Astell & Kernの新しいハイレゾオーディオプレーヤー「A&futura SE300」の試聴会が5月27日に実施された。SE300は独自開発し、しかもR2Rというマニアックな形式のDACを搭載している。価格は約31万9千円前後となるようだ。
R2R形式の独自DACを搭載したSE300
R2R形式という言葉を聞きなれない方も多いと思うので、まず簡単に説明する。R2R形式はマルチビット形式とも呼ばれる方式だ。現在のDACではΔΣ(デルタシグマ)方式が主流だ。PCMはマルチビット形式のフォーマットだが、デルタシグマ方式は内部が1bitの処理のため、入力時に変換が必要となる。
マルチビット形式であれば、こうした変換処理なく、PCMデータを直接デコードできるので、「デジタル臭さ」が少なく、音の良いDAC形式とする人もいる。例えば、TIの「PCM1704」はマルチビット形式を採用したDAC ICの代表格だったが、今では生産を停止している。ハイエンドのオーディオ機器では、独自設計のR2R形式DACをディスクリートで組む場合があるが、高い精度が求められるので、数年前までは据え置き機への搭載に限られていた。しかし、最近ではHIFIMANのヒマラヤDACなど、ポータブル独自設計のR2R形式DACを採用する製品が増えてきた。
また、R2R形式ではノンオーバーサンプリング(NOS)というオプションの選択が可能となる。オーバーサンプリング処理を省くことで、デジタル処理の負荷が下がり、さらに音質をよくすることができると言われている。ただし、オーバーサンプリング処理を省くことでS/Nが犠牲になるというデメリットもある。そういうわけで、NOSとOSのどちらの音が良いかについては、オーディオ論議では意見が分かれるところでもある。
SE300ではNOSとOSをモード切り替えで切り替えることができる。また、アンプの動作もClass AとClass ABの切り替えができる。一般的にClass Aではより音が滑らかになり、Class ABでは高出力にできる。このようにSE300は、スイッチ切り替えで、さまざまな音の違いを楽しめるプレーヤーとも言える。
ちなみにDSDは1bitのフォーマットで、R2R DACではデコードができない。そのため、R2R DACの前段でPCMフォーマットに変換するようだ。
音の変化が楽しめる
SE300は「A&futura SE180」と似た造形ではあるが、微妙に曲面があって美しく感じる。4.4mm端子にqdcの「TIGER」を接続して聴いてみた。
まずはNOSモード/Class Aアンプの組み合わせで聞いてみる。音の傾向はSE180に似ているが、やはり音の角(エッジ)が取れたスムーズな音だ。OSモードに切り替えてみると、よりクリアで端正な音になる。この切り替えは瞬時だ。アンプをClass AからClass ABに切り替えた際の音の変化も大きい。Class Aは滑らかな音だが、Class ABでは音の広がり感がよく感じられるようになる。
時間の関係もあってそれほど多くは試せなかったが、やはり、音を変えられる「A&ultima SP2000T」で例えると、NOSモード/Class Aアンプの組み合わせがチューブモードに近いイメージで、OSモード/Class ABアンプはオペアンプモードに近い感じになると思う。
いずれにせよ、NOSモード/Class Aアンプと、OSモード/Class ABアンプの音は同じDAPとは思えないくらい音に違いが出るのが面白い。
Vision EarsとコラボしたAuraも登場
また、Astell & KernとVision Earsがコラボしたイヤホン「Aura」も試聴した。こちらは8mm径のダイナミック型ドライバー2基を対向配置するほか、全部で11ドライバーを搭載したハイエンドモデルだ。
試聴してみると透明感が高く、低音が深くて豊かだ。音の帯域の誇張感は少ないが、モニター的というほどドライな印象ではない。とても澄んだ音で、金属の打撃感は他にないほど鋭い。価格は約69万円前後と高価だが、確かに性能は高い。
R2R DACというと、かつては一部のマニアが好むものでもあったのだが、最近は一般的になりつつあるのが興味深い。かつてR2R DACが好まれた理由は、(特にPCM音源で)音質が良いためだったのだが、IC不足の影響が昨今の独自DAC設計に拍車をかけたというのも興味深い。
いずれにせよポータブルオーディオ機器の多様化が進むことで、ユーザーとしても好みの音を選べる選択の幅が広がっていくことになるだろう。
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