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かつての愛用モデル「SE535LTD」を再入手

ワイヤレス全盛の中、あえて有線イヤホンを使って発見したこと

2021年05月22日 12時00分更新

文● 貝塚/ASCII

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シュアの「SE535LTD」は、かつて私の宝物でした

ワイヤレスイヤホンとマスクの相性はいい

 ここ数年で、イヤホンの主役はあっという間にワイヤレスイヤホンになったように思います。

 ワイヤレスイヤホンが発売されはじめた当初は、接続の安定性や音質に疑問の残る製品も多かったですが、現行の製品ではそんなこともありません。コーデックも進歩しているし、途切れや意図しない切断も起きにくい、優秀な製品ばかりです。

 ワイヤレスイヤホンは快適です。カバンやポケットに放り込んでおいても、ケーブルが絡まることがありません。マスクを日常的に着用する世の中では、このメリットは以前にも増して、すごく大きいです。

現在は、ボーズの「SoundSport Free wireless headphones」を愛用しています

 私も、ボーズの「SoundSport Free wireless headphones」をよく使っています。ケースから出しただけで機器と接続され、イヤホン単体のバッテリー寿命も、最大5時間と長い。おまけにIPX4規格の防滴仕様で、小雨の中で使っても大丈夫。音質もボーズらしくすっきりとしつつふくよかで、不満がありません。

久しぶりに有線イヤホンを使う

 ボーズを使う前は、主にシュアの「SE535LTD」というイヤホンを使っていました。購入したのは、2013年頃だったように思います。当時の価格は5万円を超えており、思い切って買った覚えがあります。

 現在はコンデンサー型の「KSE1500」や、4BAドライバー構成の「SE846」という、より高価なモデルが売っていますし、「AONIC」という新ラインから、「AONIC 4」というハイブリッド型も販売されていますが、当時は、SE535がシュアのインイヤーモニターのフラグシップでした。

いまでは、4BAドライバー構成の「SE846」も人気です

 2021年現在のハイエンドイヤホンは、10万円、20万円という価格もそれほど珍しくなくなっています。耳型をとってオーダーをする「カスタムIEM」も、オーディオファンには一気に普及した感じがあります。

 しかし当時はまだ、いまのように多ユニット化も流行っていませんでしたし、BAドライバーを3つも搭載して、価格が5万円を超えるというイヤホンはハイエンドに入る認識でした。もちろんもっと高価なモデルはありましたが、「相対的にハイエンドだった」とでも言うと正しいでしょうか。

 SE535LTDは本体カラーに通常モデルにはないレッドを採用し、音響フィルターを専用のものに変えた、SE535のチューニングモデルです。本来はステージ用モニターですが、スマートフォンやDAP(デジタルオーディオプレイヤー)に直接さしても十分に鳴らせるので、ポータブルアンプを持ち歩いたりする手間もなく、気軽に高音質が楽しめる点が気に入っていました(2021年現在は、SE535LTDの展開はなく、SE535のカラーバリエーションとしてレッドが用意されてます)。

 今どきの他BAドライバーモデルに比べると、SE535LTDの音質はサッパリと聞こえますが、よく引き締まった低域と、細部まではっきりと聞き取れる繊細さが、誇張の少ない音にまとまっている。さりげなく空間の広がりも付加されていて、派手ではないものの、ドラマチックです。この魅力は色褪せません。

ポータブルオーディオにハマるということ

 ポータブルオーディオにハマると、まずイヤホン、続いてDAP、ポータブルアンプにこだわり、DAPとアンプを接続するケーブル、イヤホンのリケーブルにこだわり、もちろん音源の圧縮方式にこだわります。気に入ったセッティングができあがったと思いきや、より上位のモデルや、仕様の異なるケーブルがまた気になってきたりする。ああでもないこうでもないと色々試して、最終的に一周して「結局、最初に買ったやつが一番好きかも!」となったりもする。

 そういうことをすると、やっぱり音質はどんどん上がっていくのですが、気を使うことが増えますし、バッテリー管理とかも面倒になってきます。たぶん、オーディオマニアと言われる領域になると、その手間そのものが楽しくなってくるのだと思いますが、私の場合は、複数の機器のバッテリー管理をしたり、常に新しい仕様のケーブルが気になっていたりといった状態が辛くなってしまいました。

