国土交通省が、携帯電話の位置情報データを活用した実証実験事業の実施対象を決定した。携帯電話の位置情報データを活用し、地域課題の解決や、従来の交通調査では得られなかった知見の取得を目指す事業を公募するもので、自治体や企業など9件のプロジェクトが採択された。
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なぜいま、この実証実験事業を実施するのか、また目指すところは何なのか。人間社会データの収集・分析を社会課題の解決に生かす「データ政策学」研究の第一人者である曽根原登氏と、国土交通省総合政策局総務課の後藤祐介氏の対談をお届けする。(以下、文中敬称略)
ビッグデータ活用を社会課題解決につなげる大規模プロジェクトの第一歩
曽根原 2021年12月初旬に今回の実証実験の採択事業者が決定しました。まず、この事業を始めるまでの経緯について、お聞かせください。
後藤 この実証実験を始める背景として、もともと国土交通省が5年に1度行っていた大規模交通センサスの実施が、コロナ禍で困難に直面したということがあります。これは、飛行機やバス、鉄道など、日本国土の交通の利用実態の変化を把握する調査ですが、実際に乗客にアンケート用紙を配って調査を行うため、新型コロナウイルス感染症の影響によって実施が難しくなってしまった。そこで、実際に乗客と接触することなくデータを取得する方法を検討していたところ、ビッグデータの活用が期待できるということがわかりました。
せっかくプロジェクトを立ち上げるのであれば、交通調査に留まらず、社会解決の手段としても有効活用していきたいということで、2021年4月からプロジェクトがスタートしました。基礎的なところはある程度目途がついたので、次の段階として社会実装の実験を進めていこうということで、今回の実証実験を実施することになりました。
曽根原 私もこれまでビッグデータを観光や防災政策に役立てるトライアルをやってきましたが、もとになるデータの提供に関しては、主に総務省など情報通信系の行政機関や企業が中心でした。今回は通信の視点ではなくて、位置情報や移動情報など交通データの活用というところが画期的な動きだと思います。
後藤 世界的にも交通ビッグデータの活用はまだ始まったばかりで、まだ試行錯誤の状況です。研究成果がビジネスに結びつかないままで、デスバレーになってしまう可能性があるので、最初のインセンティブが機能しないところを、国としてお手伝いしたいという意味合いがあります。
曽根原 社会課題を解決していくには、自治体との連携が重要になると思いますが、まだまだ社会実装や運用、データ活用人材の課題も多いですね。
後藤 デジタル化によって社会課題解決を目指す意欲的な自治体が最近は増えているものの、最新の技術情報をなかなか得づらいこともあって、ベンダーの提案を鵜呑みにしがちで、無駄が多く、コストも高くついているという課題が見えてきました。自治体ごとにシステムが違うことも課題です。
みな防災や観光など、同じ課題を抱えているので、解決方法は同じはずなのですが、統一的な標準フォーマットが存在しないので、そのツールを我々国土交通省が提供していきたいと考えています。
曽根原 データ標準化は大事です。位置情報にしても、通信事業者各社、自治体や公共施設、商業施設のWi-Fiデータなど、それぞれのフォーマットが標準化されていないため、データ統合ができればかなりの精度で価値の高いデータが取れるはずなのに、なかなか活用できていないという課題があります。位置や移動のデータ標準化はぜひ進めていただきたいですね。
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