業務を変えるkintoneユーザー事例 第150回
ユーザーが困っていることを見つけることが大事
営業から突然開発へ 自称“IT素人”のアプリが1000名の仕事を変えるまで
2022年08月22日 09時00分更新
「kintone hive nagoya 2022」講演の最後を飾る5人目は、アイホンの鈴浦直樹氏が登壇。「大嫌いなkintoneが大好きなkintoneへ」と題し、営業からkintone開発担当に転身して社内の業務改善に奮闘した5年間を振り返って講演した。
社員の不満爆発! ついに堪忍袋の緒が切れて……
アイホンは、1948年創業のインターホン専業メーカー。戸建て、マンションなどの住宅をはじめ、オフィスや空港、病院のナースコールなど業務用途にも広く展開しており、国内の市場シェアは50%、世界70ヵ国に製品を供給している。
鈴浦氏は、講演で開口一番「私はkintoneのことが大嫌いだった」と語った。だがすぐに、こう続けた。「今日は、kintoneが大嫌いだった自分が、いかにしてkintoneを大好きになったかを話したい」。鈴浦氏は同社で13年間営業部門に所属しており、自ら「ITはド素人」という。本講演では、そんな自分がなぜ、kintoneの社内導入に奮闘し、その功績を買われて最終的に情報システム部に異動するに至ったのかを語った。
鈴浦氏は最初に、kintone導入前の同社の営業部門が抱えていた課題について説明した。同社には複数の営業所が存在し、総勢500名の営業担当者が多数の企業にアプローチしている。しかし、それまでは上司が部下の行動を把握しておらず、誰がどこで営業しているのかわからなかった。また部署間の連携もできていないため、他部署の動きも見えていなかった。
その結果、顧客企業に対して、同社のある営業担当が、「すみません。アイホンでは実現できません」と断った案件を、別の営業担当が訪問して「最新のインターホンならできます」と言ってしまうような事態が起きた。これでは顧客からの信用を失ってしまう。社内の情報共有が早急に必要だった。
そこで同社では、kintoneを使ってSFA(営業支援ツール)を作ることになり、営業先別にマンション用、病院用、高齢者施設用の3種類のkintoneアプリを外注で開発。2017年にリリースした。
鈴浦氏はこのアプリの開発には関わっていないが、リリースと同時に営業管理部に異動し、アプリの利用促進とkintoneを推進するミッションを与えられた。導入当時、「kintoneは何でもできる」という触れ込みだったため、鈴浦氏は大きな期待と共に利用促進に取りかかる。
kintoneのSFAアプリについて、一部のユーザーからは「他部署の活動が見えるようになった」「情報共有ができるようになった」など評価が聞かれた。しかし、それらの声をかき消すほど圧倒的に多かったのは、「二重管理」「情報が多すぎる」「画面が見づらい」といった不満の声だった。「自分は開発に関わっていなかったこともあり、社員から不満をぶつけられたときはつらかった。業務改善の期待は砕け散り、kintoneが大嫌いになった」(鈴浦氏)
ユーザーである営業部員から「やっぱりExcelがいい」と言われ続けるなか、鈴浦氏は推進担当の立場上「それでも使ってください」と言うしかなく、ストレスを溜めていった。あるとき、ある支店長から「kintoneは業務効率を悪くする」と言われ、堪忍袋の緒が切れた鈴浦氏はその日の仕事をボイコット。上司に「今日は機嫌が悪いので帰ります」と言い残して帰宅してしまう。kintone嫌いは最高レベルに達した。
しかし、ここから鈴浦氏は、自分のミッションはkintoneの推進であることを思い起こし、一歩ずつでも進むことを決意する。最初の一手は、「脱Excel」からはじめた。2019年3月のことだった。
まずは、Excelの問題点を再確認してみた。チームで使う場合、そもそもファイルが開かない、開いても読み取り専用になってしまうといった問題が起きていることがわかった。「Excelも完ぺきではない」と思った鈴浦氏は、すぐに対応策を考える。kintone上でExcelのようなスプレッドシートを作成できるプラグインツールの「krewSheet」を導入した。そしてこれが、社員に大好評だった。
鈴浦氏は、kintoneがはじめて社内で評価されたと感じた。「ユーザーが言っていた『やっぱりExcelがいい』の意味は、『Excelの見た目がいい』ということだとわかった」。鈴浦氏はこのとき、大嫌いだったkintoneが少しだけ好きになった。
ついにIT素人がkintone開発者に
1つの小さな成功を手にした鈴浦氏に、kintone浸透に向けた次の機会がすぐに訪れる。2020年からのコロナ禍で急務となった「ハンコレス、ペーパーレス」の問題だ。同年8月、鈴浦氏は上司から「kintoneでハンコレスはできるか?」と聞かれる。このチャンスを逃すまいと思った鈴浦氏は、「できます! やります!」と即答。早速開発に取りかかる。
このとき社内で問題になっていたのは、「連絡書」という同社独自のExcelによる申請書の仕組みだった。申請者はExcelファイルをメールに添付して承認者に送り、承認者は承認後、それをアシスタント社員に転送、アシスタントはそのExcelを印刷して決裁者に手渡しし、捺印をもらってファイルすると同時に申請者にメールで送り返す……。非常に面倒で複雑な手順をとっていた。
このプロセスをkintoneのアプリにする際、目指したのは、面倒な処理を少しでも削減すること、マニュアル不要で使えること、そしてクリック数を最小限にすることだ。そこで導入したのが「gusuku CUSTOMINE(グスク・カスタマイン)」だった。「私のような素人でも、プログラミング知識なしで、kintoneをカスタマイズできるツール。実際に、約2ヵ月で狙い通りのアプリを作ることができた。このとき、私は推進者から開発者に変身した」と鈴浦氏は語る。
申請者がアプリを立ち上げると、自動的に自分の名前と所属が入力された申請画面が出てくるため、正確で効率がいい。一方、自分の次の作業者(承認ルート)は、申請者が自由に設定できる。また各担当者が操作を完了すると、自動的に次の担当者に通知が送られ、承認プロセスがスムーズに流れるようにしている。「特に管理者から、どこを操作すればいいかという問い合わせが来ることは想定済みだったため、操作すべきセルの背景に色を付けた」(鈴浦氏)
最終的にこのアプリには、gusuku CUSTOMINEによるカスタマイズが1000ヵ所以上施されているという。「従来の連絡書の帳票イメージと同じものがほしいという要望も絶対に来ると思ったため、『プリントクリエイター』というツールを使い、Excel帳票とほぼ同じ形でアウトプットできるようにした。ハンコが押されたようなイメージも残し、違和感のないように工夫した」(鈴浦氏)。こうしたツールの選定は、開発チームをIT部門から支援している担当者から情報提供を受けながら、二人三脚で開発を進めていった。
連絡書アプリの効果は、すぐに表れた。従来Excelで行なっていたメール添付や印刷、ファイリングなどの面倒な処理は全て不要になり、テレワーク、ハンコレスにも対応した。1年に1000件の申請が行われる処理がアプリに置き換わったことで、年間320時間の削減に成功したという。
また、セキュリティ面も改善した。従来は申請書をプリントアウトして決裁に回していたため、センシティブな情報が多くの人の目に触れるリスクがあった。kintoneアプリでは、レコードの閲覧制限をかけることで、情報を知るべき人のみが閲覧できるようになった。
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