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Cybozu Days 2021で聞いたエンタープライズセッションの前編

重厚な三菱重工でクラウドネイティブでアジャイルなデジタル組織を作ってみた話

2022年02月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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EXの手前にまずDX部門自体のDXを

 DX部門が事業部門のDX化に取り組む前に手をつけたのは、EXのさらに手前であるDX部門自体のDX化だった。ここでのDXとは「Developer eXperienece」にあたるもので、デジタル部門のモダン化を指している。

 具体的には100種類以上のインターネットサービスを「ドッグフーディング」として試用しまくり、事業部で利用可能かどうかを検証。開発に関してはクラウドとアジャイルを前提とした体制に移行すべく、外部からアジャイルコーチや技術コーチを登用した。開発体制だけではなく、組織の運営もスクラムで実施しているという。さらに、標準的なOA開発環境の制約を抜けるべく、独立した開発環境を構築。「まずはデジタル部門を自部門をモダンにしていかなければならない。クラウド×アジャイルで兵站を整えることが重要」と川口氏は語る。

DX部門のDX化を進めた

 次に進めたのが、社内コミュニケーションやコラボレーションのモダン化だ。組織内ですら上下の壁があり、組織間にも壁が存在する。こうした壁を取り払うべく、kintoneやSlack、Notion、Asana、Miroなどのツールを使い、組織の活動をすべて透明化することで、壁を取り払おうというものだ。さらに社内コミュニケーションサイトを立ち上げて、情報発信にも務めた。1営業日あたり1本の頻度で記事を公開しているという。

 CXにおいては顧客の理解も重要だ。「お客さまが三菱重工のどの部分に苦虫をかみつぶしているのか、どんなところに期待してくれているのか。きちんと理解することが重要」と川口氏は語る。そのため、DX部門と事業部門がタッグを組んで、顧客の声をヒアリングしているという。

 そして、最後は組織文化だ。アマチュアの小集団からスタートした三菱重工のDX部門なので、できない言い訳はいくらでもできるが、重視したのは実行して成果を出していくことだった。しかし、このSoE(System of Engagement)の領域では、どうすれば成功するかという方法は確立していないため、とにかく実行を繰り返し、精度を高めていくしかないという。ここでの実行とは「学んでいく」「やってみよう」「引っ張っていこう」「見せていこう」の4つ。これを繰り返すことで、事業に意味のあるインパクトを生み出していくのが、同社のDX組織のやり方だという。

DX部門の組織文化

DX部門は他部署からどう見える? 情シスとの関係は?

 Q&Aに臨んだ栗山氏は、まず今回作ったデジタル組織と元々の三菱重工の文化的なギャップについて聞いた。これに対して川口氏は、8万人の組織なので、すべて当てはまる訳ではないと前置きしつつ、「26年前、自分が就職したときは、当時ゼネコンになろうとして、新規事業を立ち上げていた最中。建築や設計できる人がいないから、面白そうで入った。その経験からすると、新規事業を立ち上げ、新しい人をとり、今までやらなかったことをやろうという文化は、脈々と根付いている気がします」とコメントした。

栗山氏の質問に川口氏が答える

 続いて、DX組織は周りの事業部からどう思われているいるか?という質問。川口氏は、「われわれが役に立っているかは別として、とにかく事業部門が困っていて、業務でデジタル化したいのに、相談先がなかったのは事実。なので、役立つかは別として、まずは相談は来ます。ラフな雑談から小さなプロジェクトが始まって、3ヶ月してプロトタイプができて、だんだん大きくなってくる感じです」とコメント。

 さらにすでに情報システム部門との関係はどうなのか? 「カニバっているかというと、カニバっていない。情シスが担っているのはインフラや基幹システム、オフィスソフトで、それを超えるkintoneなどのツールの活用は担い手がいないホワイトスペースなことが多い。本来やらなければならないけど、リソースがないというところを、DX部門が手がけている」と川口氏はコメントする。

 三菱重工の場合、情シスは技術を管轄するCTOの所管、DX部門は戦略を担うCSOの所管ということで、組織上の立ち位置も違うという。組織の成り立ちも、もともとは3事業のうちの産業基盤系の責任者がデジタル化に課題を感じ、計画や企画を任せたグループがそのまま実行部隊として組織化したという。自らがサイボウズの執行役員でもある栗山氏は、「0から1として新しいことがスタートするには、誰かが決めている。自然発生しているわけではない」とコメントする。

 続いて聞いたのは、三菱重工のキャリア形成において、デジタル部門に異動することはどう感じているのか? これに対して川口氏は、「社内公募で集まってくれるメンバーがどんなモチベーションで来てくれたのか? キャリア形成のための一般的なパスをトレースしていくのが重要なのはわかっているけど、今目の前にある課題に取り組むと将来いいことがあると感じている方が来ている感覚」と語る。

 採用面接の際に川口氏が聞くのは「小学校や中学校でどんなことに夢中になったのか?」。「そのときに熱中したところが、今やっていることに重なるといいなと思う。私も今までIT系には一切関わった経験がなく、高校の時にコンピューター研究会にいたときくらい」と川口氏は語る。そんなITとの関わりがなかった川口氏からすると、「ググれば情報が出てくる」「書籍も豊富」「触って体験しやすい」ITは勉強しやすいと感じたという。これに対して栗山氏も、「専門分野の人がITを学ぶと、難しそうなこと言っているけど、実はITって簡単ということがばれる(笑)」とコメント。続く「長大」を冠した後編をアピールして、DX組織の苦労ややりがいを垣間見るセッションを終えた。

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