近年、急速に社会から注目されるサステナビリティに、ずっと前から取り組んでいた企業がある。無添加化粧品やサプリメントで知られるファンケルだ。創業以来、まさにSDGsを実践してきたファンケルが目指すのは、顧客や従業員、自然環境を大切にする、人にも地球にも優しい社会。リサイクルなどの環境活動や、女性や障がい者の活躍促進などのダイバーシティ&インクルージョンの活動について、同社のサステナビリティ推進室室長・山本真帆氏に、エリアLOVEウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。
サステナビリティ宣言の源泉は、この創業理念
“正義感を持って世の中の<不>を解消しよう”
――サステナビリティ宣言の経緯と狙いについて教えてください
山本「ファンケルでは、『正義感を持って世の中の<不>を解消しよう』という理念のもとに、創業当時からいろいろな社会活動を行ってきました。そもそも事業自体が、世の中の社会課題を解決することで成り立ってきた会社なんです。
2015年にSDGsが国連サミットで採択されましたが、ファンケルの思想とSDGsには共通する思いがあることは、従業員一同が感じたところでした。自然な流れとして、のち2018年にサステナブル宣言を作り、“未来を希望に”とのスローガンを掲げて、これを従業員だけでなく世の中に向けて、ファンケルはSDGsと足並みを揃えていくんだ、という宣言をした経緯になります。
その後、2021年から私たちの新しい中期経営計画が始まるところで、サステナビリティ戦略を具体的に経営に組み込んで、新しいテーマを設定しました」
――サステナブル宣言の注目点は?
山本「テーマが3つありまして、『環境』『健やかな暮らし』『地域社会と従業員』。最後は人、というところに焦点を当てています。
『環境』は、事業活動そのものを自然と調和させて、自然の保全にちゃんと考慮しながら事業活動を行うということ。
次の『健やかな暮らし』は、私たちがとても大事にしているもので、サプリメントや化粧品など製品そのもので、社会課題を解決することを考えていきます。例えば、生活習慣病が課題になっているのであれば、サプリメントでそれを解決していこうと。事業とすごく密着したテーマなので、重要視しています」
――サプリメントという言葉を生んだ会社ですもんね
山本「そうですね(笑)。3つ目の『地域社会と従業員』は創業以来、力を入れてきたダイバーシティ&インクルージョンや、社会貢献の取り組みで人を大切にしよう、地域社会を大切にしよう、という思いを継承してやっていくことです」
プラスチック、CO2の削減
環境課題への取り組みは?
――環境についての取り組みを教えてください
山本「地球規模で、気候変動や海洋プラスチックの問題が重要課題になっている中で、企業責任として、それに向き合わなきゃいけないという思いです。CO2の削減とプラスチックの削減、認証パーム油のような環境や人権に配慮された原料を使う、という3本柱で環境対応を行っています」
――CO2の削減についてはどんなことを?
