前へ 1 2 3 次へ

新宿グランドターミナルの再編 第1回

「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」始動! vol.1

【連載/新宿再開発】新宿はこれからどうなる!? 次世代に向けて目指すべき新たな“都市”の姿とは?

文●岡田知子(BLOOM) 写真●曽根田 元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 日本最大のターミナル駅、新宿駅とその周辺が今、大きく変わろうとしている。2018(平成30)年、東京都と新宿区は「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」を策定。新宿駅とその一帯を「新宿グランドターミナル」とし、2046(令和28)年度をめどに再開発される予定だ。老朽化した駅ビルの建て替え、西口・東口の駅前広場の再整備、東西を結ぶデッキの新設などが行われ、新宿駅に乗り入れる鉄道会社をも巻き込んだビッグプロジェクトとなる。

 「交流・連携・挑戦」をテーマに、目指すは、駅、駅前広場、駅ビルなどが一体化してまちとつながり、多様な活動を生み出す“次世代のターミナル”。これからの新宿の在るべき姿とは!? 「新宿グランドターミナル」に期待することとは!? 日本大学理工学部 特任教授で、「新宿の拠点再整備検討委員会」の会長を務める岸井隆幸氏に尋ねた。

日本大学理工学部 特任教授の岸井隆幸氏。都市計画の専門家として、都市における開発整備事業、交通計画、空間構成などに精通

 

350万人のエネルギーが交錯し、全てを受け入れてきた
“ブラックホール”のようなまち


――まず、「新宿」とはどのようなまちだと思われますか? その魅力とは?

岸井「新宿は、1日350万人(「東京都統計年鑑」〈平成27年〉より。以下同)という世界一乗降客数が多い駅の周りに広がるまちです。つまり、350万人のエネルギーが集まる場所。乗降客数2番目(325万人)の渋谷まで4~6分、3番目(265万人)の池袋まで5~9分、7番目(110万人)の東京まで15分と、他の東京のエネルギーが集まるスポットとも極めて近い、いわば『交点』に位置しています。渋谷も池袋も東京もそれぞれ拠点性が高いですが、その拠点を結んでいる、一番いいところにあるのが新宿です。

 そういう意味では、『世界一のエネルギースポット』。世界にこれほど人のエネルギーを感じるまちはなく、しかも何でものみ込んで大きくなってきました。商業、歓楽街、エンタメ、業務、行政などさまざまな機能が駅周辺に広がっていますが、いずれも『新宿』といえます。何でも受け入れる『ブラックホール』のようだと感じています」

――歴史的にはどんな特徴が?

岸井「新宿は、江戸の外れというか、入口に設けられた宿場『内藤新宿』から生まれたまちです。東京が大きく発展する中で、住宅地としての郊外への鉄道が整備され、その郊外と都心をつなぐターミナル駅という形で発展してきました。郊外の人々が集まってくる場所でもあり、駅の西と東でそれぞれ機能は少し異なりますが、多様なものがかなり大きく広がっている、そういうまちだと思います」

学生時代は新宿ゴールデン街に通うことも多かったという岸井氏。個人的に好きなまちは、出身地である神戸とオランダのアムステルダム

 

「式年遷宮」方式で発展を続けてきた東京は世界でも希少なまち

 

――多様性やサステナブル、SDGsなどが尊重される時代において、これからあるべき都市の姿とは?

岸井「社会的には、ネット化、グローバル化が進んでいますが、結局、『信頼』や『コミュニティー』が求められていますし、空間的には、コロナ禍以前から職住融合が進んでいます。中心部であっても『住』の機能が入ってくるし、郊外の拠点駅では新しい『職』の集積が起きており、郊外鉄道の役割も変化していく都市にならなくてはなりません」

――その「変化」とは、どういったものですか?

岸井「例えば、東京の場合は、鉄道会社が放射状に路線を延ばし、郊外では住宅・宅地を供給、都心のターミナルでは駅ビルや駅前百貨店を展開し、郊外から職場のある都心に鉄道で人を大量に早く運んでくるというのが従来のビジネスモデルでした。しかし、今回のコロナ禍で、リモートでかなり仕事ができることが確認できましたし、できる人がいることも分かりました。

 昔は、都心は大気汚染がひどかったり、緑がなかったりしたので、環境のいい郊外に住んで、鉄道に乗って都心に仕事に来るというのが、新しいライフスタイルでした。でも今は、東京でも青空が見えるし、環境も良くなって、住宅が都心に回帰してきました。逆に、郊外で働けることも分かりました。ということは、まちにおける鉄道のニーズや駅のつくり方、ターミナル駅の在り方や意味なども変化していくわけです。
 駅ビルや駅前の百貨店も、体験型など新しいコンテンツも含めて、みんなで少しずつ工夫していくことが必要です」

――持続可能性、環境への配慮、防災の観点から、都市をつくるには、東京全体の「式年遷宮」方式が有効とも話していらっしゃいます。

岸井「式年遷宮とは、一定の周期ごとに新しいお宮を建て、旧殿のご神体を移すことで、伊勢神宮が有名ですよね。

 例えば、東京でいうと、最初に中枢業務を担っていた地域は、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)。次が1964(昭和39)年の東京オリンピックを機に開発された渋谷、1970(昭和45)年頃から開発が始まった新宿副都心(西新宿)。大丸有エリアは1988(昭和63)年頃から再開発が始まり、2000(平成12)年頃には六本木…と、開発地が移り変わっています。そして、今は渋谷が再開発中で、これからは新宿。そういう意味では、戦後の高度成長期から2巡目の再開発が順番に行われています。たまたまですが、20~30年ごとにぐるぐる回って順番に更新しているという意味では、東京は『式年遷宮』式でうまくやれていると思います」

――それができるのが、東京の大きな強みでもあるという。

岸井「東京が他の都市と違うのは、一つの場所で再開発・更新が始まっても、他の場所で経済機能を維持できるし、十分にやっていける点。それぞれの場所は鉄道なら10分程度でつながっていて、全体の活動を止めることなく常に新しい時代のニーズやビジネス環境にふさわしいものを追い掛けるということが、東京においては可能となっています。それはとてもサステナブルなこと。他の都市ではなかなかできないことです」

 
前へ 1 2 3 次へ