ビジネスの効率性」(64カ国中47位)だった。
「世界と比較すると、日本企業は全体最適のプロセスという点で遅れていると言わざるを得ない。これからクラウドで、ビジネスAIを活用しながら仕事のやり方をシンプルにし、効率化し、生産性を世界レベルに引き上げてほしいと願っている。そうした取り組みに対し、SAPジャパンはパートナー企業との連携を強めて推進していきたい」(鈴木氏)