デジタル社会の基本となるID管理とディレクトリ化
今回のデジタル庁立ち上げのきっかけとして、マイナンバーのシステムとしての使い勝手や不便さがあったことは間違いない。昨年のコロナ禍の給付金の受け取りで、多くの自治体はシステムとしてのマイナンバーの使い勝手の悪さに白旗を揚げた。ワクチン接種の現場においても、使われているのはいまだに紙のクーポンだ。ある意味、「はりぼてのデジタル国家」だった日本をどのように変革していくのか? デジタル庁としてマイナンバーにどう関わっていくのかを聞いてみた。
今回の法改正で、マイナンバーは正式にデジタル庁の所管になりました。各自治体の住民基本台帳のシステムまでは持ってきたわけではないですが、今後、マイナンバーに関わる権限はすべてデジタル庁が持ちます。
ずっとレイヤー構造化の話をしてきましたが、その基本はID管理です。ただし、IDの統合管理自体が目的ではありません。すべてのヒト、モノ、サービスに第三者認証も効いた信頼できる本人確認の手段を、社会のインフラとして整備することが必ず必要になります。本質はディレクトリ構造の確立です。
マイナンバーばかり注目を浴びていますが、これって本当はヒトだけじゃない。法人についてもやらなければならないし、モノやソフトウェアについてもIDをふらなければならない。でも、IDだけでは商売にならないから、そこはデジ庁がやります。デジタル社会の基本としては、日本中のIDをディレクトリ構造できれいに整理するという作業が要る。先ほど話した1階屋と2階屋の基盤はハードウェアやネットワークなんですが、⼀番大事なのはID管理。そのアンカーとなるのが個人に政府が求めるマイナンバーだし、法人ではGビズIDになります。
GビズIDって知らない方も多いと思いますが、400万くらいある日本の法人のうち、55万社程度はすでに持っておられます。実は400万といっても、これは法人番号の振られている数で、実質的に活動しているところは200数十万社。だから、中小企業まで含めて1/4くらいまでは、もう持っておられるんです。ちなみに、GビズIDの番号そのものは、法人登記の時に付与される法人番号と同じものを使っています。
個人ならマイナンバーと、マイナンバーカードのICとマイナポータルで使える電子証明書、法人ならGビズIDと、商業登記証明でとれる電子証明書。日本中をレイヤー構造化していくため、デジ庁としては当然力を入れ、これらの利用をてこ入れしていくことになります。
マイナンバー自体が取り沙汰されがちですが、大切なのは「レイヤー構造化する」ことであって、そのための基本が人、モノ、ソフトにIDをつけディレクトリ構造化していく作業です。その主客が転倒しないよう、デジタル庁としても気をつけながら、がんばっていきたいと思います。
発足時はよくも悪くも「白紙」 経営計画にあたる重点計画は年末
次の質問は実行体制についてだ。9月1日に発足したデジタル庁は600人程度の陣容を計画しており、民間人も数多く登用される予定となっている。官公庁や準公共と呼ばれるシステムのレイヤー化を推進し、日本全体のDX化を推進するというミッションを実現するため、どのような組織構造や方針になっていくのだろうか?
とにかく1つ1つの開発案件をすべて、デジ庁内部でプロジェクトとして定義し、現場で指揮をとるプロジェクトマネージャーとリソースや進捗を管理するプロジェクトオーナーを立てます。大きな分類では、スタート時点ではプロジェクトマネージャーは主に民間人材、プロジェクトオーナーは主に行政官で始めようとしています。
もちろん、行政官でもITリテラシがあって、ソースコードも見られて、プログラムをバリバリ書けるような人は、プロジェクトマネージャーにします。逆に民間でも行政リソースの分配や段取りの管理に慣れた人がいれば、プロジェクトオーナーにしていきます。今後は両者のケースが混ざっていくのが理想です。
ただ、まだ検討の最中です。どういう単位をプロジェクトとすればいいのか、今のデジ庁でどれだけの数のプロジェクトを持ちきれるのかも手探りですし、そもそも民間人材は絶賛募集中なので、うまく配分できるかもわからない。その辺は、引き続き、⼿探りでやっていきます。
手探りと言いましたけど、良くも悪くもなにも決まってない。組織のスタートするのが9月1日ですから。民間でジョイントベンチャー立てるとき、設立前に詳細な経営計画なんてできてないでしょ。まずは陣容を、各府省や民間からそろえつつあるところ。取材をいただいている現段階(8月時点)では、やむを得ないかなと思っています。
今のデジ庁は、昨年末に作業部会がまとめた報告書があり、閣議決定された重点計画(「デジタル・ガバメント実行計画」)があるので、そこに書かれた論理に即して動いています。重点計画に即した法改正が今年の通常国会で行なわれ、見合った権限も付いてきたので、それに見合った組織を作り、マイナンバー関連や電子署名に関する権限の移行作業などを行なっています。
これからは組織を作って、みんなでわいわいやりつつ、次の12月に新たな重点計画を作ります。閣議にかけるこの重点計画が、株式会社で言うところの経営計画のようなものだと思います。それまでは昨年作った計画に基づいてデジ庁という新たなジョイントベンチャーを作り、すったもんだしながら、今後4か月かけて新たな計画を決めていくということです。
別に逃げるわけではないですけれど、デジ庁がやることはデジ庁だけでは決められない。各省との協同作業が必要です。ただ、デジ庁だけで乱暴に決めれば良い、というわけにはいきません。