新社長の梅田成二氏が事業戦略を語る、“同期/非同期のバランスがとれた新しい働き方”とは
Dropbox Japan、2022年は「現場力上がる、使えるデジタル」が目標
Dropbox Japanは2021年12月3日、2022年の事業戦略説明会を開催した。今年7月に社長就任した梅田成二氏が出席し、製品/サービスのポートフォリオ拡充や他社ソリューション連携の強化、パートナー協業の推進、さらに日本市場に提案していく“バーチャル・ファーストな新しい働き方”などを紹介した。新しい働き方を実践する国内中小企業への支援プログラムも発表している。
「現場ユーザーの支持する声が非常に強い」Dropboxの強みを生かす
グローバル、日本とも、Dropboxのビジネスは堅調だ。グローバルの最新四半期(2021年第3四半期)売上高は5億5000万ドルで、前年同期比で13%の成長となった。有料ユーザー数は1649万ユーザーで、ここには個人向け/法人向けサービスの両方が含まれるものの、そのうち80%がDropboxを仕事で利用しているという。「Dropboxはコンシューマー(サービス)の会社と思われている方も多いかもしれないが、実際は80%が仕事に利用している」(梅田氏)。
中でも日本市場のビジネス成長率はグローバルでトップクラスであり、法人向けビジネスの成長を牽引しているのは日本だという。「日本はデジタル化、クラウド化が少し遅れていることもあり、まだまだ“育ち盛り”の市場だと見ている」(梅田氏)。
国内では特に建設、ITサービス、メディアの各業界における採用が盛んだ。今後はこれらに加えて、大学/文教や地方自治体、中堅中小企業といったセクターでの成長も期待しているという。
ちなみにDropbox Japanでは1年前から、100%パートナー経由での販売を行う「100%チャネルファースト」の戦略をとっている。これにより全国の地域カバレッジ、あるいは業界カバレッジが高まり、リセラー社数は1年間で2倍に、またDropboxのハイタッチ営業とパートナー営業との協業売上は5.7倍に成長している。
こうした成果が出た要因については、パートナーとの協業により営業リソースがスケールできたこと、特定業界に強みを持つパートナーと業界を“深掘り”していること、また業種特化ソリューションとDropboxの連携が進んだことなどを挙げる。
さまざまな顧客の声を聞いて、梅田氏が「印象的だった」と語るのが、Dropboxの製品やサービスに対して「現場の(現場ユーザーの)」支持する声が非常に強いという点だ。
「Dropboxはファイルの同期スピードが速い、現場の人が簡単に使える、その結果として効果が上がる――こうした声をよくいただく。わたし自身も日本企業で働いた経験があるが、IT部門が良かれと思ってITシステムを導入しても、使い方が難しいと現場はなかなか使ってくれず、効果が上がらない。Dropbox製品はコンシューマー技術を起点としており、使いやすいので現場が使ってくれる、効果が上がるというのが特徴であり強みだと思っている」(梅田氏)
そうした現場導入事例の1つとして、この日は、建設業の奥村組におけるDropbox導入を新たに公表した。奥村組では現場事務所や支店にあったNASを撤廃し、全データをDropboxに集約して、現場でもiPadで参照できる仕組みを構築した。それだけでなく、既存の工事管理ツールやCRMのシステムとDropboxをAPI連携させることで工事/顧客情報の密結合を図り、建築業務のデジタル化を推進しているという。
コンプライアンス対応、ポートフォリオ拡張、他社製品連携を強化
「現場での使いやすさ」という強みを背景に、2022年は「現場力上がる、使えるデジタル」をスローガンに掲げ、日本企業の大きな課題である“現場の生産性向上”のためのデジタルツールを提供していく。梅田氏は、その実現に向けた「2022年の優先事項」を4つ挙げた。「コンプライアンス対応」「製品ポートフォリオの拡張」「他社ソリューションとの連携強化」「新しい働き方の提案と実践」だ。
まずコンプライアンス対応では、文教セクターや地方自治体での採用を促すために、改正電子帳簿保存法やISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への対応作業を進めていると説明する。
製品ポートフォリオの拡張では、「データを保管するだけでなく『活用』することが重要」という観点で展開を進めるとした。最近では画面の動画キャプチャをすばやく共有できる「Dropbox Capture」や動画レビューなどの共同作業を容易にする「Dropbox Replay」などの新ツールをラインアップしたほか、ドキュメントワークフロー用の製品群として電子署名サービスの「HelloSign」、セキュアなドキュメント共有サービスの「DocSend」、コンテンツユニバーサル検索の「Command E」も機能連携や販売を強化していく。
