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初代ZenからのIPCの伸び率は実に235%!?Ryzen 7000シリーズ発表回の内容を少し深掘りして解説

2022年08月31日 10時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ/ASCII

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IPCはベース13%向上、クロック上昇含めれば29%向上が期待できる?

 続いてパフォーマンス面について。Zen 2→Zen 3ではCCXあたりのCPUコアを4→8基に増やすほかに、命令実行に関係するコア内のさまざまな要素を改善して性能を向上させたという実績があった。今回Zen 4でもさらなる改善を追加することでIPC(Instruction Per Second)を伸ばすことができた、とAMDは主張する。

 さらにRyzen 7000シリーズでは動作クロックが前世代よりも最大800MHz引き上げられているが、これを含めるとトータルで30%近くの引き上げとなる。さらにスライドには書かずに口頭でサラッと述べるだけにとどめたが、初代ZenからのIPCの伸び率は実に235%にまで到達したとしている。

AMDの資料より抜粋。Zen 4アーキテクチャーではZen 3よりもIPCが13%向上。さらにRyzen 9 7950Xでは最大5.7GHz動作となるが、このクロック上昇分を含めると29%の性能向上になると主張している

 まずIPC13%向上の意味だが、これはさまざまなシチュエーションにおけるパフォーマンスを8コア/16スレッド、4GHzで固定したZen 4とZen 3で計測し、Zen 4の伸び率の「幾何平均」をとったら13%になった、というものになる。つまり処理によってはZen 3と大差ない部分もあるし、もっと伸びる部分もある。

AMDはさまざまなシチュエーションでベンチを行い、Zen 3に対して「平均で」13%程度は伸びたと言っているのだ。ちなみに伸び率が良いアプリの1つに「F1 22(グラフではF1 2022となっている)」がある点に注目しておきたい。全体的なゲームやアプリのチョイスにしても古いものから新しいものまで揃えてみた、という感じだ

 そしてこの13%のIPC向上を果たした理由についてだが、結構興味深い点がある。まずスライド(下図)から分かる通り、フロントエンド部分の強化が4割程度を占めている。さらにL2キャッシュの増量や分岐予測の強化などを積み重ねているが、これらの積み重ねにより同じ時間内により多くの命令を実行できるようになる。これも口頭で述べただけにとどまったが、OPキャッシュのヒットレートも1.5倍に向上しているという。つまりキャッシュが効く処理に関しては猛烈に速くなることを示唆している。

Zen 4で得られた平均13%のIPC向上の内訳を分類した図。フロントエンド部分の強化が顕著だが、L2キャッシュや分岐予測、ロード&ストアといった要素も強化されている

公開されているスペックを元に、Ryzen 5000シリーズと7000シリーズのキャッシュのスペックを比較してみた。L1とL3キャッシュは変わっていないが、L2キャッシュについては前世代よりも用量が倍になっている

 このほかAVX-512のサポートもZen 4の大きなポイントだが、こちらは物理シミュレーション、(CGレンダリングにおける)レイトレーシング等で最大1.3倍高速に、さらにAVX-512 VNNIも前世代より2.5倍高速に実行できるとしている。インテルは第12世代CoreでAVX-512を切ったこととは対照的である。

AVX-512のサポートにより、Ryzen 5000シリーズに対し数値計算やAI処理で著しいパフォーマンス向上が期待できる

 AMDは消費電力を度外視して性能を引き上げるというインテル的なアプローチは採用せず、エネルギー効率(ワットパフォーマンス)も改善している。Ryzen 9 5950Xと7950Xを同じTDPで比較した場合7950Xの方が性能が高くなると主張する。TDPを65Wに絞ってもなお性能向上が期待できる。

 同じ性能ならZen 3よりZen 4の方が最大62%消費電力が少なく、同じ消費電力なら性能は49%高くなるとAMDは謳っている。この62%と49%の数値は「CINEBENCH R23」のマルチスレッドスコアーで計測されたものだが、片方はDDR4-3600、もう片方はDDR5-6000である。

 第12世代CoreではDDR5で運用すると消費電力が激増するというデータがあるが、定格よりもOCされたDDR5-6000モジュールを使ってもなお、Ryzen 7000シリーズは高いワットパフォーマンスを維持できるようだ(この辺は実際に実験できていないので、眉唾くらいの気分で見ておきたい)。

Ryzen 9 5950Xと7950XをTDP65W/ 105W/ 170Wで運用した際の性能を比較すると、どのシチュエーションでも7950Xの性能が30%以上高くなる。5950Xと同じTDP 105Wにしてもなお、7950Xは優位をキープしている。ただしこの%の値は“Up to”であり平均ではない点に注意

CINEBENCH R23のマルチスレッドスコアーをでRyzen 9 5950Xと7950Xを比較すると、同性能なら7950Xの方が消費電力が小さくなり、同消費電力なら7950Xの方が高スコアーになる。ただし7950XはDDR5-6000(EXPO)であり、5950XはDDR5-3600である

ライバルである第12世代Coreに対してもRyzen 7000シリーズはワットパフォーマンスにおいて勝るとした図。V-Ray BenchmarkのCPUスコアーはRyzen 9 5950Xの方が57%も高いスコアーを出せるが、ワット当たりのスコアーでも7950Xの方が47%高いとしている。つまり少ない電力でも高いスコアーが発揮できるのだ。このテストではどちらもDDR5-6000を使用している

そして1コア(L2含む)あたりの面積効率やワットパフォーマンスでも第12世代Coreは敵ではないと主張。10nm(Intel 7)と5nmなので勝敗は明らかだが、Zen 4は第12世代Coreの半分の(コアあたり)面積で実装でき、さらにワットパフォーマンスも良いとしている

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