インバウンドでキッチンナイフが売れている
キッチン用品の専門店が集まる、東京・合羽橋(かっぱばし)。昔はプロ専門店ばかりで、一般客には肩身が狭い雰囲気というか、人によっては「シロートは来るんじゃねーよ!」と言われているように感じたかもしれません。
しかし、最近は海外からの観光客や、一般の人も多く、食器1点からでも購入可能なお店がほとんどになりました。
とくに、キッチンナイフ(包丁)が海外からのお客様には人気なんだとか。専門店の中には、スタイリッシュに包丁が並べられ、店員さんも外国語に堪能という、アップルストアみたいなお店もあって賑わっています。
世界の刃物の名産地は、日本の関、堺、三条、ドイツのゾーリンゲン、フランスのラギヨール(ライヨール)などが有名です。そういえば、筆者もドイツに旅行したときのお土産にキッチンナイフを買ったことを思い出しました。
今では世界中の商品が自宅に届きますが、キッチンナイフは自分の手で持ちながら選びたいというのは、世界共通で今も変わらないのでしょう。
筆者が購入したのは、ダマスカス鋼+アバロンシェルハンドル
最近のキッチンナイフの特徴は、装飾性が加わっていること。特にハンドル(持ち手)に美しい素材が使われることが目立ってきました。
今回、購入したキッチンナイフは、刀身にダマスカス鋼、ハンドル部分にはアバロンシェル(アワビ貝、孔雀貝)がポリプレン樹脂で封入されています。ファンタジー世界のアイテムのようですが、れっきとしたキッチンナイフ。
ダマスカス鋼は、木目のような模様が浮かび上がった鋼材です。十字軍の時代には王家の家宝とされており、長らく、一般の人たちには縁遠い素材でした。近年では製造法が確立され、手の届く価格帯になりました。
刃の部分には、研ぎ易く切れ味の続く「V金10」(ステンレス刃物鋼の一種)が使われているそう。
実は、筆者はダマスカス模様もアバロンシェルも大好き。その2つが揃ったキッチンナイフを見つけ、思わず購入しました。ステンレスなので手入れが簡単。刀身とハンドルの接合部が、汚れがたまりにくい口金一体になっているところも筆者好みです。
キッチンナイフの種類
購入したのは、刃渡167mmの三徳包丁と、126mmのペティナイフの2本。筆者がもっとも使うのは小型のペティナイフ。キャベツや白菜など、大きめの食材には牛刀を使っています。
今回、大きいキッチンナイフを牛刀ではなく、三徳包丁にした最大の理由は「研ぎやすさ」です。牛刀はスタイリッシュで使いやすい反面、刃先のカーブ部分が長く、刃先の研ぎがやや難しくなります。また、砥石も中央が減りやすいため、砥石を研ぐという作業を減らしたかったこともあります。
ちなみに三徳包丁の「三徳」とは、「肉、魚、野菜など幅広い用途」の意味だそうです。
もし、はじめてワンランク上のキッチンナイフを購入するなら、以下を参考にするといいでしょう。
・自分で研ぐなら、1本目は(研ぎやすい)三徳包丁。2本目は小型のペティナイフ。
・自分で研がず、専門家に任せるなら、1本目は(切れ味の落ちにくい)牛刀。2本目は小型のペティナイフ。
いずれにしても、使う本数が増えるほど、1本を酷使することがなくなるわけですから、刃が悪くなりにくくなります。
メンテナンスのタイミング
筆者はキッチンナイフを購入すると、そのまま使う場合と、研いでから使う場合があります。
キッチンナイフの多くは「すぐに使えるように研いである(本刃がついている)」がほとんどですが、メーカーによっては研ぎがほどほどなことや、自分好みの切れ味でないことがあるからです。専門の刃物屋さんで購入すると、目的に合わせて研いで渡してくれることもあります。
筆者は購入後に、新聞紙やコピー用紙を刃全体で試し切りをするか、実際に料理に使ってみて、研ぐかどうかを決めています。今回購入した2本は、よく切れたので研がずに使っています。
キッチンナイフを使っていて「切れ味が悪くなってきた……」と感じるタイミングは、トマトの皮などが切りにくくなったとき。そんなときはナイフをローテーションしていき、時間が空いたときにまとめて研ぐようにしています。筆者のペースなら3〜6ヵ月くらいで研ぐことがほとんど。1本あたりだと、1〜2ヵ月に1度くらいのペースになるでしょうか。
筆者の所有する砥石は3種類
筆者はキッチンナイフ用に3種類の砥石を使っています。刃を鋭くするための1000番前後の中砥石、3000番程度の仕上げ砥石、砥石の表面を平滑にするための「面直し砥石」です。中砥石と仕上げ砥石は両面になっているタイプなので、3種類、2つの砥石を使っています。
研ぎ方については、文章で説明するだけではニュアンスが伝わりにくい面もあります。YouTubeなどに多くの動画が上がっているので、そちらを参考にしていただくとわかりやすいでしょう。もちろん、ほとんどの販売店で研ぎを受け付けていますので、苦手な人は自分で研ぐ必要はありません。
もし自分で研ぐなら、水仕事なので、冬などは温かい日中にするのがお勧めです。また、鉄粉で爪先が黒くなるので、筆者のように指先を見せる仕事の方は注意が必要。
自分の道具を、自分のためにメンテナンスする楽しみ、使う喜び
料理や調理道具の手入れを「めんどうくさいなあ……」と苦痛に感じる方もいらっしゃるかもしれません。そんな方には、すこしだけ良いキッチンナイフを持つことがお勧めです。
自分のお気に入り、それも切れ味バツグンのキッチンナイフがあれば、不思議と「料理したいなあ」とモチベーションが上がること請け合いです。料理の材料が、スパッと切れるというのは、意外に快感なのです。
それとも、道具が使いやすいだけでモチベーションが上がる筆者が、単純すぎるのでしょうか……?
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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