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年末恒例!今年のドメイン名ニュース 第14回

ウクライナ侵攻とドメイン名、.comの値上げなど2022年の「ドメイン名ニュース」

2022年12月30日 09時00分更新

文● 渡瀬圭一 編集●大谷イビサ

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2位:「.com」 2年連続の値上げ

 2位となったのは、.comのレジストリであるVerisignが行った2年連続の値上げの話題である。この件が2位に入ったのは、おそらく2020年に.comの提供料金の上限が廃止されたことで、今後、値上げが続く可能性があるからだろう。

 なお、この価格は、Verisignがレジストラに卸す料金である。レジストラは、この金額に自分自身の経費や利益を乗せてくるであろうから、利用者が支払う金額はさらに大きくなる。

 ちなみに、8.39ドルを1ドル135円で換算すると、約1,132円となる。来年もVerisignとICANNのレジストリ契約「.com Registry Agreement」によって決められた昨年比7%という上限枠を使ってくると、8.97ドル(約1,211円)となる。これからもこのように、じわじわと価格が上がってくるのであろうか?

 筆者は、昨年のドメイン名重要ニュースの記事[*3]で「結果として、.comに限らず値上げの動きは出てくると考えられることから、このことに関心を持っておくべきではないだろうか」と述べたが、その際に金額に関する話題にも言及している。興味のある方は、そちらも参照してみていただきたい。

[*3] DNSの設定ミスで大規模障害、会合のオンライン化など2021年の「ドメイン名ニュース」
https://ascii.jp/elem/000/004/079/4079206/

3位:権利侵害を理由としたDNSブロッキングに関する動き

 3位は、イタリア・ミラノの裁判所がCloudflareに対し、権利侵害に利用されていた三つのドメイン名を対象に、同社のパブリックDNSサービス「1.1.1.1」での名前解決のブロッキングを命令したという話題である。

 この裁判は、大きくて力のあるいくつかのコンテンツ提供者が起こしたものの1つで、訴えた側の言い分が認められたというものだ。もちろん、政治的にも強力なロビー活動が行われているものと考えられる。

 権利侵害を理由としたDNSブロッキングの話題は、日本でも2018年頃に大きく取り上げられた。この件に関しては、多くの方々がそれぞれの立場でさまざまな意見を述べているが、筆者としてはその際の記事[*4]で書いたことがすべてである。ぜひ、ご一読いただきたい。

 筆者としては、違法コンテンツによる被害を受けた場合には、まずその違法コンテンツの送信者を裁判の対象とするのが適切であると考える。DNSによるブロッキングは、違法コンテンツをただ単に「簡単に利用できないようにしたい」というだけであって、回避方法はいくらでも存在するのである。違法コンテンツ自体はそのまま存在するため、回避方法を知っている、あるいは回避方法を教わった人々には何の意味もないということを考えなければならないだろう。

 現状で、なぜそうすることが難しいかは、法制度の未整備や手間の多さ、海外の組織を相手にしなければいけないことが多いといった理由があるからだと考えるが、だからといって検閲につながりかねない、安直な方法に流れることは好ましくない。繰り返すが、違法コンテンツによる被害を受けた場合は、その違法コンテンツの送信者を裁判の対象とすべきなのだと思う。読者の皆さまは、どのように感じられるであろうか。

[*4] 海賊版サイト対策とDNSブロッキングの議論など2018年の「ドメイン名ニュース」
https://ascii.jp/elem/000/001/790/1790690/

4位:新たな分散管理型インターネットの動きと課題

 4位は、「Web3」や「NFT」といった新たな技術がインターネットを変える可能性についての話題である。残念ながら筆者は、「Web3」や「NFT」に関して他者に「こうだ」または「こうであろう」と言えるほどの造詣を持ち合わせない。少なくとも、これまでに何度も新しい提案は行われてきているが、「Web3」や「NFT」によってすぐに何かが大きく変わるという兆候も見えないということで、基本的には様子見をするしかないのだろうなという印象を持っている。

 ドメイン名重要ニュースの本文中にもあるが、ある方法が既存の方法と衝突し、分断したインターネットが誕生してしまう可能性もありうるわけで、良い面にばかり注目するのではなく、それによって生み出される負の面に対する警戒も必要であろう。

 現在のインターネットの基盤を支える技術は、古いものを改良しながら使っている。これは、接続性と継続性を重視しているからで、大きな変化を起こすためには長期に渡る移行期間が必要になるのは当然なのだ。

 たとえばDNSが盤石かというと、それも分からない。過去何度も、DNSは、「もう限界である」と言われながら、そのたびに改善・改良されてきた歴史もある。この辺りに興味のある方には、2021年のInternet Weekで行われた講演の資料[*5]がJPRSのサイトにあるので、参照いただきたい。

[*5] DNSの「明日のカタチ」について考える~ランチのおともにDNS~(PDF)
https://jprs.jp/tech/material/iw2021-lunch-L1-01.pdf

5位:日本語LGRが統合されたルートゾーンLGRの公開

 5位は、TLDの日本語ラベルのルールを含むルートゾーンLGRが、ICANNから2022年5月26日に公開されたというものである。

 ルートゾーンLGRとは、トップレベルドメイン(TLD)で利用可能な様々な言語の文字を混乱なく取り扱うためのルールであり、言語別に定義されたラベルのルールが統合されたものだ。たとえばカタカナの「ニ」と漢数字の「二」のように、異なる文字なのに混同するくらい似た文字を思い浮かべてもらえば想像できると思うが、LGRは似た文字があった場合に、各言語においてそれをどのように扱うかをルール化したものになる。

 今回の日本語LGRの統合により今後のgTLD募集において、日本語ラベルを含むgTLDをより円滑に申請でき、国際化ドメイン名の円滑な導入につながると考えられる。

番外編:JPRSがドメイン名とDNSを動画・チェックテスト形式で楽しく学べるWebサイト「ポン太のインターネット教室」を公公開

 番外編は、インターネット教育の支援活動の一環として、インターネットを支えるドメイン名とDNSを楽しく学べるWebサイト「ポン太のインターネット教室」を公開したというものだ。

 実績のあるコンテンツを、小冊子とPDFに加え、連動する形でWebサイトでも提供しようという試みである。サイトにはJPRS社員による解説動画や体験コーナーなども準備されており、ドメイン名やDNS、IETFやICANNといった、インターネットの仕組みを楽しく学べるようになっている。既知の内容もあると思うが、改めて初心に帰り、ページを開いてみてはいかがだろうか。

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