Steam DeckやROG Allyが登場した背景に迫る!
ゲーム機型PCの歴史を振り返り、流行り始めた理由と今後の行方を考えてみた
2023年07月10日 09時00分更新
ジョイスティックなどを搭載し、ポータブルゲーム機のような形状のPCが増え続けている。では、どういった流れでこのような製品が増えてきているのか、黎明期から取材してきた観点を持って考察し、今後についても予想してみたいと思う。
ゲーム機型PCの歴史は2016年発売の「GPD WIN」から始まった
そもそも、ゲーム機型のPCは中国の深センに本社を置くGPD Technology(GPD)がクラウドファンディングサイト「Indiegogo」で資金調達し、「GPD WIN」を販売したところから始まっている。

初代「GPD WIN」は丸みを帯びたキーのキーボードを備え、その上にジョイスティックや十字キーを備えていた。操作はヒンジ近くのスイッチで、マウスモードとDirectInput、Xinputが切り替えられた。CPUはインテル「Atom x7-Z8750」(4コア、最大2.56GHz)を採用(後に変更)
元々10型以下のディスプレーを搭載した小型PCは、Microsoftが2006年に定義したUltra-Mobile PC(UMPC)や、ハンドヘルドPCなどと呼ばれる。当初はキーボードを持たずに一部の操作キーとソフトウェアキーボードで操作するタブレットに近い形状のものや、クラムシェル型、2 in 1といった種類が登場した。
東芝の「Libretto」や富士通の「LOOX U」、その後工人舎などの国内メーカーからも数多く販売されたが、主にビジネス用途がメインでゲーム用途ではなかった。そんななか、インターネット上のサービスを利用することを想定した安価なネットブックの登場により需要が減り、省電力CPUの性能不足により衰退していった。
その後、2014年にはインテルのBay Trail世代のCPUが登場し、性能がやや実用的になったが、10型以下のディスプレー製品は『艦隊これくしょん』(艦これ)の流行もあり、Windows 8/8.1搭載タブレットに取って代わられた。
『艦これ』の流行が落ち着いた後、Windowsタブレットは、一部ビジネス用途などで残りつつ話題が終息。GPD WINの「Indiegogo」資金調達は、そんな流れの後にゲームプレイを想定した小型PCの新たな形として、2chなどの大手掲示版やSNSを通じて、一部のハードウェア好きを中心にひっそりと話題になっていった。
2020年以降GPD以外のメーカー製品も登場
2017年にはクラウドファンディングサイトにて「PGS Hardcore」が、2018年には「SMACH Z」が資金調達を経て先行予約を開始していたが、いずれも販売されることはなかった。その後、One-Netbookが2020年にいち早くLTE通信に対応した「OneGx1」を、2021年にAYANEOが「AYA NEO」を発売。2022年にAOKZOEが「AOKZOE A1」を販売した。

Kickstarterで40万ドルの資金調達をして2chやSNSでも話題になっていたPGS Labの「PGS Hardcore」。5.7型ディスプレーを搭載。解像度は2560×14440ドットで、CPUはインテル「Atom x7-Z8750」(4コア、最大2.56GHz)、メモリーがLPDDR3 8GB、128GB SSDを搭載。Windows 10(64bit)とAndroid 6.0のデュアルブートを謳っていた。かつては公式サイトもあり、今でもYouTubeに動画は残されているが、その後活動報告がなくなり、資金提供者に製品が届くことはなかった(筆者も含めw)

Kickstarterで47万ユーロの資金を集めた「SMACH Z」は、6型フルHDディスプレーにAMD「Radeon Vega 8」を内蔵するAMD製APU「Ryzen Embedded V1605B」を採用した製品。2018年に東京ゲームショウでも出展され、最終テストサンプルが触れたが、開発元のSMACH Teamが破産寸前と言うニュースが流れ、その後発売されることはなかった(筆者も予約購入していたが……)

