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Slack CTO カル・ヘンダーソン氏インタビュー

Slack GPTで生成AIの「インテリジェンス」が加わったSlack、どう変わるのか

2023年08月09日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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 2023年5月、セールスフォースが生成AIをSlackに統合してさまざまな機能を提供可能にする「Slack GPT」を発表した。

 7月20日に東京で開催された「Salesforce World Tour Tokyo 2023」(以下、SWTT)のSlack基調講演では、生成AIの統合による幅広い機能強化によって、Slackが従来のプロダクティビティ(生産性)プラットフォームから「インテリジェントプロダクティビティプラットフォーム」へと進化することが協調された。

Slack GPT インタビュー

Slackが「インテリジェント」プロダクティビティプラットフォームへと進化

 このSlack GPTによってどんな機能が追加されるのか、また“インテリジェントな”プロダクティビティプラットフォームとはどんなものか。SWTTの会場で、Slackの共同創業者でありCTOを務めるカル・ヘンダーソン氏にインタビューした。

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Slack 共同創業者 兼 CTOのカル・ヘンダーソン(Cal Henderson)氏。スニーカーファンの同氏、この日は「美しいブルー」が気に入っているアディダスのスニーカーで登場

Slack GPTで提供される生成AIの機能とは

――まず「Slack GPT」という名前が何を指すものなのかを確認させてください。これは特定のツールや機能を指すのか、それとも生成AIを取り入れたSlack全体を指す“ブランド名”のようなものなのか、どちらでしょうか。

ヘンダーソン氏:後者の意味合いでとらえてほしい。Slack GPTは、たとえばSlackに搭載されるネイティブAI機能、AIによるワークフローの高度化など、Slackの生成AIに関するあらゆる取り組みを包括的に指している。

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――今日の(SWTTの)基調講演では、Slack GPTによる新機能がいくつか、デモをまじえて紹介されました。あらためてどういった機能が提供されるのか、ご紹介いただけますか。

ヘンダーソン氏:Slack GPTの機能群は大きく2つに分類できる。1つはSlackネイティブの(Slack組み込みの)AI機能、もう1つはSlackのプラットフォームを介して(外部アプリとの連携などで)実現するAI機能だ。

 ネイティブのAI機能としてはまず、チャンネルやハドル(ミーティング)の情報を要約する機能が提供される。これはどんなときに便利か。たとえばプロジェクトの新規参加者が、プロジェクトのチャンネルに書き込まれた過去1カ月間のメッセージをAIに要約させて、現在どんな活動をしているのかを簡単に把握できる。また自分が休暇を終えたときに、要約を読んで休暇中に起きた重要な出来事を知ることもできるだろう。ハドルによるビデオ会議や音声会議の内容を要約して、今後のアクションアイテム(行動計画)を箇条書きにまとめることもできる。

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基調講演で披露されたデモより。ハドルミーティングの内容を生成AIが要約し、さらにアクションアイテムもワンクリックで自動生成した

 もうひとつのネイティブAI機能が「インフォメーションリトリーバー(Information Retriever)」だ。長年にわたってSlackを活用している顧客組織では、メッセージが数百万、数千万、数億の規模で蓄積されている。インフォメーションリトリーバーは、このメッセージの蓄積を「ナレッジベース」として活用可能にする機能だ。たとえばわたしがある顧客に初めて会う際、あらかじめ知っておいたほうがよい情報を問い合わせることができる。あるいは何か業務課題が発生した際に、過去に似た課題があった場合には、こうして課題を解決したという事例を過去の情報から引き出してくれる。

――デモではAIによる文章作成機能も紹介されていましたね。まとまりのない冗長な文章を書いてしまっても、生成AIがそれをまとめ直してくれるということで、個人的にはとても期待しています(笑)。

Slack GPT インタビュー
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デモより。「Slack Canvas」に冗長な文章で書かれたミーティングの目的を、生成AIが一瞬でわかりやすく整理した

