ITの本質は「情報の形を変化させる」ことだ

なぜスターバックスは手話が共通言語のサイニングストアを開店したのか

文●石井英男 編集●ASCII

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サイニングストア限定の
マグカップとジャーナルブックも人気

―― 12月にはサイニングストア限定のマグカップとジャーナルブックが発売されました。

向後 サイニングストアは、さまざまな個性をお持ちの方々を応援している、同じ意志を持っている、という意思表明のような要素も併せ持つ取り組みです。ですから、限定商品で人を呼ぼうというビジネス的な戦略よりも、そのアイテムを持つことによって、自分の意思を表明できるアイテムにしたいなと。

 そしてアイテム選択としては、まずコーヒーショップだからシンプルにコーヒーを飲むためのマグカップを、次に世代やシーンを問わずいろいろな方に持っていただきたいと思いジャーナルブックを選びました。ろう学校含め近くに学校があり、お勉強する方も多いでしょうし。

 ジャーナルブックにはスターバックスでよく使う手話や、注文時に使っていただける手話が描かれていて、それを持ちながら、たとえばどこかのお店に行って注文するといったことも想定しています。サイニングストア以外にも耳の聞こえないパートナーが働いているお店はありますし、どこかで出会うこともあると思うので、そのときに役立ったらいいなという思いを込めました。

 大きな反響がありまして、売れ行きも非常に良く、マグカップは初回生産分が完売してしまいまして、ただいま鋭意制作中です。

サイニングストア限定のマグカップとジャーナルブック

振動する時計やデジタルサイネージを活用
しかし音声入力は意外にも……

―― サイニングストアを実現する上でIT機器はどのくらい活用されているのでしょうか?

伊藤 店舗ではデジタルウォッチを活用しています。タイマーなど通常の店舗では音で知らせるのですが、振動で伝える仕様に変更したものです。コーヒーを作る機械の横にタブレットを置いて一括管理し、デジタルウォッチと連動させることで全パートナーが『いま何が起きているのか?』をわかるようにしています。

 また、レシートに番号を表示することで、デジタルサイネージに番号を表示させて、声の代わりに番号で呼ぶサポートツールを整備しました。大きくはその2つですね。加えて音声入力ツールや音声入力のアプリを導入して実際に使っています。

商品の出来上がりを伝える手段として、デジタルサイネージが活用されている

デジタルウォッチとタブレットで現状を把握できる

―― なるほど、サイニングストアならではの使い方が実現されているのですね。

伊藤 意外だったのは音声入力です。レジ対応時に必要だろうと用意してトライアルも繰り返したのですが、オープンしてみると、使わなくてもあまり困らなかったのです。

 結局、聞こえる人の意見と言いますか、『聞こえている人が聞こえない人とコミュニケーションをとるときにこれがあったら便利だろう……』という考え方で用意したものなので、それを使わなくても聴覚障がいのある方は困りません。なぜなら、音声を発するのは私のような聞こえるパートナーのほうだからです。

 使いこなすことで別の使い道やサポートの仕方があるだろうと思い、みんなで現在も使ってはいますが、オープンからの9ヵ月間で私が感じたことは「(道具を)作る側に当事者がいないというのは問題なのかな」と。

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