スマートフォンだけではなくIoT機器も展開し、グローバル企業の仲間入りをはたしたシャオミ(Xiaomi)。実は中国でメッセンジャーアプリも提供していました。しかし、2021年2月19日にサービス終了を発表。ところがすぐに新たなサービスとして再出発を図ると発表しました。いったいどんなサービスで、なぜ一度廃止したサービスを再開しようとしているのでしょうか?
シャオミはスマートフォンメーカーですが、会社をスタートさせた2010年当時はソフトウェアを開発していました。シャオミのスマートフォンが搭載するMIUIは、元々はカスタムROMとしてHTCやサムスンのスマートフォン向けに開発されたものだったのです。その後、自社でスマートフォンを開発し、2011年8月に「Mi 1」を発表。いきなり大人気になったのはスマートフォンの歴史の中の1ページに残されるべき偉業です。
ちなみにシャオミの躍進を今でも「アップルの真似をした」と簡単に片づける声が聞かれますが、シャオミはアップルの真逆の戦略で成功したのです。スマートフォンのパッケージはクラフト紙のそっけないシンプルな物でしたし、店舗販売はせずオンラインで限定販売を行ないました。またシャオミの店舗「小米之家」も当初はビルの上層階、家賃の安いところに展開し、店舗の主な業務はカスタマーサポートでした。「Apple Storeみたい」と言われる美しい店舗展開になったのは、成長に急ブレーキがかったのち、ビジネス戦略を変えた2018年以降のことです。
さてMi 1が登場した時代は、世界的にSNSの利用者が急増したころと被ります。グーグルは2011年に「Google+」を発表し、TwitterやFacebookに対抗しようとしました。この動きは中国も同様で、シャオミはMi 1よりも先にメッセンジャーアプリ「MiTalk」(中国語では「米聊」)をリリースしていたのです。
MiTalkは2010年12月にクロスプラットフォームアプリとしてリリースされ、翌年Mi 1がリリースされるとプリインストールアプリとなり、シャオミユーザーの標準的なメッセンジャーとなりました。シャオミのスマートフォンは新機種が出るたびに事前予約のための登録コードが必要でしたが、そのコードもMiTalkで配布するなど、MiTalkはシャオミのスマートフォンビジネスになくてはならないものとして展開されていったのです。
しかし、今では中国でメッセンジャーサービスというと誰もが「WeChat」(微信)の名前を思い浮かべるように、MiTalkの直後に出てきたWeChatはあっという間にユーザーを増やし、中国の国民的メッセンジャーサービスとなりました。その背景には、中国ではメッセンジャーブーム以前からWeChatの開発元のテンセントが展開する「QQ」というメッセージサービスが1999年から展開されており、当時スマートフォンを買うと誰もがQQを真っ先にインストールしたのです。WeChatはQQのIDで登録できたことから、サービス開始と同時に爆発的に利用者を増やしていきました。
一方、MiTalkはシャオミユーザーはすぐに使い始められるものの、WeChatが出てきてしまうと他社のスマートフォンユーザーにとってはあえてインストールするメリットのないサービスとなってしまいました。WeChatユーザー数が1億を突破したころ、MiTalkユーザー数は2000万人に達していなかったといいます。
そのMiTalkがつい最近までサービスを続けていたというのも驚きでしたが、サービスを停止するという話を聞いて、中国では「そんなサービスがあったのか?」と若い人は思ったでしょう。古くからのシャオミユーザーの中には「そういえば使ったことがあったな」と思い出した人もいたかもしれません。いずれにせよシャオミのハードウェア以外のビジネスの柱となるMiTalkは終了となりました。
ところが2月26日、サービス終了からわずか1週間でシャオミは「MiTalk」の復活をアナウンスしました。現在すでに新サービスが始まっていますが、今のところ招待制で一部のユーザーのみが利用できるとのこと。新しいサービスはClubhouseのような音声を使ったSNSとなり、海外のClubhouse人気をいち早く追いかけようとしているようです。
Clubhouseは中国でも今年に入ってから急激に人気が高まったようですが、2月8日に中国政府の規制が入り、中国国内からの利用はできなくなりました。しかしVPNを使って利用するユーザーもいるなど、音声SNSという新しいサービスは中国でもウケています。シャオミは当初、Clubhouseのことなど気にもしていなかったでしょうが、国内で同等のサービスがまだ立ち上がっていないことから、MiTalkを類似のサービスとして再出発させたようです。
新しいMiTalkははたしてClubhouseのような音声SNSを提供するのか、スマートフォンメーカーらしくシャオミの製品となんらかの連携をするのか、などなどサービス内容が気になります。しばらくは中国向けのサービスになるでしょうが、利用者が増えて将来はグローバル向けのシャオミ端末にもプリインストールされる、なんてことになるかもしれませんね。筆者も招待を受けたら(まずは中国語だけだと思います)使ってみようと思っています。
「スマホ好き」を名乗るなら絶対に読むべき
山根博士の新連載がASCII倶楽部で好評連載中!
長年、自らの足で携帯業界を取材しつづけている山根博士が、栄枯盛衰を解説。アスキーの連載「山根博士の海外モバイル通信」が世界のモバイルの「いま」と「未来」に関するものならば、ASCII倶楽部の「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」は、モバイルの「過去」を知るための新連載!
「アップルも最初は試行錯誤していた」「ノキアはなぜ、モバイルの王者の座を降りたのか」──熟練のガジェットマニアならなつかしく、若いモバイラーなら逆に新鮮。「スマホ」を語る上で絶対に必要な業界の歴史を山根博士と振り返りましょう!
→ASCII倶楽部「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」を読む
★ASCII倶楽部は、ASCIIが提供する会員サービスです。有料会員に登録すると、 会員限定の連載記事、特集企画が読めるようになるほか、過去の映像企画のアーカイブ閲覧、編集部員の生の声を掲載する会員限定メルマガの受信もできるようになります。さらに、電子雑誌「週刊アスキー」がバックナンバーを含めてブラウザー上で読み放題になるサービスも展開中です。
この連載の記事
-
第780回
スマホ
AQUOS R9 proのカメラ周りをドレスアップ! フィルター装着で広がるスマホの楽しみ方 -
第729回
スマホ
激薄折りたたみ「Galaxy Z Fold Special Edition」のケース3種類を試す -
第728回
スマホ
Xiaomi 14Tにフィルター装着できるMagSafeケース、香港の予約特典に登場 -
第727回
スマホ
Galaxyの2025年モデルがいよいよ登場「Galaxy A16 5G」が販売開始 -
第726回
スマホ
1700万円のシャオミ製スーパースポーツEV「SU7 Ultra」を広州モーターショーで見た -
第725回
スマホ
この冬一番の注目スマホ、超薄型折りたたみの「心系天下W25」がサムスンから登場 -
第724回
スマホ
駅名ごとGalaxy! クアラルンプールの「Samsung Galaxy駅」がスゴすぎた! -
第723回
スマホ
レトロデザインが可愛すぎる!? Nokiaケータイ風リュックの良さを知ってほしい! -
第722回
スマホ
iPhone 16発売直後の深セン、中国でも中古買い取りショップと転売が盛況 -
第721回
スマホ
日本と変わらぬ熱気がスゴイ! 中国・深セン版「ポタフェス」に行った -
第720回
スマホ
USBケーブルや電源プラグに4G内蔵も! 進化するモバイルルーターたち - この連載の一覧へ