ヘンダーソン氏:一方、プラットフォームを介したAI機能としては、ワークフローの中で生成AIの機能が活用できるようになる。

 基調講演では「Sales Cloudに新しい顧客情報が登録されたら、その情報をChatGPTに渡して送付するメール文面を自動生成させ、メール文面をGoogle Docsに書き込み、その地域を担当するセールス担当者にSlackで通知する」というワークフローが紹介されていた。このワークフローでは、Slackプラットフォームを介して(外部サービスも含む)複数のサービスを統合し、生成AIの処理も自動化している。

 現在、Slackで開発されるワークフローのおよそ8割はノンテクニカルな従業員、つまりIT部門ではなくその他の部門の従業員が開発したものになっている。われわれはそうした非技術系の人々が、ワークフローを通じて容易に生成AIへアクセスできるようにしたい。また将来的には、自然言語で指示するだけでワークフローが自動的に生成されるような、そんな世界も考えている。

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ワークフローにも生成AIの機能を容易に組み込めるようにして、幅広いユーザーの生成AI活用を支援する

――今回デモで紹介されていたSlack GPTの機能群ですが、いつごろから、どのプランで利用できるようになるのでしょうか。

ヘンダーソン氏:これらの機能は現在、社内と限定された一部顧客においてテスト中だ。いつリリースするのか、どのプランで利用可能なのかについてはまだ発表していないが、われわれとしては1日も早くリリースしたいと考えている。

AIの進化によって、人間の業務ではよりコラボレーションが重要に

――もうひとつ、今回は「Slack Sales Elevate」も紹介されていました。これはSalesforceの「Sales Cloud」とSlackを連携させた新しいプロダクトですが、具体的にどんなことが実現するのでしょうか(※筆者注:8月2日に一般提供開始を発表)。

ヘンダーソン氏:Sales Elevateは、営業担当者などが利用するプロダクトだ。Slackから1クリックで、Sales Cloud上のさまざまな案件をアップデートすることができる。これまでSales Cloudのユーザーからは「情報のアップデートに時間がかかり、本来の営業活動がなかなか進まない」という不満が聞こえていたが、それを解消するものだ。

 Sales Cloudに新たな顧客情報が登録されたり、情報のアップデートがかかったりすると、セールス担当のSlackチャンネルに通知がなされる。さらに、更新内容に応じて自動的にワークフローがトリガーされ、担当者のアクションを促すことも可能だ。

 個人への通知ではなくSlackチャンネルへを通じて情報を伝達することで、チーム全員に同じ更新情報が共有されるので、顧客の状況が変化したら皆で協力して即応することができる。素早くアクションが取れることで時間の削減、案件成約までの短期化、そして成約率の向上も実現する。

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SlackとSales Cloudの連携を強化する「Slack Sales Elevate」

――最後に、今回の基調講演では、Slackがこれまで提唱してきたプロダクティビティプラットフォームから「インテリジェントな」プロダクティビティプラットフォームへの進化というメッセージが打ち出されていました。それはどういう意味か、そして今後のSlackはどう成長していくのかを教えてください。

ヘンダーソン氏:Slackはまず「メッセージのチャンネル」として誕生し、そこに外部アプリケーションやデータも加わって「生産性を上げるプラットフォーム」へと進化してた。ここに今回「インテリジェンス」が加わる。

 先ほど紹介したとおり、インテリジェンスによって自社のSlackをナレッジベースとして新たな価値の源泉とすることができ、よりスピーディに仕事が進むようにもなる。

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インテリジェンスが追加されることで、生産性向上が新しい段階に進むと語る

 未来のことを予測するのは難しいが、ひとつ断言できるのは、AIのインテリジェンスが進化することで定型作業の自動化が進むということだ。そして、そのぶんだけ人々は「人間にしかできない」業務、具体的には人と人とのコラボレーションや創造性が必要とされる作業に特化していくことになる。

 コラボレーションがカギを握るとなると、組織におけるコミュニケーションの形態は今以上に複雑になってくる。つまり、企業にとってグローバルにコラボレーションできる環境がますます重要となり、そうしたコラボレーションを業務の中核に据える企業が、今後10年間にわたって成功を収めていくことになるだろう。

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