 ところが、SE535LTDはスマートフォンやDAPに直接さしても、かなりいい音で鳴ったのです。アンプやケーブル、接続方式にこだわってSE535LTDを鳴らした場合と比較すれば、劣りはします。ですが、手間やコストと天秤にかけると、許せるマイナスでした。「ラクにいい音が手に入る」ことの魅力は私にとって大きく、「もう、SE535LTDがあればいいや」というモードで数年を過ごしていました。仕事なので、新しいものが出れば調べますし、試します。そうした場合のリファレンスとしても、クセの少ないSE535LTDは優秀でした。

かなりの頻度で使っているので、ケースもボロボロになりました

 ところがあるとき、大事にしていたSE535LTDを紛失してしまいました。もう一度買うか悩みましたが、ちょうどワイヤレスの有力機がどんどん出てきていて、「同じものを買い直すよりは、ワイヤレスに乗り換えるか」ということでSoundSport Free wireless headphonesを買ったのです。有線接続のSE535LTDと比べると、はじめは音質面で不満がないこともありませんでしたが、すぐに慣れました。そこよりも、「気軽にいい音を実現する」という方向性に、もう一歩進んだわけです。

中古で見つけた新品同様のSE535LTD

 そこからまた数年。割と最近の話です。秋葉原に取材へ行き、ついでに中古販売店を覗きました。無数のイヤホンの中で、懐かしのSE535LTDがショーケースに並んでいるのが目に入りました。状態を見せてもらうと、ほとんど使っていないらしく、新品同様です。汚れや傷はもちろん、わずかなスレさえありません。しかも格安。

 試聴もさせてもらいましたが、音質もフレッシュで、新品に近いように感じました。やはり、ほとんど使われないうちに売却されたのでしょう。久しぶりに聞くSE535LTDの音には、涙が出そうになる想いでした。

 ほかにもイヤホンやヘッドホンは色々使いましたが、SE535LTDが一番気に入っていつも使っていたので、SE535LTDは、自分によく染み付いていて、心地よく感じたのです。音の記憶というのは面白いものです。

あえて有線でSE535LTDを使ってみる

いまのiPhoneにはジャックがないので、Lightningアダプターが必要です

 SE535LTDを紛失してから現在までのあいだに、iPhoneからは3.5mmジャックも消えてしまいましたから、iPhoneに直接さして使うときは、Lightningアダプターを使う必要があり、ケーブルの取り回しがいいとは言えません。もはやワイヤレスに慣れているので、ちょっと面倒ですし、ケーブルとマスクの紐が絡まるのもすごく煩わしいです。でも、やはり有線接続のSE535LTDの音はお気に入りです。

 いまはシュアからMMCX端子のイヤホンを完全ワイヤレスにするアダプター「RMCE-TW1」も販売されていて、これは何度も試聴しているので、音質のよさも知っていますし、導入すれば、より快適にSE535LTDが使えることはわかっています。

 いずれ購入して、iPhoneとの組み合わせが快適な、現代版SE535LTDを実現させるかもしれません。あるいは、この流れでまた新しい有線イヤホンが気になって、他のモデルを探してみるかもしれません。

 でもしばらくは、あえて懐かしの有線ケーブルで、ひさしぶりのSE535LTDをじっくりと楽しんでみたいと思っています。

ケーブルを緩く巻いて、専用のケースに入れて携帯します

 ワイヤレスに慣れ切っていると、イヤホンの有線ケーブルをほどいたり、束ねて収納する行為に、趣味性が出てくるという発見もありました。複数機器の電源管理は苦痛になる私でも、この面倒さはちょっと心地よく、楽しめるのです。

 当面、SoundSport Free wireless headphonesは、いい音とワイヤレスならではの利便性が要求されるときに、SE535LTDはすこしの手間をとって、よりいい音を楽しみたいときにと、使い分けていきたいと思います。

 皆さんも、かつてのお気に入りの有線イヤホンを持っていれば、ぜひ封印を解いてみてはいかがでしょう。久しぶりの感覚に、予想外に感激するかもしれません。

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