ボタン電池、コイン電池の種類が増殖中
身の回りで使われる電池の種類は多いものです。とくに、ボタン電池やコイン電池と呼ばれるタイプは、家電量販店や100円ショップでもズラリと並び、「あっ、どれを買うんだか、わからなくなった……」なんて経験はないでしょうか。
サイズや形がボタンやコインに似ていることから、その名前で呼ばれるボタン/コイン電池。昔は「水銀電池」と呼ばれていました。水銀が有害金属であることから、日本では1995年に生産中止になり、現在はリチウム、アルカリ電池がこのジャンルの主流になっています。
ボタン/コイン電池は、車のリモコンキーや腕時計から、PCのマザーボードまで、多様に使われているのはご存知の通りです。しかし、問題は、その種類が多すぎること。買いに行くときに、スマホのカメラで型番を撮影していく方も多いのではないでしょうか。
このボタン/コイン電池の記号、複雑に見えますが、じつはシンプルなルールになっています。次の写真の通りです。
こんな記号のルールを知れば、必要な電池が店頭で見つからなくても、代用品を探せます。たとえば「LR1120」(1.5V アルカリ電池)のかわりに、「SR1120」(1.55V 酸化銀電池)が代用として使えるのがわかります。
ただし、代用品を選ぶときは、すこし注意が必要です。記号の冒頭がLのアルカリ電池は、大電流に対応できるのでフラッシュライトや動力向き。Sの酸化銀電池は、出力が安定しているかわりに、やや高価。時計や精密機械向きなことを覚えておいてください。
冒頭記号がC(二酸化マンガンアルカリ電池)とB(フッ化黒鉛リチウム電池)は、同じ3ボルト。なのでお互いに共用できます。(ただし、装置によっては保証外になる場合があります)。
いずれにしても、代用品を使った場合は、できるだけ早く正しい電池に交換した方がいいでしょう。また、アルカリとマンガン電池など、種類の違う電池を混在して使うと、液漏れなどの原因にもなります。
「LR44」など、アルファベットに続く数字が2桁なタイプもあります。これはサイズをミリ表示しているのではなく、型番を表示しています。それぞれ、「41」(外径7.9mm/高さ3.6mm)、「43」(外径11.6mm/高さ4.2mm)、「44」(外径11.6mm/高さ5.4mm)のサイズです。冒頭のアルファベットの意味は上と同じです。
単1〜単4……数字が大きくなると、なぜサイズが小さくなるのか
乾電池というと、まず思い浮かぶのは単1〜単4の電池です。筆者が子供の頃に不思議だったのは、なぜ、数字が大きくなるにつれて、サイズが小さくなるのか、ということです。
調べてみると、その理由は乾電池の歴史にありました。意外に思われるかも知れませんが、乾電池を発明したのは、屋井先蔵(やい さきぞう)という日本人。明治20年(1887年)のことです。
それまでの電池は、内部の液体が外にこぼれたり、気温が低いと凍ったりする欠点がありました。その欠点をおぎない、取り扱いをラクにした電池が「乾燥した電池」、つまり乾電池というわけです。
時代の進歩とともに、電圧や容量も増え、ひとつの電池だけで利用できることから「単位電池」と呼ばれるようになりました。そこで「単形」などと名称が変わります。
最初に「単1形」が製造され、技術が進み需要が増すごとに小型化され「単2」、「単3」と増えていきました。そんな理由から、数字が大きくなるにつれサイズが小さくなったというわけです。
ちなみに、この呼び方は通称で、現在では「20(単1)」「14(単2)」「6(単3)」などが国際規格(IEC)における正式名称です。たとえば「単2のアルカリ乾電池」の正式名称は「LR14」です。
アメリカでの電池サイズの通称は「D(単1)」、「C(単2)」「AA(単3)」「AAA(単4)」。でも「B」はどこにいってしまったのか……。これも謎ですよね。
アメリカでは最初に小さい順から「A、B、C、D」という規格があったものの、「A」より小さい電池がでてきたので、Aより小さいAA、さらに小さいAAAを追加。時代が下り、AとBが使われなくなったため、日本でいう単1〜単4は「AAA、AA、C、D」となった……ということのようです。
興味のある方は、英語版Wikipediaの「List of battery sizes」の項目を見れば、「A」「B」の電池のサイズを確認できます。
乾電池には、なぜ容量表示がないのか?
最近は、スマホなどのバッテリー容量を示す「Ah」もしくは「mAh」という表示をよく見かけるようになりました。これは、どれくらいの電流(単位:A)を何時間(単位:h)流せるかを示す単位。
しかし、市販されている(使い切りの)アルカリ電池、マンガン電池には、こうした「mAh」による容量の記載がありません。その理由は、アルカリ電池やマンガン電池は「その用途によって放電できる容量が変わるから」だそう。
電池を使ったマジックが少ない理由
筆者はマジックを仕事にしています。なので、そのジャンルの「タネ明かし」、電池を使ったマジックが少ない理由をお話しましょう。
一般的には「科学が進むにつれて、マジックのタネが変わっていくはず……」と思われがちです。しかし、電池や無線を使ったマジックのタネは、登場することはありますが、あまり普及しないのが現状です。とくにプロのマジシャンは、電池を使うシカケをあまり好みません。
その理由は「電池の中身が見えず、コンディションを事前にチェックできないから」。つまり、マジックショーでは、日常生活と違い「ちょっと、マジックに使うバッテリーがなくなったので……」なんて言い訳をするわけにいきません。
マジシャンのテクニックやアナログの仕掛けなどによるマジックなら、事前チェックや、その場でのフォローもできます。しかし電池を使う場合、「うまく動かないので、タネに使っている電池を交換しますね」なんてマジシャンがいたら、観客の夢を壊すばかりだからです。
さて、今回はいかがでしたでしょうか。化学に詳しくない筆者にとっては、あの小さな金属の入れ物に電気が入っているなんて、なんだか本当の魔法のよう。不思議でありながら、現代社会を支える「縁の下の力持ち」。電池を眺めながら、「そんなマジシャンになれたらなあ……」と思うばかりです。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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