次はAppleみたいにイノベーションを生み出す銀行を
永吉氏は、時には破天荒に変革を進める中、これまでの変革の延長線として、日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」の立ち上げをリードする。2021年5月に設立したみんなの銀行は、最初からDXが推進されている状態を前提として、ここからどうやって銀行取引を提供するかをゼロベースで設計するというアプローチをとった。
Wallet+は、iPhoneみたいな金融サービスを作ろうとして始めたが、銀行はプロダクトではなく、いろいろなサービスがあって成り立つ。「だったら次はAppleみたいにイノベーションを生み出すような銀行を作ろうと決めた」と永吉氏。
みんなの銀行は、銀行として必要なミニマムな機能だけ備え、「スマートフォンだけあれば、財布と銀行の機能がワンストップで終わる」という、銀行と財布が一体化したデジタルウォレットの世界を目指して、サービスを展開する。順調に顧客は増え続け、年度末には、100万口座の開設を目指しているという。
デジタルネイティブ世代、スマホネイティブな世代に刺さるようなサービス提供を心掛けており、実際に顧客の7割以上を10代から30代が占める。ちなみに、福岡銀行は40代以降が7割だそう。なぜデジタルネイティブ世代をターゲットにするかというと、最初に社長からミッションとして与えられた“10年後の銀行”において、メインの顧客になるのがこの世代だからだ。
銀行から一線を越えず、銀行らしさから脱却するためのせめぎ合い
永吉氏は、大きな銀行の中で、新規事業を立ち上げ、銀行らしくない銀行を作ろうという挑戦を続けてきたが、「銀行であることを脱却しては駄目」だと言う。銀行というのは信頼でビジネスをしており、銀行から一線を越えるとビジネスが成り立たないからだ。
でもやっぱり銀行らしさは脱却したいよねという想いで、社内には多くのデザイナーがいる。もちろんn銀行のプロフェッショナルである銀行員もいる。デザイナーはシンプルにしたいとプロダクトを引き算で創る思考があり、銀行員はリスクヘッジのために足し算で創る思考がある。みんなの銀行では、その2つが戦って、プラスマイナスゼロにどうやってもっていくかに苦慮しながらサービスを開発しているという。
また、システム面でも、自分達のサービスは自分達でエンジニアリングしたいという考えで、社内の40%をエンジニアが占める。結果、全体の7割が、銀行員ではないキャリア採用のメンバーで構成され、「普通の銀行は99%、純血の銀行員しかいない」と永吉氏は言う。こういった新しい組織のコミュニケーションを管理するには、組織のカルチャーが不可欠と補足する。
永吉氏は、これまでキャズムをいくつも超え、ネオバンクの先駆けとなるWallt+を生み出し、日本初のデジタルバンクを立ち上げた。「イノベーションのジレンマに対して、時には壁を乗り越え、時には壁に穴をあけ、あるいは壁には触れずに避けることで、チャレンジを続けてきた。新しい銀行の形を目指して、まだまだいろんなチャレンジを続けていきたい」とセッションを締めた。