このページの本文へ

独自CPU「M1」で処理性能&バッテリー駆動時間が大幅向上 新Mac特集 第14回

その1:ベンチマークテスト編

【アップル独自M1搭載Mac 3モデルレビュー】1コアあたりのベンチ結果は世界トップクラス

2020年11月17日 23時00分更新

文● 柴田文彦 編集●飯島恵里子/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

爆発的にパフォーマンスが向上したCPU

 今回のテストに使用したマシンは、上記のようなApple Silicon搭載の3機種に、今年前半に新製品として登場したMacBook Air(2コア、Core i3、メモリ8GB、ストレージ256GB)を直接の比較対象として加えた4機種だ。これらについては、OSのバージョン(11.0.1)はもちろんベンチマークテスト用のアプリケーションについても、まったく同じバージョンを使用した。また、OSやテスト用アプリのバージョンは異なるものの、参考までに2020年前半モデルのMacBook Pro 13インチモデル(2.0GHz、4コア第10世代Core i5)と、同じく2020年モデルのiMac 27インチモデル(3.6GHz、10コア第10世代Core i9)の両モデルも加えた6機種で比較している。

 ベンチマークテスト用のアプリとしては、最新のGeekbench(5.3.1)とCinebench R23を使用した。前者のGeekbenchについては、バージョンが異なってもテスト内容は変わっていないため、従来のテスト結果と直接比較が可能だと考えられる。ただし、Cinebenchについては、以前に使用したR20と、今回のR23では、スコアの算出方法もテスト方法も異なっているため、直接比較できない。特にCinebenchの結果については、あくまでも参考値として見ていただきたい。

 まずGeekbenchの結果を検討しよう。Geekbenchでは純粋なCPU性能と、GPUを演算用に使用した場合の性能(Compute)を評価できる。

 CPU性能については、インテルCPU用にビルドされた従来のバージョンでは、当然ながらインテルCPUのネイティブな性能を評価していた。しかし最新バージョンはUniversalアプリとなっていて、インテルCPU搭載機でもApple Silicon搭載機でも、それぞれのネイティブな性能を評価できる。さらに、Appe Silicon機でRosetta 2を使用すれば、インテル用アプリをApple Silicon機で実行する際の性能も評価できる。ただし、Rosetta 2は、Big Surに最初からインストールされているわけではない。インテル用のアプリを実行しようとすると、初めてインストールされる。

 今回は、Geekbenchの旧バージョンをいったん起動して、Rosetta 2をインストールしてから、改めてGeekbenchの最新バージョンを起動してテストした。Rosetta 2をインストールした状態では、Geekbenchのウィンドウの中で、CPUを「Apple Silicon」と「Intel」のいずれかに選択できる。これは、もちろんCPUが切り替わっているわけではなく、どちらのコードを実行するかという切り替えだ。後者の場合には、ネイティブ動作ではなく、Rosetta 2を通した動作となる。

 まずは、Geekbenchでコア1つのCPU性能を比較しよう。これはM1が、Core i9をも軽く上回り、ダントツの結果となった。MacBook Airの新旧モデルだけを比べても、M1はCore i3の約1.6倍の性能となっている。

 これまでのMacでは、仮にもエントリークラスのマシンに8コアものCPUが搭載されることはなかったので、すべてのコアを使ったマルチコアのテスト結果では、さらにM1の速さが際立っている。新旧MacBook Airの比較では、約3.3倍となっている。ただし、iMacは10コアを搭載しているだけに、9510という数値を示しているが、M1で最高のMac miniでも7707で、さすがにかなわない。MacBook Air同士の比較では、マルチコアのM1はCore i3の約3.3倍となっている。

 シングルコアではCore i9に大きく勝っていたのに、8コアと10コアで、そこまで逆転されるものかという疑問もあるだろう。現状のM1は、8コアと言っても、性能を重視した「パフォーマンスコア」が4つと、低消費電力を重視した「エフィシェンシーコア」4つの合計で8コアとなっている。前者のL2キャッシュが12MBなのに対して、後者は4MBしかなく、両者の性能の差はそれなりに大きいと考えられる。最大性能のパフォーマンスコアの数に換算して、仮に6コア分前後なのではないかと考えれば、この結果にも納得できるだろう。

 Rosetta 2によるインテル用コードの実行速度を見ると、Apple Siliconのネイティブコードに比べて、シングルコアでもマルチコアでも2割強遅くなっていることが分かる。1種類のプログラムで比較しただけでRosetta 2の能力を評価するのは早計だが、これはなかなか健闘していると言える数字ではないだろうか。

 GeekbenchのGPU性能(Compute)に対するコメントは後回しにして、Cinebenchの結果を見ておこう。すでに述べたように新しいR23では、評価方法が変わった。1つはマルチコアを使った総合性能だけでなく、Geekbenchと同じように1つのコアだけを使った性能も評価できるようになった。もう1つは、これまでは(R20)レイトレーシングによるレンダリングを1回だけ実行し、それにかかった時間によってスコアを算出していたが、R23では10分間で開始できるだけの回数のレンダリングを繰り返し、その平均値でスコアを算出する。したがって、1回のテストは最低でも10分はかかる。

 今回同じバージョンでテストしているのは、MacBook Airの旧モデルとApple Siliconの3モデルだけだが、Geekbenchよりも現実のアプリに近いCinebenchでも、従来のモデルとの性能の違いは大きい。新旧のMacBook Airの比較では、シングルコアで1.6倍、マルチコアでは実に3.9倍ものスコアとなっている。

 参考までの話だが、旧MacBook AirのR20によるスコア(マルチコア)は695だった。それがR23では1754になっていることから、スコアのスケールとしては約2.5倍ということになる。仮にこのスケールを、iMacの27インチモデルのR20によるスコア5404に掛けると13,500程度となり、さすがに現状のM1よりかなり速い。しかしその比率は2倍を切っている。旧MacBook Airの同じR20のスコアとの比較では、約7.8倍だったことを考えれば、かなりの進歩だ。

 Cinebenchで見る限り、M1の1つのコアの性能の高さは、市販されているCPUの中では、トップクラスと言える。例としてMacBook Proの結果を見ると、マルチコアの7769という数字は、さまざまなOS、CPUを搭載するマシンの中でも速い方だが、まだまだ上がいる。

 しかし、シングルコアの1506という数字は、現状のCinebenchの結果ではトップクラスに位置していることが分かる。

 コア1つだけで使うことはないのだから、あまり意味のない数字ではないかと思われるかもしれない。しかし、現在のM1は、どちらかというとバッテリーで駆動するポータブルマシン用のチップだ。だから、8コアのうちの半分は低消費電力で、低性能のコアをあえて採用している。今後デスクトップ機用に、消費電力は気にせず、パフォーマンスコアだけで構成したApple Siliconチップが登場すれば、マルチコア性能がさらに大きく向上することが期待できるのだ。

カテゴリートップへ

この連載の記事

ASCII.jp RSS2.0 配信中