山本「『2050年度までにCO2排出量実質ゼロ』という定量目標を掲げておりまして、直近では、太陽光パネルの設置とカーボンニュートラルの電力を利用し、それによってCO2を削減していく。再生可能エネルギーを活用したCO2削減への活動を中心に取り組みを進めています。
自社で対応可能な全国の拠点には、すべてカーボンニュートラルな電力を採用していまして、22年4月には国内の12拠点、工場や物流と本社機能等で100%切り替えが進んでいます」
――工場だけではなくて物流拠点やオフィスでもやるのは大変なこと。なかなか100%でされているところはないのでは
山本「積極的にやろう! ということで一気に進めました。
次に環境の中でも、重大課題のひとつであるプラスチックの削減についてですが、化粧品や健康食品の包装容器にプラスチックを使っているので、どうしてもお客様に一番近い存在で環境負荷がかかっている。そこは、何としてでも解決したいところです。
削減の取り組みは2つありまして、ひとつは化粧品と健康食品の容器自体のプラスチック量を減らすことです。なるべく樹脂量を少なくして容器を作ったり、紙などの代替原料や再生プラスチックに変えるなどして、プラスチックの総量を減らしています。もうひとつは、使用済みの容器を回収して、ちゃんと資源を循環させることですね」
――再生できるプラスチックもある
山本「弊社ではPET(ポリエチレンテレフタレート)の容器リサイクルに取り組んでいます。飲み物のペットボトルはよくリサイクルされていると思いますが、PETはリサイクルが国全体で比較的進んでいるので、まずこの素材からしています」
――そして認証原料の使用
山本「人気の主力商品である、クレンジングオイル等にパーム油が多く使われていますが、社会的に人権や環境の課題につながっているので、これを認証された原料にしていく流れがあります。ファンケルとしてはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)という、認証機関による認証パーム油を活用することを決めて、2021年にはすでに100%採用しています」
――こういう取り組みはすごく大切ですね
山本「はい。化粧品業界や食品業界ではすごく進んでいまして、むしろ対応しないことが大きなリスクになるため、当初の想定よりもかなり早く対応を進めています。マレーシアとかインドネシアなど産地も限定されていますし、こうした問題は本当に企業のリスクになりかねないので、敏感に動いていかなきゃと」
化粧品容器回収とリサイクルで資源循環
ポイント還元で普及を促進
――資源を循環させるために、化粧品容器の回収はどのようにされていますか
山本「リサイクルの取り組み自体は2021年7月にスタートしており、お客様が使用済みの化粧品容器を直営店舗で回収し、それをマテリアルリサイクルという方法で、植木鉢にリサイクルしています。植木鉢は本社のある横浜市に寄贈して、市が主催する花や緑のイベントで活用したり、市内の小学校などへ贈って環境教育に役立てていただいていますよ」
――回収する容器は簡単に集まるもの? どう周知している?
山本「回収拠点として直営店舗があるのが、すごくメリットになっています。直営のお店には、リサイクルについてきちんと理解しているスタッフがいて、お客様に投げかけができます。お客様が商品を購入される際に、次は必ず容器を持ってきてくださいね、と。
1対1で、お客様に重要性をご案内することで順調に回収数を伸ばしています。ただ、やはり捨てる方が簡単ではあるので、わざわざお店まで持ってきていただくようにするのが、今後の課題です。もっと重要性をご案内して、ファンケルの取り組みに共感していただくことが大事と思っています」
――継続は大事ですよね
山本「この春から、容器の回収にご協力いただいたお客様には、お買い物ポイントを還元しているので、これでもっとご利用が増えてくれるといいですね」
――インセンティブがあるといいかも。ファンケルは通販のお客様も多いと思いますが、そちらへの働きかけは?
山本「現状では、通信販売で容器を回収するのはハードルが高いですし、配送費もかかり、配送によりCo2が多くなるということで、逆に環境に負荷をかけるところもあります。
でも、通販と直営店舗のお客様が共通でご利用いただける、お買い物アプリでの告知や、お店に行けばAIカウンセリングなど、いろいろな体験ができるとお伝えして、通販と実店舗の双方の販売チャネルを、お客様のお都合に合わせてご活用いただけるように、促進していけたらと思っています」
ダイバーシティ&インクルージョン
女性の活躍や障がい者雇用も積極的
――ファンケルでは、女性や障がい者の方も多く活躍されている
