IDaaS(クラウドアイデンティティ管理サービス)を提供するOktaの顧客企業は、平均して89個のアプリを業務利用しており、クラウドプラットフォームではマルチクラウドの採用が増えつつある――。Oktaが2022年1月26日に発表した業務アプリ利用動向の年次調査「Businesses at Work 2022」からは、そのようなトレンドが見えてくる。
同日開催されたオンライン説明会で、米Oktaでデータ&インサイト担当ディレクターを務めるLauren Anderson(ローレン・アンダーソン)氏が解説した。
人気アプリ3位にGoogle Workspaceがランクイン、急成長アプリは?
この調査は2020年11月~2021年10月の1年間、7000以上のアプリケーションと認証を統合できる「Okta Integration Network」(OIN)を介して収集した匿名化認証データから、世界の顧客が使用する業務アプリケーションの利用動向を分析したもの。OINは世界1万4000社以上で利用されており、世界各国から毎日数百万件の認証データを取得している。2015年以来毎年実施している同調査は、今回が8回目となる。
今回の調査において、顧客社数ベースで最も人気のあるアプリは「Microsoft 365」となった。Microsoft 365は2015年の調査開始から首位を維持し続けており、今回も2位と大きく差を付けている。2位は「Amazon Web Services(AWS)」で、Salesforceは4位にランクダウンした。また5位は「Zoom」。
アンダーソン氏が注目するのは3位にランクインした「Google Workspace」だ。今回の調査によると、同アプリのOkta顧客数は前年比38%増、中でもAPACとEMEAにおける成長が顕著で、前年比でそれぞれ68%、43%の増加となっている。
また顧客社数ベースで最も急成長したアプリはオンラインコラボレーション/ノートツールの「Notion」で、前年比240%(3.4倍)の成長。以下、出張支援の「TripActions」(同178%)、API管理の「Postman」(同173%)と続く。
アンダーソン氏は、急成長した上位10アプリから見えるトレンドとして「企業は『コンテンツコラボレーション』と『セキュリティツール』に投資している」と説明した。前年比成長率は、コンテンツコラボレーションが20%、セキュリティツールが30%だという。なお、急成長アプリトップ10のうち7つは初登場で、6つはコラボレーション系アプリだった。
さらにアンダーソン氏は、Postmanが3位に入ったことにも触れて「“APIファースト”のマインドセットが台頭し始めている」ともコメントしている。
大企業は平均178のアプリを組み合わせて利用
Oktaは複数のSaaSに対する認証を統合するIDaaSであるため、Okta顧客企業では各分野に特化したSaaSを組み合わせて使う傾向が続いていることもわかった。
Okta顧客企業が導入するアプリの平均数は89個だが、従業員2000人以上の大企業にかぎって見ると、平均で187個のアプリを導入している。さらに、Oktaを4年間以上利用している企業群は、平均210個ものアプリを導入しているという。Okta利用歴1年未満の企業は平均25個であり、Oktaを利用することで顧客企業は複数のSaaSを導入しやすい環境を整えていることがうかがえる。
またMicrosoft 365を導入している顧客企業が、併せてGoogle Workspaceを導入しているケースは前年の36%から38%に増加した。同様に、Microsoft 365とAWSを併せて導入する企業は41%から43%に、Zoomは42%から45%に、Slackも32%から33%にと、複数アプリの組み合わせ導入は増える傾向にある。
マルチクラウド化の傾向もデータで明らかに
クラウドプラットフォームでは依然AWSがトップを独走しており、今回の調査では前年比32%の増加となった。2018年からの累計では152%の増加となる。
AWSを除くクラウドプラットフォームでは、「Google Cloud Platform(GCP)」が前年比40%増と最も急速な成長を見せ3位、2018年比では365%の成長となった。2位の「Microsoft Azure」は前年比21%増で、こちらは2018年比で116%の増加となる。
マルチクラウドのトレンドに沿うように、Okta顧客でも複数のクラウドプラットフォームを利用する顧客が増えつつあるようだ。2017年時点ではアクセスしたクラウドプラットフォームが「1種類」という顧客が92%を占めていたが、今回の調査では86%まで減少している。アンダーソン氏は、「レガシーとオンプレミスからクラウドへの移行が進むにつれ、クラウドプラットフォームの多様化が進んでいる」とコメントした。
複数のクラウドプラットフォームを実装するOkta顧客で、最も人気の高い組合せは「AWS+GCP」だった。この2つを実装する顧客は2018年から倍増しており、一方でこの間に「AWS+Azure」の組み合せは微減している。
Oktaユーザーのアプリ開発者が使うツールでは「Atlassian Product Suite」がトップで、以下「GitHub」「PagerDuty」「Datalog」「New Relic」と続いた。アンダーソン氏は、トップ10のうちアプリ監視やインシデント対応が7個、ログ収集が4個を占めたことに触れ、「開発者はアプリの長期的安定性を重視し、障害に関するプロセスの構築や大規模な障害発生前に問題を検知するツールを用いている」と説明した。
多要素認証(MFA)でよく使われる認証要素は?
リモートアクセスソリューションでは、Palo Alto Networksの「GlobalProtect」が昨年に続いて1位となり、成長率は前年比42%だった。2位は「Cisco AnyConnect」で前年比38%増。注目は、前年比190%の成長率で3位に浮上した「AWS Client VPN」。簡単にクライアントVPNソリューションを実装できる点が受け入れにつながったと分析している。
セキュリティ分野では、MFA(多要素認証)の認証要素別順位も発表した。MFAはアカウント乗っ取りを防ぐ強力な手段だが、普及はそれほど進んでおらず、認証要素にもばらつきがあると、アンダーソン氏は説明する。
Oktaでは、従業員向けのID管理「Workforce Identity」とエンドユーザー向けID管理「Customer Identity and Access Management(CIAM)」の両方の顧客企業を調査して、そこで使われているMFAの認証要素を調査している。
Workforce Identityでは、セキュリティ強度が弱いとされる知識ベースの認証要素(セキュリティ質問、SMS認証など)の利用が減少し、より強度の強い「Okta Verify」(OktaのMFAアプリ)など所有ベースの認証要素へと移行していることがわかった。
その一方で、CIAMのエンドユーザーが使用する認証要素では、簡単に使えるアクセシビリティが重視されている。「SMS/通話認証」がトップで、以下「電子メール」「Okta Verify」と続いた。中でも電子メールは、前年の32%から46%に増加している。アンダーソン氏は「エンドユーザーが簡単に利用できる認証要素を幅広く組み合わせようとしている」とコメントした。