<後編はこちら>
コロナ禍をよそに2兆5000億円市場へ急成長
過日、「アニメの門DUO【来年どうなる】2020年のアニメ業界を振り返る」と題して生配信された、ジャーナリストの数土直志氏×まつもとあつし対談の完全版を前後編でお届けします。数土氏は2020年のアニメ業界をどのように分析し、そして2021年はいかに展開すると予想しているのでしょうか?
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まつもと 激動したアニメ業界の2020年を数土直志さんと振り返ります。先日発刊された「アニメ産業レポート2020」も参照しながら来年の展望を語っていきたいと思います。まずはアニメ産業レポートの執筆者のおひとりでもいらっしゃる数土さんに2020年版のポイントを挙げていただきます。
数土 一番は、僕自身もサプライズでしたがアニメ市場が非常に大きくなったことです。広義の市場で15%くらい。「広義」というのは、いわゆるユーザー市場です。日本+世界各国のユーザー市場が15%増になって、2兆5000億円規模というすごい数字に突入してしまいました。それから業界市場、いわゆる制作会社の売り上げの積み重ねのほうも12%増くらいで、初めて3000億円に突入しました。
中国が日本のアニメをあまり買わなくなった影響もあってか、TVアニメの本数は減っていますから、「アニメ市場は結構キツイのでは」「もう成長が止まったんじゃないのか」という声もあったのですが……いやいや、まだこんなに成長しちゃうよ、ってことが明確になりました。
まつもと この対談でも「配信」が1つのキーワードになるのですが、やはりNetflixやAmazon Primeなど北米系外資の配信サービスによる日本アニメの積極的購入が影響を与えているという理解で良いのでしょうか?
数土 配信の市場自体は、確かに急成長していますが、アニメ市場全体を占める割合はそれほど大きくないんですよ。海外の市場については十把一絡げに1兆2000億円くらい、という数字が出ているのですが、その内訳についてはアニメ産業レポートに掲出されておらず、海外のどこの市場が大きくなったのかは不明です。
ただ1つ言えるのは、「配信がトリガーになって周辺市場が一気に拡大しているのでは……?」という推測です。日本と同様、映像だけではなく映像を中心としたグッズやゲームといったさまざまなモノで楽しもうという文化が海外でも広がり始めたのだろう、と。
まつもと グッズについては、海外での商流やチャネルがなかなか確保できませんから、オンライン配信やソーシャルゲームが中心になるのかな、と予想しますが……。
数土 ところが、バンダイナムコは北米で流通会社を買収するなどの動きを見せています。「2020年から2021年にかけて、ガンプラを流通市場にガンガン流します。ウォルマートにも棚取りました」といった話も出てきているので、海外市場は変わりつつあるようですね。
まつもと マーチャンダイジングのチャネルも確保されつつある、という見立てですね。
数土 あくまで「今まで入れなかったところに入れるようになった」ということです。
まつもと あとは、後ほど2020年の動きとしても触れていただくのですが「劇場映画」ですよね。2019年は本当に劇場アニメバブルと言ってもいい状況だったと思います。
数土 「アニメの調子が良い」と言われていますが、それは誤解です。実際にアニメを作っている人は「いや、全然そんな気がしないんだけど」と答えるのでは。TVアニメの制作本数は実際のところ3年連続で減っています。そのTVアニメの凹んだぶんが劇場作品や配信作品で補われている形ですね。
劇場作品については、興行・配給会社にとって「好調」なんです。けれどアニメ制作会社にとっては大きな変化はないということです。
まつもと そもそも劇場アニメにチャレンジできるスタジオは限られていますし。
数土 そうですね。最近『なるほどな』と思ったのは、ある人に「今アニメは両極で、真逆のところですごいことが起きている」と聞いたときです。
まつもと 見る場所によってずいぶん景色が違ってくる。
数土 そうそう。シリーズ1話の制作費が5000万円というようなアニメがある反面、今までとあまり変わらないキツイ予算で制作されているアニメもあるはずなので、十把一絡げに「アニメの調子が良い」とは言えないんですよね。
まつもと なんか「アニメ格差社会」みたいなことが起きているのかもしれませんね。詳しく知りたいという方は、ぜひ「アニメ産業レポート」を手に取っていただければと思います。ネットでサマリーも参照できますので、そちらもぜひご覧ください。
さて、数土さんのお話にもあった「TVアニメが減っている」というトレンドは今後どうなっていくのでしょう? これまでの「アニメ産業と言えばTVアニメ」という関係がだいぶ崩れつつある印象を受けます。次は、劇場や配信でのアニメはどうなっていくのか、数土さんと一緒に考えていきましょう。
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