山本「容器回収リサイクルの分別、洗浄、乾燥の工程を、特例子会社ファンケルスマイルの障がいのある従業員が担当しています。この活動が私たちの会社らしい部分だと考えており、その根底にあるのが、まさに我々が力を入れているダイバーシティ&インクルージョンです。
ファンケルは創業の成り立ちから、非常に多様な人材を受け入れてきた会社です。創業者の池森賢二が、早くから障がい者施設と交流する中で課題感がすごくあったことから、障がい者の雇用や活躍促進には力を入れてきました。『みんな違ってあたりまえ』という、ダイバーシティ&インクルージョンのスローガンを掲げて、多様な人材が活躍できるよう積極的に行っています。特に女性や障がい者の活躍、最近だとLGBTQの理解促進を、積極的にやり始めたところですね」
――管理職の女性の割合を50%にするそう
山本「2021年度に47.1%を実現しており、2023年度までに50%達成を目指しています。創業当時から女性が活躍している会社なので、弊社としては自然な流れで、女性でも不安なく管理職になれる環境です」
――障がい者の方が働くのには、本当に企業側の理解が重要なんですよね。企業が積極的に動いていくことが、すごく皆さんの心の支えになっていると思います
山本「ありがとうございます。創業者の思いから始まった活動ですが、今となっては障がい者の方も、会社全体で活躍する拠点や仕事の数も増えてるんです。そうすると、一緒に働くことで双方刺激になるんだな、と日々感じています。彼らに配慮したり、どうしたら仕事が上手くできるだろう、と毎日考えていく中でいろいろ新しいことが生まれています」
――逆に学ぶこともある
山本「はい、絶対あります」
――そもそもファンケルの無添加製品自体が、池森さんの奥さんが使った化粧品で肌荒れが起きたのはなぜ? と思ったことから始まった。スタートから、まずそういう身近な人のことを考えて、というのがものすごくユニークです
山本「妻への愛ですね(笑)」
――素晴らしい。だからファンケルがサステナブル宣言をすることは非常に納得がいく
山本「私はずっと営業部門にいたんですが、3年前に推進室に来てサステナビリティをやり始めたら、改めてそれがこの会社に合っているんだと実感しました」
――サステナブル宣言は、社員への影響も大きい?
山本「そうですね。でもやっぱり、創業理念の『正義感を持って世の中の<不>を解消しよう』が、社員にとってすごくピンとくる言葉なんです。それを行うことがサステナビリティに直結しているんだよ、というコミュニケーションがすごく分かりやすいのかな、と思います」
――創業理念の意味がまさにサステナビリティなんですね
子どもたちと未来をつくる「ファンケル 神奈川SDGs講座」
3月21日に横浜でイベント&特別授業開催
――「ファンケル 神奈川SDGs講座」はとてもいい試みですね。神奈川の企業だという気持ちが感じられるし、小中高の生徒さんたちもたくさん参加している。こういった子どもたちと一緒に考えるという発想はどこから?
山本「もともと横浜、神奈川という地域に何か貢献していきたい思いで、従来は例えば横浜マラソンなどに協賛するような活動をしてきたんですが、コロナ禍で横浜マラソンも中止になってしまって。
そこで、何か新しい地域貢献ができないか? ということで、生まれたのがこのSDGs講座でした。サステナビリティを会社として注力しようという時期でもあり、特に若い世代がSDGsやサステナビリティに関心が高いこともあって。いろいろなニーズが合致して、この企画を若い世代に向けてやったらいいんじゃないか、と始まったんです。若い世代が私たちの会社を知るきっかけにもなりますし、未来を若い世代と私たちが一緒に考えると刺激も得られるし、すごく良い取り組みとして、社内でも共有されています」
――子どもたちの感想を聞くと、みんなすごく熱心に参加していますね
山本「想像以上に熱心なんですよ、皆さん。SDGsは小学校の教科書にも載り始めていて、環境教育なども多少は受けていることが多いんです。プラスチックの話も、いろんなアイデアが子どもたちから出てきて、ドキッとするような質問もあったり。刺激を受け合いながらやっていますよ」
――高校生にプレスリリースの方法を教えたり、すごく面白い
山本「若い世代が自主的に考えて、自分事化してやっていくことをサポートしていくスタンスですので、他にはあまりないと思います。高校生がリリースを書いてメディアの発表までするのは、良い経験になりますよね。私も高校生だったら、やってみたかったです。神奈川県を中心に全国での開催校を募集していますので、ご興味があればぜひ講座のHPからお問い合わせください」
――ファンケルのサステナブルな取り組みをYouTubeでも発信されていますね。SDGs普及のために、いろいろな形の発信を心掛けているんですか?
