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中国テック事情:「国家データ局」はテック業界に何をもたらすか

2023年05月18日 06時01分更新

文● Zeyi Yang

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Lintao Zhang/Getty Images

画像クレジット:Lintao Zhang/Getty Images

中国政府はデジタル・データの活用を推進する「国家データ局」の設立を発表した。プライバシーやセキュリティに関してどの程度の規制をしていくか、テック業界は動向を見守っている。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

中国で毎年一週間にわたって開催される全国人民代表大会(全人代)が、3月13日に閉幕した。習近平国家主席の歴史的な3期目の就任を確認し、新指導者たちの任命のほか、通常5年ごとに実施している政府による省庁の構造改革計画を承認した。

こうした中で、テック業界が熱心にその動向を見守っていることが1つある。それは「国家データ局(NDA)」と呼ばれる新たな規制機関の創設だ。

公式文書によると、「データ関連の基礎的な制度の整備を推し進め、データ資源の統合、共有、開発、応用を調整し、とりわけデジタル経済、デジタル社会の計画と構築の推進をするデジタル中国」をNDAは担うことになるという。

分かりやすく言えば、NDAは中国国内でのスマートシティの構築、政府サービスのデジタル化、インターネット・インフラの改善、政府機関間におけるデータ共有の支援を促進するものだ。

ここで大きな疑問なのは、NDAがどれほどの規制権限を行使するかだ。現在のところ、中国では数多くの政府機関がデータ規制に関与しており、昨年、中国のある委員会の委員長はその数が15にもなると述べている。しかし、データ・プライバシーの保護を明確な責務として掲げている政府機関はない。そのような機関に最も近いのが「中国サイバースペース管理局(CAC)」だ。CACは当初、オンライン・コンテンツの取り締まりと党のプロパガンダ宣伝のために設立された。

「データの重要性を考えれば、NDAのような機関を作るのは理にかなっています」。イェール大学法科大学院のポール・ツァイ中国センター(Paul Tsai China Center)で上級研究員を務め、中国の規制改革を研究しているジェイミー・ホースリーは言う。「しかし、政府が能率化に取り組もうとすると必ず起きる課題は、あらゆる問題が別の問題に影響を与えると気づくことです。1つの機関だけが規制する事柄を選り分けるのは非常に困難です」。

今のところ、この新機関はデータの収集、共有、取引といった「デジタル経済」を継続して推進している中国政府による取り組みの一環のようだ。

事実、この新しい国政は、中国の各省が2014年から設立してきたビッグデータ局と非常によく似ている。こうした地方局は中国全土にデータ・センターを構築し、データセットを株のように取り引きするデータ取引所を設立してきた。そのデータの内容は、携帯電話の位置情報から、海底を遠隔計測した結果のようなものに至るまでさまざまだ。メタバースという疑問の余地のあるコンセプトさえも受け入れ、投資している。

こうした地方局は、データをプライバシーに関する懸念が詰まったパンドラの箱というより、将来有望な経済資源と見なす傾向がある。そして今、このような地方での実験が国家レベルの機関へと統合・格上げされようとしているのだ。こうした背景により、新設されるNDAが国家発展改革委員会の下に置かれる理由も説明できる。この委員会は、中国の広範な経済計画の策定を主な業務として担っている機関だからだ。

NDAが持つすべての権限の範囲については夏まで明確にはならないかもしれない。NDAの組織構造、人員、規制に関する役割について文書で公表されるのが、夏頃になると予想されているからだ。だがアナリストたちは、NDAが、近年テック業界の「超規制当局」として台頭してきたCACに取って代わる可能性は低いと考えている。

「CACは多少権限を失うかもしれませんが、中核となる権限を大幅に削減されることはないでしょう」。分析企業トリヴィアム・チャイナ(Trivium China)のトム・ナンリスト上級アナリスト(テック・データ政策部門)はツイッターに書き込んだ。大手テック企業の管理、インターネット検閲の強化、データ転送関連のセキュリティ問題における多国籍企業の監視など、CACが長年にわたって規制を担ってきた多くの分野でその支配力を維持し続ける可能性は高い。

だがNDAの設立によって、中国インターネットの完全支配をCACができなくなる可能性はある。これは、透明性には恩恵をもたらすかもしれない。CACは中国政府というより中国共産党の一部門であるため、予算、職務、規則作成の過程に関して適用される開示要件が少ない。また、経済的な発展よりもイデオロギー的な統治や国家安全保障関連の政策に注力するだろう。

現在の中国指導部がいかに党中心であるかを考えれば、NDAを政府機関にするのは大きな動きだ。ホースリー上級研究員は次のように述べている。「中国は一党独裁国家ですが、それでも『国家』は非常に重要です。(中略)もちろん党には忠実でなければなりませんが、経済発展という目標の達成も求められるでしょう」。

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別れと出会い

中国中部の若き起業家が、老人ホーム入居者にeスポーツのプレイ方法を教えることで、施設のあり方を再考している。中国の大手ゲーム・メディア「チュラユ(触乐:ChuApp)」が報じたところによると、河南省のファン・ジンリン(25歳)は、大学卒業後に家族が経営する老人ホーム事業を継いだという。彼は入居者の生活に関する映像コンテンツの製作を始め、中国版ティックトックのドウイン(Douyin)で瞬く間に数百万人のフォロワーを獲得した。

2022年2月から、ファンは自身が経営する5番目の老人ホームでeスポーツ・ルームを作り始め、ビデオゲームに興味がある高齢者を募集した。元銀行員のチャン・フォンキンもその1人だ。彼女はドウインでそのニュースを見て応募した。マウスの使い方さえ知らなかった彼女は、『チームファイト タクティクス』の熟練プレイヤーへと成長した。このゲームは戦略的思考が重要で、すばやい反射神経を必要としない人気ゲームだ。ファンは最終的に大会でプレイするプロチームを作りたいと思っているが、実現するにはチャンのような参加者が最低でも7人が必要だ。現時点での参加者は、わずか3人である。

あともう1つ

中国のソーシャルメディア・プラットフォーム「ウェイボー(微博)」から「2952」という数字が消えた。なぜか。3月5日に開催された、中国の儀式的な立法組織である全国人民代表大会で、習近平国家主席の5年間の任期延長が賛成2952票(反対0票、棄権0票)で承認されたからだ。習主席が任期を3期目に延長することは誰もが知っていたが、反対票が1票もなかったという事実により、この手続きがいかに無意味なものかということが人々の話題になった。そのわずか数日後、ウェイボーはこの数字に関係する検索結果をブロックした。

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