ビューティーテック×AI/DXデータフォーラムレポート、AOSデータが推進する美容領域のDX
JALらが挑んだ「サウナテック」、テクノロジーによりサウナの混雑平準化に至るまで
2023年11月17日 08時00分更新
データアセットマネジメント事業を展開するAOSデータは、2023年11月9日、「ビューティーテック×AI/DXデータフォーラム」を開催した。
美容産業においてデータやテクノロジーを活用し、DXを推進する「ビューティーテック」に関心が高まっていることを背景に開催したもので、よりパーソナライズ化した美容ソリューションの提供や、企業競争力の強化につながるとして注目される領域だ。調査によると、ビューティーテック市場は、2022年には全世界で621億ドルの市場規模であり、2030年には1891億ドルと、約3倍に拡大すると予測されている。
会場には、ビューティーテックに関心を寄せる美容産業やIT関連企業の関係者などが集まり、専門家による、同業界における課題や今後の方向性や、ビューティーテックによるDXの取り組み事例が紹介された。
今回のイベントのなかで話題を集めたのが、「JALがサウナ事業!?サウナ室の混雑状況を可視化するDXソリューション」と題した講演だ。ビューティーテックの具体例のひとつとして、JALが取り組むサウナ×テクノロジーである「サウナテック」が披露された。
サウナー待望のサウナ室の混雑可視化に挑む
JALでは2018年にサウナ部を立ち上げ、現在530人が参加しているという。2019年からは、コクヨをはじめとする7社で「Japan SAUNA-BU ALLIANCE」を発足。現在、約200社が加盟しているという。
こうした活動をベースに、2019年には、サウナをテーマとした事業化の第一歩として、JAL「サ旅(サウナ旅)」ウェブサイトを開設。2021年からはJALサ旅ダイナミックバッケージの販売を開始。自治体向けサ旅プロモーションメニューの展開や、サ旅トラベラーズグッズの販売などを手掛けてきた。
そして、2023年2月には、「サ旅」に続く、JALの新たなサウナ事業ブランドとして「TOKYO SAUNIST」を発表。サウナ領域の新たな事業展開を開始している。
日本航空の事業開発部サウナテック事業統括である岡本昂之氏は、「いまは、第3次サウナブームと言われており、Googleの検索数では、『サウナ』が、2017年以降、右肩上がりで伸びている。月に1回以上、サウナに入る人は1400万人と言われており、20代、30代からの支持が高く、男女比も6対4となっている。もはや近代的カルチャーとして定着している」と説明する一方で、「どこに行ってもサウナ室が混雑しているという課題がある。この課題解決にアプローチしたのが、TOKYO SAUNISTになる」と事業を位置づける。
TOKYO SAUNISTは、サウナを新設して混雑を解消するアプローチではなく、サウナ室の混雑状況や利用状況を、データの活用によって可視化し、混雑していない施設を選択したり、時間帯を変えることで、混雑の平準化を狙う。「あと2時間でサウナが空くことがわかれば、先に食事をするなど対策がとれ、ストレスなくサウナを利用できるようになる」と提案する。
難航するサウナテック ― 利用者がなにも所持せず、カメラを使わずに人数をカウントする方法は
だが、テクノロジーを組み合わせるには意外な盲点があった。サウナ室のなかにいる人は裸であり、スマートウォッチを装着したり、スマホを持ち込んだりする人がいない。また、サウナ室内の様子を画像分析するためにカメラを設置するのも、サウナ室の特性上、現実的ではなかった。
本プロジェクトのパートナーとして選ばれたアクティア 代表取締役の北野幸雄氏は、「話をもらったときに、できるといってしまった手前、悩みに悩んだ」と振り返る。タグを装着してもらうといった制約をつけると利用されにくくなるため、利用者がなにも所持せずに、カメラも使わずに、人数をカウントしなくてはならないという点がハードルを高めた。試行錯誤を繰り返すなかで辿り着いたのが、自動運転などに利用される3D LiDARセンサーだったという。
センサーメーカーに飛び込み、5日間の貸与期間内に、MVP(Minimum Viable Product)を構築、実験したところ、「想定通りに動き、これでいけるという手応えを得た」という。これをもとに、3カ月間をかけてプロトタイプを完成。新宿・歌舞伎町のテルマー湯で実証実験を行った。
3D LiDARセンサーをサウナ室の入口に設置し、サウナ室に出入りした人数をカウントすることでサウナ室内の人数を把握できるようにした。この情報をもとに、露天エリアで外気浴をしている人などに対して、モニターでサウナ室の状況をリアルタイムで通知し、空き状況にあわせて行動ができるようにした。
「サウナ室は外から中の様子が見えず、サウナ室の形も様々であるため、サウナ室に入って奥まで見回した結果、混雑していて入れないことがある。入ろうとした人は気まずく、中にいる人も温度が下がり、なるべくドアを開けないでほしいと感じる。モニターがあるだけで、こうしたちょっとしたストレスや課題を解決できる」(日本航空の岡本氏)という。この仕組みがあることで、離れた休憩エリアにいながら、2セット目のタイミングを図ることも可能だ。
また、施設側でもこのデータをもとに、時間帯ごとの混雑状況の確認のほか、曜日別、天気別、イベントとの連動などによる混雑も分析でき、それにあわせたスタッフの配置や、細かい作業指示も行える。ちなみに、20分間に渡って動きがないことを確認すると、人が倒れている可能性があると判断して、アラート通知を発信する機能も備えている。
さらに、このデータをクラウドにあげ、開発中のモバイルアプリで閲覧できるようにすることで、サウナ施設に行こうとしている人にも情報を提供できる。
TOKYO SAUNISTが推進するサウナのデジタルトランスフォーメーション
TOKYO SAUNISTの設置および運用費用は、施設側が負担するため、導入メリットを明確に訴求する必要があるという。サウナブームの中ではあるが、閉店する施設もあり、エネルギーコストの高騰もあいまってサウナの運営は決して楽ではない状況だ。
アクティアの北野氏は、「サウナ室の状況を把握し、スタッフが巡回する回数を減らすことで、スタッフの配置変更ができ、結果としてコスト削減につながる。また、空いている時間帯をクーポン発行機能により埋めて、売上向上に貢献することもできる。コスト削減と売上向上の両面でメリットを訴求する」と述べた。
現在、テルマー湯や満天の湯でTOKYO SAUNISTを導入しているほか、複数の温浴施設で導入を検討しているという。
さらに、TOKYO SAUNIST Ad Placementという新たなビジネスモデルの提案も開始している。サウナ室前や外気浴スペースのリアルタイムモニターに、広告を掲載する機能を実装。これにより、施設側の運用コストの負担を下げたり、新たな収益源を確保することもつながる。「気持ちが落ち着いているポジティブな状態で広告を見ることができる。化粧品やコスメの販売や、サンプル品の提供といった、サウナに適した販促にも利用できる」(日本航空の岡本氏)という。
講演の最後に、日本航空の岡本氏は、「ニーズ、課題、ペインから始めないと、ビジネスにはつながらない。課題解決のために、他社と連携し、テクノロジーを活用していくことが、成功への近道になる。今回の取り組みを通じて再認識したのは、課題とテクノロジー、ビジネスという3つを明確にすることが大切だという点」と語った。