山本「ファンケルのさまざまなサステナブルな取り組みを、ニュースとしてお届けする「FANCL SDGs NEWS」をYouTube中心に発信しています。単純に企業が発信するメッセージとしては、真面目すぎると見てもらえなかったりするので、なるべく分かりやすく、ちょっと見たくなるようにと、双子のレポーター、ホシノ・アシタ(兄)とホシノ・ミライ(妹)というキャラクターを登場させて作り込んでいます」
――伝えたいという気持ちがすごく伝わってきます
山本「また、さまざまな取り組みについては、ファンケルのお客様にも知ってもらおうと、公式のお買い物サイトやアプリなどでも発信しています。一部は広告で流すなど、少しでもSDGsに関心がある層に届くように試行錯誤しています」
――その思いをダイレクトに届けられるイベントが3月21日に開催されますね
山本「はい。横浜みなとみらいのクイーンズサークルで行います。SDGsを少しでも知ってもらう目的で、今回は、かながわSDGsスマイル大使の『さかなクン』を招いて、プラスチック削減をテーマにした『ファンケル 神奈川SDGs講座』の特別授業を行います。容器リサイクルとも連携して、我々の活動も知っていただきたいと思っております」
顧客と地域社会とともに
SDGs活動を広げていく
――今後はどんなふうに活動していきたいと考えていますか
山本「私たちが重視したいのは、お客様とともにできる活動をどんどん広げていくことです。さらにはお客様、そして地域社会とともに、一緒に課題認識や思いを共有して取り組みを行っていく。それによって企業単体では力は小さいかもしれないけれど、どんどん大きな力に変えて、もっと範囲を広げていけるはず。容器回収リサイクルが、その一番代表的な活動だと思っています。
お客様や地域の協力なくしては成立しない活動なので、しっかり手を結びながら、大きな課題に向き合いたいのが今の思いですね」
現代では、早急にその解決が求められている環境や多様性の課題。しかし80年代から、この課題にいち早く取り組み始めていたのがファンケルだ。創業者が化粧品で肌荒れを起こした妻を思いやったことから始まった無添加化粧品から、健やかな暮らしのためのサプリメント販売、容器のリサイクルや再生エネルギー活用による海洋プラスチックやCO2の削減。障がい者の雇用や女性の昇進も積極的に行うダイバーシティ&インクルージョン、さらには未来のための若い世代に向けた教育など、ファンケルは常に人と地球に優しい活動を牽引している。
やまもと・まほ●1978年生まれ、横浜市出身。2000年に株式会社ファンケル入社。以降、広告宣伝制作、営業戦略、販売企画、CRM、ECサイト運営などを担当。同業務を担う部署の部長を経て、2020年3月よりサステナビリティ推進室長。グループ全体のサステナビリティ戦略の策定・推進を牽引すると同時に、自社のサステナビリティ活動のPRに注力。2022年6月より執行役員となり、現在に至る。趣味は、東南アジア旅、小学生の息子との日常。
聞き手=たまき・やすのり●1961年生まれ、大阪府出身。エリアLOVEWalker総編集長、KADOKAWA拠点ブランディング・エグゼクティブプロデューサー。ほかに日本型IRビジネスリポート編集委員など。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。 近況は、「いよいよ、屋外ではマスク着用は原則不要、屋内では原則着用としていたのが、3月13日以降、マスク着用は個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本に変更。コロナ禍も次のフェーズに入ってきた。しかし、コロナ禍の下、生活の仕方や社会の在り方が改めて問われ、自省する時間でもあったのではないか。SDGsやダイバーシティ、安全安心も自らの問題として考え直す期間であったと思うと、ファンケルのサステナブル宣言はスッと入ってくる、今日この頃である」
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