保管されたデータの活用をさらに促すために、他社ソリューションとの連携強化も引き続き進めていく。Dropbox Businessを、顧客の利用するさまざまなクラウドアプリケーションの“共通ストレージ”と位置づけることで、エンドトゥエンドのワークフロー実現などに寄与していく考えだ。梅田氏は、連携強化によって「カバーし切れていない市場も取り込みたい」と述べる。
「たとえばこの図にあるmxHeroは“脱・PPAP”のソリューション(メールの添付ファイルをDropboxに自動保存したうえで送信)だが、ある大手のお客様からぜひ連携してほしいとリクエストをいただき、対応を実現したもの」(梅田氏)
日本市場により適した「バーチャル・ファースト」の働き方を提案
そして最後の施策が「新しい働き方の提案と実践」だ。Dropboxではパンデミック以後、社員がリモートワーク中心で働くスタイルを実践し、2020年10月にはグローバルで「バーチャル・ファースト」な働き方への移行を宣言した。日本法人も含めて自社オフィスを閉鎖するなど、本格的にオンラインを働く場と定めている。
「バーチャル・ファーストという方針を決める際に社内アンケートを行った結果、多かった意見が『オフィスに出勤する/しない社員間で分断が生じるのが嫌だ』ということ。出社するかどうかで業績評価に不平等が生まれないように、バーチャル(リモートワーク)をデフォルトにすると決めた」(梅田氏)
ただし、バーチャル・ファーストの方針で社員が協力し合う企業文化が損なわれないか、社内コミュニケーションに行き違いが生じないか、共同作業が困難にならないかなどと懸念する声もあった。
そうした懸念を解消するために、Dropboxではバーチャル・ファーストの実践において複数の施策を実施している。社内ミーティングや共同作業のためのコアタイムを設定し、それ以外の時間帯は各社員がより自由に管理できるようにすること、社員コラボレーションや顧客との打ち合わせなどの専用スペースであるDropbox Studioを開設すること、などだ。
「(コラボレーションコアタイムの設定は)社員どうしの協働にあてる“同期する時間”と、1人で集中して仕事をする“非同期の時間”に分けて、同期/非同期のメリハリをつけて働こうというもの。Dropbox Studioは、こうした同期する働き方に合った場所を提供する」(梅田氏)
Dropbox Studioは会議室を備えるほか、よりカジュアルな雰囲気でブレインストーミングやチームビルディングなども行えるように、ソファーを置いたり飲み物やスナックを提供したりと工夫しているという。
日本法人でもバーチャル・ファーストの働き方を1年半ほど続けており、社員個々人がより良い方法を模索するなかで「非同期と同期のリズムを作る」こと、「会議の時間の使い方」を考えることなどにつながったと、梅田氏は語った。なおDropboxでは、標準の会議時間を30分程度と短めに定めている。
「会議で最も良くないのは、判断が難しく結論が出ない、次回に宿題を残してしまうなど、時間切れで尻すぼみに終わってしまうこと。非同期/同期のリズムを作ると、難しい議論の場合は事前に(非同期の時間を使って)SlackやTeamsで要旨をシェアし、判断する側の上司も事前に考えることができる。そうすることでプロダクティブな(生産性の上がる)方向に会議が進んでいく。これを非常に痛感している」(梅田氏)
こうした無駄の少ない会議のあり方は、社内アンケートでも高い評価を得られているという。さらには、議題によっては会議そのものを開催せず、Slackなどを使った非同期の議論で十分であるといった考え方も根付いているという。「社内ではこれを“非同期バイデフォルト”と呼んでいる」(梅田氏)。
非同期/同期のバランスがとれた働き方を推進した結果、人材採用にも好影響が生まれていると語る。たとえば両親の介護のために実家に戻らなければならない、出産のために妻の実家で働きたいなど、これまでの働き方を変える必要がある人材からの応募が増え、実際に金沢、奈良、八ヶ岳などで「時間と場所の壁をうまく乗り越えて」働く社員がいると紹介した。
そうした、新しい働き方を模索する中小企業を支援する目的で、Dropbox Japanでは「バーチャルファースト・アンバサダー・プログラム 2022」を開始すると発表した(募集期間は2022年1月末まで)。Dropbox Businessのライセンスを優待価格で提供するとともに、その具体的な取り組みを発信するというものだ。
「今回ご紹介したバーチャル・ファーストの働き方は、あくまでもDropbox Japanでの一例。日本における新しい働き方を考えた場合は、お客様の業種や企業規模、ビジネスモデルなどに合った合理的な方法があるはずだ。今回のプログラムで選定させていただいたお客様の事例をDropboxとして広く公開し、同じような取り組みをしようとされている別のお客様にも広く参考にしていただこうと考えた」(梅田氏)
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