【前編】声優・緒方恵美さんロングインタビュー
緒方恵美さん「逃げちゃダメだ」――コロナ禍によるライブエンタメ業界の危機を語る
2021年04月24日 17時00分更新
流れるコメントで「観客がいた」ことを実感
―― 無観客配信というのは、それほどまでにメンタルを削ってしまうものなのですね。
緒方 はい。それでも打ち上げでは少し復活できました。昨年6月の時点では、マスク+フェイスシールドをして少人数でささやかに打ち上げをすることができたんです。
当時、アーティストがハコを使えないために稼働がほぼゼロになっていて、ライブハウスさんの経営が苦しくなり始めていたとき。だから少しでもライブハウスにお金を落とすという意味も込めて、ライブをしたハコよりずっと小さいライブハウスさんを、打ち上げ会場としてお借りしたんです。
その場所で、配信したばかりのYouTube動画をスクリーンに投影したら、配信を見てくれていたお客さんのコメントがバーっと目に飛び込んできました。そこでようやく、お客さんの存在が実感を持って胸に飛び込んできた。バンドメンバーと一緒に喜び合い、やって良かったという実感が湧いてきました。
―― 配信の向こう側にお客さんがいるということを、ステージの後で感じたわけですね。その無観客ライブは私も見ていましたが、最大で6000人ぐらいが同時に視聴していました。
緒方 無料配信だったので、見てくださる方も多かったと思います。
これが「配信でチケットを買ってもらう」となると、敷居がぐんと上がってしまうんです。
意外!?「配信ライブを経験するとメンタルをやられる」
―― 他のコンテンツを見ても、「無料」と「課金」では、ユーザー数が大きく異なります。
緒方 まったく違いますよね。現地会場に入場できるわけではない、動画単体でもお金を払ってくれる人は、かなり限られているだろうなと、クラウドファンディングの最中から感じていました。
6月の無料配信ライブはやって良かったけれども、「次」はどうしたら成立できるんだろうと悩みました。
―― やはりマネタイズが課題なのですね。それはどのように?
緒方 ……その前に、ひとりで鬱になっていました。夏の間ずっと。
先駆けて配信を始めたぶん、他のアーティストよりもひと足早くメンタルにきたのかもしれません。
音楽仲間が「これから配信ライブをやるんだ」と笑顔で言っているのに、「配信でメンタルを保つのは大変だから気を付けて」とは言いづらく、ひとりで抱えて沈んでいました。
だけど落ち込んでいる間にも、あちこちのライブハウスさんから営業の電話がかかってくるんです。「うちでライブをやってもらえないか」「緒方さん、こないだライブをやっていたじゃないですか。うちでもお願いします」と切実な声で。どうしたらいいか、わからなくなってしまいました。
―― アーティストがライブを開催できない状態が続く……ということは、場所を提供するライブハウスの経営が厳しくなってくる。
緒方 はい。緊急事態宣言による自粛が明けても、ライブは規制が厳しくて、お客さんも足を運ばないという状態になりました。
だからライブハウスに少しでも貢献したいと思い、まず7月にLOFT9 Shibuyaさんで、アニメスタッフやクリエイターさんたちと計3回ほどトークライブをやりました(【ロフトグループ応援企画トークライブ】「わたしたちのこれから -アニメのおしごと-」開催!)。
「チャージ方式」でライブ配信
視聴者がチケットを“追い買い”!?
―― Loft系というと、これまでも新宿ロフトプラスワンなどのトークライブには、会場に行けない人が「配信チケットを買ってお金を払う」というシステムと土壌がありました。そして、緒方さんが悩まれた「次」の配信ライブですが、早くも8月には実現されています。どのような形態を考えましたか?
緒方 8月は、「M's Bar」という、長年続けている洋楽のカバーライブをやりました(8月26日「M's BAR 2020“Delivery Home”」)。このときのM's Barでは、お客さんに「配信にお金を払う」という習慣を身に付けてもらえたら助かると思い、お客さんに心理的にも負担が少なく、楽しい形でチケットを買ってもらえる工夫をしました。
このM's Barは、いつものロックのライブとは違い、飲食ができるライブハウスで生演奏を聴いていただく、という大人っぽいスタイルが特徴です。コンセプトとしては、ホテルのバーとかジャズバーの生演奏ですね。
そこでマネタイズにおいても、バーでの生演奏と同様の「チャージ方式」を取り入れることにしました。アーティストが1日に2~3回演奏して、お客さんはその回ごとに会計するというスタイルです。
そのときはM's Bar自体を3部構成にして1回1000円。そして、3回通しチケットを買ってくれた人にはメンバーのお礼動画付き、という形であれば気軽に参加してもらいやすいと思いました。
―― なるほど!
緒方 「皆さんのお家がバーになります。ご飯を食べたりお酒を飲んだりしているときに、我らがハウスバンドとして演奏します」というコンセプトにして、企画も“お客さんのリクエストで歌います”と事前に募集をかけてリクエストで多かった曲を歌いました。
―― 当日、配信ライブを見ているお客さんたちのTwitter実況が流れてきたのですが、マイケル・ジャクソン「スリラー」のコーラスに感動して「第2部のチケットも急いで“追い買い”した」とのことでした。配信ライブでは、ネット実況によって飛び込みのお客さんも増えそうです。「配信にお金を払う習慣をつけてもらう」という課題はクリアしたとして、もう1つの課題である「無観客はモチベーションが保てない」という点は進展ありましたか?
緒方 じつはこのM's BARのDeliveryシリーズでは、お客さんを少しだけ入れてみたんです。140人キャパ(収容)の会場に30人だけ。
でもお客さんがいると、モチベーションが全然違いました。
配信を見ていたお客さんたちも、会場からのリアクションや、手を降っているシルエットが見えたりして、すごく良かったと喜んでくださったんです。『良かった、この形式はやれそうだ』と思いました。
そうやって試行錯誤しながら段階を踏んで10月にもう1回、M's BAR(「M's BAR 2020“Delivery Home -Trick or Treat?-”」をやってみたんですが……ショックな出来事が起きました。
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