自治体へのRPA導入によるメリットと問題点とは?事例から学ぶ
近年は、民間企業だけでなく、自治体もRPAの導入に着目しています。これは、総務省の「自治体戦略2040構想」にもとづいた動きでもあるでしょう。自治体の業務へのRPA導入は、民間企業への導入に負けない大きな効果が期待できます。しかし、自治体ならではの問題点もあるようです。自治体へのRPA導入にはどのようなメリットや問題点があるのか、事例をもとに見ていきましょう。
RPAを導入する自治体の増加
従来、自治体といえば新しいシステムを導入することに消極的なイメージがありました。しかし、現在では積極的にRPA(Robotic Process Automation)を始めとするシステムを取り入れようとするところが増えてきています。
きっかけは、総務省が平成30年度にRPAの導入支援を始めたこと、また「自治体戦略2040構想」を発表したことにあるようです。
「自治体戦略2040構想」とは
「自治体戦略2040構想」とは、総務省による自治体のあり方を述べたものです。
2040年ごろには国の総人口は毎年100万人近く減少すると推定されており、日本の人口構造は大きく変化しているでしょう。特に若い世代が減り、高齢化が急激に進むことで、自治体の税収は減り、行政職員も足りなくなることが予想されます。そうなれば、地域のインフラ、福祉などの住民サービスを十分に行うことができなくなるでしょう。
そのような危機を乗りきるためには、「スマート自治体」への転換が不可欠です。スマート自治体とは、AIやロボティクスを使いこなし、自動化できる業務をすべて自動化することです。職員数が減少しても、自治体に求められる機能を維持することをめざしています。
自治体業務は自動化に向く
自治体によっては、すでに業務システムやマクロなどで細かいタスクの自動処理を行っていますが、まだまだ職員の手作業も多く発生しています。また、自治体の業務は事務作業や定型業務の占める割合が大きいので、RPAで自動化可能な業務が数多くあります。RPA導入によって、大幅な業務効率化と労働時間の削減が期待できるのです。
自治体業務へのRPA導入について、以下に詳しく見ていきましょう。
RPAを自治体に導入するとどうなる?
RPAを導入すると、これまで別々に自動化していたタスクA、タスクB、タスクCを組み合わせ、業務フローとして自動化することができます。RPAを使えば、異なる種類の業務システムやアプリケーションにまたがる処理も自動化が可能だからです。自治体では異なる業者から複数のシステムが納入されており、互換性もあまりありません。RPA導入により、互換性のない複数のシステムにまたがる処理の自動化が実現できます。
例えば、次のような作業を自動化できます。
・通知の配布
住民台帳から条件に合致する住民を検索→検索結果をもとに、指定のフォーマットに必要事項を自動入力して通知を作成→検索結果をもとに宛名ラベルを作成
これまでは3つのタスクに分けていた作業も、RPAの導入によって自動化でき、ひとつの操作で完了します。作業に必要な時間と人数を最小限にすることが可能です。
・問い合わせの対応
チャットボットで、時間外の問い合わせにも自動的に対応。質問事項への返信だけでなく、電子システムで行える申請や手続きを実施
これまで職員が遅い時間まで電話で対応していた作業をなくすことができます。チャットボットが問い合わせに対して必要な申請や手続きを案内し、RPAがシステムへの登録や手続きを自動処理するといった運用が考えられます。
・議事録の作成
会議中の会話を音声データに記録→音声認識による文書作成システムを利用し、音声データから議事録を自動作成→自動的に体裁を整えて文書化→作成した文書を必要に応じて共有
会議の録音データがあれば、自動的に議事録を作成することが可能です。作成後は関係者へ議事録データを一斉送付、全員の確認後に所定のフォルダに格納するなどの処理をRPAで自動化することができます。
RPAをスムーズに導入するためには
RPAを導入しやすくするためには、対象となる業務を自動化しやすいように標準化することが必要です。また、縦割りのIT投資をやめて、ひとつの自治体内だけでなく他自治体と業務を共通化することで、より自動化しやすくすることができます。
