業務を変えるkintoneユーザー事例 第171回
次に目指すは全社展開 そしてkintoneユーザーの旭川市と連携した地域DX
意志あるところに道は開ける 旭川信用金庫でkintoneが拡がるまで
2023年04月25日 09時00分更新
2023年4月13日に開催されたkintone hive 仙台。2番手として登壇したのは、kintone hive初の信用金庫の事例となった旭川信用金庫だ。前向きを自認する経営企画部 DX戦略室 古田真之氏は、紆余曲折を経て浸透してきたkintoneの導入経緯を丁寧に説明した。
アプリ作りは簡単だったが、現場への導入で頓挫
旭川信用金庫は北海道のほぼ真ん中に位置する旭川に本社を置く信用金庫で、来年110周年を迎える。支店数は40で、札幌や美瑛にも支店があるという。そんな旭川信用金庫でDX化を進める古田氏は、「家族が引くくらい前向き」と自身の性格を分析する。
信用金庫は全国に約250あり、会員組織で地方銀行よりも小規模。おもな取引先は中小企業や個人だ。そんな信用金庫の1つである旭川信用金庫は、kintone導入前、大きく2つの課題があった。まずはITを苦手とする職員が多いため、IT環境がシステム部門に依存しがちという点。システム部門の方も、勘定系と呼ばれる基幹システムの運用管理で時間をとられているため、前向きなシステム開発に注力しにくいという課題があった。また、個人情報は外部とつながらないネットワークで扱う。当然、個人情報をクラウドで扱うのにも強い心理的な抵抗があるという。
旭川信用金庫に業務改善プロジェクトが生まれたのは2021年。ITチームは古田氏含めて4名が選出されたが、ITに詳しいのは1人だけだった。とはいえ、自らで便利な業務システムを作っていきたいと考えたため、kintoneを選択したという。「金融機関でも利用できそう」「特別な知識やスキルが不要」「あらゆる業務に対応する柔軟性と拡張性」というのが選定した理由だという。
実際にアプリを作ってみると、けっこう簡単だったため、従来Excel中心だった職業紹介事業のアプリを開発することになった。しかし、現場の理解が得られず、クラウドサービスに個人情報を載せることへの抵抗感もあり、頓挫。「現場や本部の関係者を巻き込めなかったこと」「kintoneの説明が不十分だったこと」が反省ポイントだったという。
小さいアプリでまずは実績 プラグインでもっと便利にできる
しかし、環境の変化が訪れる。古田氏の主張が通ったことで、昨年DX戦略室が新たに発足。DX戦略室として、kintoneの利用を継続することに決め、新たなメンバーでDX化を進めることになった。
前回の反省を踏まえ、今回はいくつかのアプリを作って、実績を作ることにした。たとえば、コロナ罹患状況確認アプリでは、今まで電話やメールで受け付けていたコロナの罹患状況を受け付けられるアプリ。これにより、担当者不在でも受付や情報共有が可能になった。
また、別のフォームで作成していたアンケートをkintoneの業務改善アンケート回答アプリにすることで、データの収集や分析が容易になった。さらにWordで実施していたキャリアコンサルティング面談実施後のアンケートもアプリ化した。こうしたアンケートは守秘義務があるが、kintoneの専用スペースを管理することで、機密性を確保したという。
今度は利用も拡がった。「kintoneに共感する仲間を見つけることができ、自分自身がkintone活用のハブとなって、使いやすい環境整備をできたのが大きかった」と古田氏は振り返る。
だいぶ実績を積んだところで、次に導入したのが法人向けデジタルサービス「ケイエール」だ。複数のインターネットバンクを統合して、残高や口座の動きを確認したり、インボイス制度や電子帳簿保存法にも対応した最新のサービスだが、残念なことに申し込みが紙だった。「今まではそういうものだと思って、あきらめていました。でも、kintoneとForm Bridgeを使えば、Webフォームを作れるじゃないかと考えました」とどこまでも前向きな古田氏。既存のクラウドサービスにプラグインを追加することで、お客さまにとって便利なサービスを作れるという学びがあったという。
仲間を増やす 協力する空気感を醸成する
外堀を固めた古田氏だが、一度は頓挫した職業紹介事業のアプリ開発に再度チャレンジしている。クラウドサービスに個人情報を載せることに関しても、社内的なコンセンサスが得られるようになった。
「なぜうまくいったのか? これは少しずつですが、kintoneを使ったら便利なんじゃないか?という理解者が増え、協力するかという空気感が醸成されたのが大きかったと思います」(古田氏)。こちらは本稼働に向けて進行中。「kintoneの仲間を増やすことは大事だなあと最近つくづく思います」と振り返る。
導入効果としては、やはり業務部門がアプリを開発できるようになったのが大きかった。システム部門であれば1名あたり1ヶ月で100時間の削減が可能になったという。また、アプリ運用の効果としては、今まで時間のかかっていた集計や共有が容易になり、こちらも年間で100時間の削減効果だ。
さらに信用金庫において、個人情報をクラウドに置けるようになったこともDX推進の大きな一歩になった。「個人情報の取り扱いが厳しい自治体や金融機関のような業種についても、kintoneが使えることを示せたのではないか」と古田氏は語る。プライスレスな効果もあった。ITへの興味が高まったほか、分散したクラウドのデータ集約も可能になり、DX人材の育成にも寄与したという。
古田氏の野望は止まらない。「今後はkintoneで仕事しやすい環境をもっと増やし、将来的にはアカウントを全社員に付与し、kintoneを使ったDXをもっと拡げて行きたい」と鼻息も荒い。さらに、kintoneのノウハウを顧客にも展開しつつ、同じくkintoneの導入を進める旭川市と連携し、地域のDX化を進めたいという。
最後、「意志あるときに道は開ける」を掲げた古田氏は「kintoneを使ったDX化を忘れず、自分の未来、信用金庫の未来を切り拓いていきたいと思います」と最後を締めくくった。

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