「OneGx1」は7型(1920×1200ドット)ディスプレーを搭載したクラムシェル型のモバイルノートPCの両サイドに着脱式のコントローラーを接続した製品。コントローラーは物理接続ではなくBluetoothで接続し、あくまで固定しているといった形。さらに、この手のゲーム用途を謳う製品では、GPDより早く4G LTEのモバイル通信に対応した点もポイント

その後、One-Netbookもキーボードがないゲーム機型の「ONEXPLAYER」を2021年8月に発売。ディスプレーは8.4型(2560×1600ドット)と、競合他社よりも大きく、高解像度。最上位モデルのCPUはインテル「Core i7-1165G7」(4コア/8スレッド、2.8~4.7GHz)で、ストレージが2TB SSDと大容量だった

「ONEXPLAYER」発売より少し前に、GPDはスライド式キーボードを搭載した「GPD WIN 3」を発売。後にAYANEOも「AYANEO SLIDE」を発表したが、スライド式キーボード搭載機としては初の製品として注目された。CPUは当初インテル「Core i7-1165G7」(4コア/8スレッド、最大4.7GHz)を搭載したが、その後別のCPU搭載モデルも販売された

2021年3月にIndiegogoにて資金調達し、CPUにAMD「Ryzen 5 4500U」(6コア/6スレッド、最大4.0GHz)を採用した「AYA NEO」。「SMACH Z」が発売に至らなかったため、ゲーム機型PCとしては初めてAMD製プロセッサーを採用した製品となった。写真はIndiegogoで資金援助したユーザーが入手できたFounder Edition。国内正式販売版はブラックとホワイトの2種類で展開された

2022年10月に発売された「AOKZOE A1」は、上海を拠点とするAOKZOEが開発した製品。CPUにAMD「Ryzen 7 6800U」(8コア/16スレッド、最大4.7GHz)を採用。ディスプレーは8型(1920×1200ドット)のIPSを搭載
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「Steam Deck」の登場でより幅広い層の注目を集める
そして、昨年2022年の東京ゲームショウにてSteamで知られるValveが同社のSteamOSを搭載した「Steam Deck」を出展し、多くのゲームユーザーの注目を集め、2022年12月より国内にて出荷を開始。2023年4月1日のエイプリルフールに突如、大手グローバルメーカーであるASUSが公式YouTubeチャンネルにて動画を公開して話題となった「ROG Ally」が2023年6月に発売され、そのコスパの高さもあって一時期BCNのノートPC売り上げでも1位になるほどに売り上げた。

Steam DeckはAMD製カスタムAPU(Vah Gogh)を採用。7型(1280x800ドット)のディスプレーを搭載し、最も安価なモデルは64GB eMMC内蔵で5万9800円と、競合他社製品よりも安く購入ハードルが低いことでも注目された。最大の特徴はOSにSteamOSを採用し、起動するとすぐにゲームがプレイできるなどSteamに特化している

ASUS「ROG Ally」は、AMDが発表したハンドヘルドPC向けの新CPU「Ryzen Z1 Extreme(8コア/16スレッド、最大5.1GHz)を採用した7型(1920×1080ドット)ディスプレーを搭載したゲーム機型PC
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GPD WINが登場した頃は、省電力なCPUを搭載し、低解像度で軽いFPSをカジュアルに遊ぶか、アドベンチャーゲームや2Dのアクションゲームをプレイする程度の性能で、PCゲーマーというよりは、ハードウェア好きが購入していた印象。
その後、より動作の重いPCゲームもプレイしたいという世界中のユーザーの要望に応えるよう各社高性能なモバイル・プロセッサーを採用し、冷却性能の向上もあり、今に至る。
大手PCメーカーのさらなる参戦も!?
省電力CPUを搭載した製品の再登場もあり得る
当初は中国やアメリカの新興メーカーがクラウドファンディングでの資金調達の元、受注生産から量産化する、といった流れだった、しかし、そうした新興メーカー製品がある程度売り上げ、ゲームユーザーの関心が高まった事で、Valveの「Steam Deck」やASUSの「ROG Ally」が登場してきた、と思われる。
実際にASUSは、「ROG Ally」の開発に5年かけているので、開発が始まった時期はGPD以外の新興メーカーが出始めた頃と重なる。2021年の1月のCESでは、NECがヒンジ部分で360度回転する2 in 1ノートPCの両サイドにOneGx1のようにコントローラーを取り付けて携帯ゲーム機となる「LAVIE MINI」のコンセプトモデルも発表していたので、密かにゲーム機型のPCを開発している大手PCメーカーがいてもおかしくない。

