不思議な金属、マグネシウム
このところ、マグネシウムにハマっています。マグネシウムは、航空宇宙産業に使われるだけでなく、iPhone、高級一眼レフカメラのボディにも利用されている金属です。
アルミニウムや亜鉛などと合金にすると軽量で強く、天然資源が豊富で、リサイクル性にもすぐれているという、チタンと並ぶ夢の素材ともいえるかもしれません。
最近、YouTubeを眺めていたら「マグネシウムで洗濯」という動画を偶然に発見!「へぇ〜」と思いながら、Googleで「マグネシウム 洗濯」で検索してみると、なんと8000万件以上がヒットするではありませんか。
マグネシウムが洗剤の替わりに使えるだけでなく、それを実践して効果を実感している人がとても多くいることを知りました。
たしかに、マグネシウムは水に入れると反応して微量の水素を発生させます。そして水素イオンが減少し、水がアルカリ性に傾く。アルカリ性の水は、皮脂汚れなどのタンパク質を溶かす(変性させる)ので、マグネシウムと水が、洗剤と似た働きをするのは、理系の筆者としては、なんとなく想像できます。
ショッピングサイトでも大人気
その人気ぶりを反映するように、「マグネシウム」でアマゾン検索してみると、6万件もヒットします。洗濯に使える純マグネシウム粒は、アマゾンが勧める「Amazon's Choice」もあるし、「アマゾン限定ブランド」まであります。
筆者が知らなかっただけで、マグネシウムはブームになっているんですね。とりあえず、純度99.95%、サイズ5〜6mmの600g入りを2つ(計1.2kg)購入しました。
マグネシウムによってアルカリ性になるかどうかを調べるため、pH計も購入します。自宅で飲む水(シーガルフォーで濾過した水道水)のpH値も測定してみたかったので、ノーブランドではなくApera Instruments社を選びました。また、pH計の校正には蒸留水が必要なことを知り、追加購入。
というわけで、実験と検証をしようと、いろいろと用意したのですが、実験は予想もしない方向に進んでいきます……。
洗濯ではなく、お風呂に入れることに
洗濯の実験が目的で購入したマグネシウム粒でしたが、パッケージを見ると、お風呂にも使えるとのこと。
これは、温泉大好きの筆者にとっては朗報です。とくに、最近は非常事態宣言で温泉に行っていなかったし、洗濯よりも早く効果が実感できそうなので、まずはお風呂で試してみることにしました。洗濯の場合は、比較実験とか二重盲検とか、大変そうですので……。
とはいっても、いきなり入浴は、ちょっと怖い。まずは予備実験をしました。
100ccのぬるま湯(35度)に3gのマグネシウム粒を投入。投入前のpH値は7.5でしたが、5分後にはpH値は8.6に上昇。10分後には9.2、30分後には10.3に落ち着きました。
ちなみにpHとは、溶液中の水素イオンの濃度の略称。pH値1(強い酸性)〜pH値7(中性)〜pH値14(強いアルカリ性)の指標、目安になります。
おそらく、マグネシウム粒をぬるま湯に投入した場合のpH値は10.5未満だと推定され、これはアルカリ性単純温泉と同じくらいのpH値です。そんな理由から、肌や健康にダメージを与えないと自己責任で判断しました。
あとは、筆者が人柱になって入浴するだけです(笑)。
水道水が、温泉(気分)になったかも
いざ入ってみると、お湯がやわらかく感じられ、長湯をしてものぼせず、肌にかゆみが出ないことも確認しました。う〜ん、洗濯に使わなくても、マグネシウム粒を買い、実験した価値がある気がして大満足。
もちろん、マグネシウム粒を使った入浴には、「肌に合う/合わない」があると思います。筆者が実践する限り、温泉好きで「アルカリ〜弱アルカリのお湯が好み」という方にはオススメかもしれません。
筆者の場合は、600gのマグネシウム粒を洗濯ネットに入れ、お湯をためる前にバスタブに入れて使っています。ほぼ毎日マグネシウム入浴をして半月ほどたちますが、とくに肌や健康のトラブルはありません。
ちなみに、半年〜1年使用して、マグネシウムの効果が薄れたときは、クエン酸液(100円ショップなどで入手できます)で洗浄することで復活するといわれています。
マグネシウム洗濯が人気コンテンツになる理由
それにしても不思議なのは、「なぜ、マグネシウムが作成者や視聴回数の多い人気コンテンツになるのか?」ということ。筆者も、内容はほぼ同じなのに、なぜか、いろんな人のマグネシウムの動画を繰り返し閲覧ちゃうんですよね。
そこで最後に、「マグネシウム洗濯が人気コンテンツになる理由」を分析してみました。
○「洗濯」という、誰にとっても身近で切実な家事である(親近性)
○マグネシウムの効果(脱臭など)が、人の関心をひく(共感性)
○金属なのに、水を弱アルカリ性にする、何度も使えるなど、不可思議な要素がある(不思議性)
○自分の生活に取り入れるのが簡単そう(利便性)
○「ねえ、ねえ、知ってた?」と口コミ性がある(話題性)
洗濯(そして入浴)は、誰にとっても親近性のある話題です。そして、悩みのタネになりやすい脱臭作用などがあれば、関心を持たれやすいわけです。
また、洗剤や脱臭剤ではなく、「金属」でそれが可能になることで、見ている人に「不思議だ」と思わせられる。そして、自分の生活に取り入れやすい利便性、「マグネシウムって知ってる?」と盛り上がる話題性もあるとなれば、人気コンテンツになりやすい要素が揃っていると考えられるわけです。
似たブームの例としては「キラキラしたモノを置くと、カラスや猫が近づきづらい(と言われていた)」などがあります。こちらはマグネシウムと比較すれば、実のところ、効き目には疑問があるものなのですが……「不思議だ」と思わせる力と「個人が感じる効果」のバランスが、人気を集める上では大事なのだと思います。
なので、もし人の興味をひくようなコンテンツを作るなら、上に挙げた5つの要素をわかりやすく盛り込むといいはず。もちろん、非科学的なものを推奨しすぎるのはよろしくない場合もありますが。もし、コンテンツ作りに悩んでいる、制作したコンテンツに人気が出ないとお悩みの方は、そんな要素についても考えてみてはいかがでしょうか。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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