RPAを自治体に導入するメリットと課題
RPAを自治体に導入することによるメリットを確認するとともに、導入時の課題についても見ておきましょう。
RPAを自治体に導入するメリット
・業務の効率化、労働時間の削減
RPAを導入することで業務の多くが自動化でき、労働時間が削減されるため、人件費を削減できます。
・ペーパーレス化
RPAならば紙を介さずに手続きや処理ができるので、書類の量が減り、保管場所や手間も不要になります。
・人的ミスの削減
RPAで業務を自動化することで、人間の関わる作業が減り、人的ミスの削減につながります。
・労働環境の改善と人手不足の解消
労働時間の短縮は働き方改革の推進にもつながります。労働環境の改善によって退職者が減ると、人手不足の解消に有効です。
RPAを自治体に導入する課題
RPAの自治体への導入には、自治体ならではの課題もあります。
・RPA管理者の確保
公務員は転勤の多い職業であり、平均3年で異動ともいわれています。RPAロボットを作成した担当者が異動する際に引き継ぎが行われない場合、対応可能な職員が不在となる可能性があります。
管理する人間のいないRPAロボットは野良ロボットとなり、うまく動作しないこともあります。さらに、野良ロボットはほかのシステムに影響を与える可能性もあるのです。
・RPA導入の前に業務の標準化や電子化が必要
RPAを導入するためには、業務を自動化しやすい状態にしておく必要があります。作業の標準化、業務に関するデータの電子化などです。しかし、現在のところ、この条件を満たしていない自治体は多く存在し、RPA導入を阻んでいます。
・セキュリティに注意
自治体の業務には住民の個人情報に関わる部分が含まれており、情報漏えい対策が必須です。RPAを導入して業務をシステム化するならば、強固なセキュリティを用意し、職員の操作にも注意する必要があります。
・職員による処理を完全になくすことはできない
高齢者などの一部の住民には、これまでどおり窓口で紙を使って申請したいという要望もあります。そのため、全業務を完全に自動化するわけにはいきません。
RPAを導入している自治体の事例
RPAを導入して実証実験を行っている自治体の事例をいくつか紹介します。
奈良市(奈良県)
奈良県奈良市では、平成30年5月から2ヶ月間、市役所業務のうち、様式が決まっている会計業務や定型の書類作成業務についてRPAを導入する実証実験を行いました。大がかりな投資は不要で、現在のプラットフォーム上でも効果が期待できるとの見込みからです。
RPAの導入効果は大きく、業務によっては80%の時間短縮を実現できました。業務の標準化や業務フローの改善など副次的な効果も大きく、市長は職員の意識改革にもつながったと評価しています。
一宮市(愛知県)
愛知県一宮市では、平成30年7月から2ヶ月の間、市役所業務のうち市民税に関する業務にRPAを導入する実証実験を行いました。従来は課税支援システムと住民税システムの両方に同じデータを入力していましたが、この部分をRPAに任せることで、作業時間は592時間から398時間に減り、職員の負担を大きく軽減しました。平成31年2月から、RPAが業務に本格導入されています。
宇城市(熊本県)
熊本県宇城市では、平成29年度にふるさと納税と時間外申請(時間外勤務手当計算)の2業務について、RPA導入の実証実験を行いました。自動化の対象は、主にデータ入力とシステムからの出力部分です。作業時間が大いに削減されただけでなく、入力ミスの減少により職員の負担を減らすことができました。平成30年度からRPAを本格的に導入し、自動化する業務範囲を拡大しています。
自治体へのRPA導入はいっそう増加する方向に
自治体へのRPAの導入は、現在ではまだ実証実験の段階にあるところが多いものの、総務省の後押しもあり、本格的に導入していく自治体はこれから増えていくでしょう。自治体の業務には自動化しやすいものが多いため、民間企業に負けない勢いで業務の自動化が進むと予想されます。しかし、自治体には職員の異動が多いなど、RPAを導入するうえでの問題点も多くあります。導入にあたり、自治体特有の課題について精査し、業務の見直しを行うといった準備が必要です。
※本ページの内容はユーザックシステムの「業務改善とIT活用のトビラ」の転載です。転載元はこちらです。