8型ディスプレーを備え、CPUにインテル「Core i7-1180G7」(4コア/8スレッド、最大4.6GHz)を搭載すると発表していた「LAVIE MINI」。一般的なノートPCのように使う「PC Style」とキーボードを折りたたみ専用ドックに接続し、画面タッチで操作する「TV Gamig Style」、コントローラーを取り付けた「Portable Gaming Style」と、3つのモードで使えるとしていた
また、GPD WIN登場以降は、より高性能なCPU、より高解像度で、どれだけ快適にゲームがプレイできるかで、製品開発が行なわれていた傾向が強いが、「Steam Deck」や「ROG Ally」のようなお買い得な製品が登場したことで、ハイエンドなユーザー向けとは別に、コスパの高い軽いPCゲームをプレイするユーザー向けのモデルも販売されるかもしれない。
ゲーム機型の製品の共通の弱点は、持ち運びを重視するあまり軽量化もあって、重いゲームをプレイすると約2時間くらいしか持たないバッテリー駆動時間だ。PCに詳しいユーザーからすれば、ノートPCよりもサイズと重量が軽いため、バッテリーサイズも限られ、駆動時間も短くなるのは仕方がないと理解するところもある。
しかしながら、PCに詳しくないNintendo Switchや、かつてのPlayStation Vitaなどを愛用してきたゲームユーザーの比較対象は、そうした携帯型ゲーム機になる。携帯ゲーム機の駆動時間は、プレイするゲームにもよるが、約3~5時間といったところだ(最新のNintendo Switchは公称約4.5~9時間を謳っている)。
そのため、AAAタイトルが低解像度で遊べる高性能CPU搭載機ではなく、軽いPCゲームをより長く遊べる省電力CPUを搭載した安価なモデルが生まれる可能性もあると考える。実際に初代GPD WINが発売された当初は、限られた解像度、画質で自分が好きなゲームが動くだけで満足しているといった声も多かった。
省電力CPU搭載したPCでも、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が今年5月に「PlayStation Showcase」にて発表した、リモートプレイ用デバイス「Project Q」のようなリモートプレイは、通信機能さえ最新世代であれば問題なく行なえるので、そういった用途もウリになるだろう。

SIEが発表した「Project Q」はWi-Fi経由でPS5にインストールしている対応ゲームがプレイできるデバイス。DualSenseコントローラーと同じアダプティブトリガーやハプティックフィードバックなどが利用できる点が最大の特徴。8型のフルHDディスプレーは、リフレッシュレートが60Hzとのこと
「Project Q」は2023年内発売を予定しているとのことなので、今年の東京ゲームショウでの出展にも期待できる。また、One-Netbookも東京ゲームショウへの出展を発表。先日発表したAMD「Ryzen 7 7840U」(8コア/16スレッド、最大5.1GHz)搭載の「ONEXFLY」などの出展が予想される。
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いずれにせよ、昨今はゲームのクロスプラットフォームが増えていて、PCで遊べるレトロゲームやインディーゲーム、同人ゲームをプレイするのにもWindows搭載のゲーム機型PCは魅力的な製品となっているので、ますます製品ラインアップが増えていくのではと思われる。今後の動向にも注目していきたい。

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