メーカーとユーザーの絆を感じるSTIギャラリー
スバリストの聖地、STIギャラリー訪問は3回目という今泉さん。「2019年の1月にリニューアルしたんですよ!」と、まるでディズニーランドに行く女子のようにノリノリで、カーナビなしでも道がわかるほど。
そんなSTIギャラリーは、東京スバル三鷹店の2階にあります。ちなみに東京スバル三鷹店は関東ではかなり規模の大きな店舗で、新車のみならず中古車も販売している一大拠点です。ここに来れば、STIも含めてすべてがある、といったところでしょうか。
STIギャラリーは新型コロナウイルス感染拡大の観点から、現在土日の10:00~17:00のみの限定オープン。さらに、従来は1Fの三鷹店からも入館できたのですが、入口は2階のみとし、さらに入場時は簡単な問診票の記載とアルコールの消毒を行なう必要があります。ちなみに気になる入場料は無料。気軽に訪れてSTIの歴史と思想に触れることができます。
海外からの来場者も含めて年間約5000名が訪れるというSTIギャラリーは、常設展示と企画展示のフロアー構成となっています。まずは数々のレースを戦ったマシンが展示されている常設展示コーナー からを紹介します。
STIはSUBARUの完全子会社 で、レース参戦のほか、一般車用のパーツ開発、そしてコンプリートカーの開発をメインとする組織です。誕生は1988年のこと。もともと初代レガシィのFIA10万キロ世界速度記録達成を初の大仕事に「SUBARUを世界一に」を目標に、1990年から世界ラリー選手権(WRC)に挑みます。参戦当初は勝てなかったものの、1993年のニュージーランドラリーでレガシィがWRC参戦28戦目に して、念願の初優勝。その後インプレッサを投入しWRCを席巻したのは有名な話です。
WRC参戦は2008年で終了しましたが、レース参戦は現在も続き、国内屈指の人気を誇るSUPER GTシリーズのほか、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦。ノウハウを蓄積すると共に、そこで得られた知見をSTIパーツとして販売しています。
展示車両は定期的に変更されるとのことですが、取材日は5台の名車が揃いました。最初にご紹介するのは、コリン・マクレーがドライブし、WRCシリーズ戦の初優勝をはたした「LEGACY RS 555」 (1993 New Zealand)。現在のWRカーとは異なり、本当に市販車ベースの1台です。STI栄光の歴史はここから始まった記念すべき1台です。
続いて1998年のサンレモ・ラリーに参戦したインプレッサ。2-3フィニッシュを決めた1台です。WRCで活躍するSUBARU車両といえば、このインプレッサをイメージする人も多いのでは? 車両はとても綺麗に磨かれていますが、フロントバンパーをはじめとして、あちらこちらに戦いのキズが残っています。
この時代の参戦車両も市販車をベースとした1台。車両には車体番号が残り、エンジンもハイチューンされているとはいえ、基本的には市販車に近い。さらにシフトもHパターンです。
そしてもう1台のインプレッサは、2008年のインプレッサWRC。2007年に発売したインプレッサをベースとして、アクロポリスラリーで投入。 ペター・ソルベルグがドライブし2位を獲得しました。そしてこのマシンを最後に、SUBARUはWRCから撤退。次の舞台へと移っていきます。
2016年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦した「SUBARU WRX STI NBR Challenge 2016」。スバリストの中でも記憶に新しい1台です。レース開始1時間後に雹が降りはじめ、各所でクラッシュが続出する荒れた展開の中、ドライバーのカルロ・ヴァンダムは前方のマシンが姿勢を崩したのに気づくと、すぐさまマシンの姿勢を変えて、車両1台分開いている空間をすり抜けてクラッシュを回避する、いわゆる“神回避”を見せたマシンです。展示車両の右リアフェンダーには、その時に負った傷を修復した補修跡が残っています。
最後は同社のコンプリートカーの中から1998年に誕生した「IMPREZA 22B STI version」。WRCのWRカー・カテゴリー3連覇を達成した「Impreza World Rally Car 97」のイメージを再現した400台限定のロードモデルです。大きく張り出した前後ブリスターフェンダーをはじめとするエアロパーツをまとったボディーに、2212ccにボアアップした“EJ22改”水平対向4気筒4カム16バルブターボエンジンを搭載。最高出力は280psながらも、2800~5200rpmまでのフラットな37.0kgf・mの高トルク を実現しました。当時500万円で販売されていましたが、数が少ないことから現在は1000万円~1500万円で取引されているようです。それゆえ、海外から「このクルマを観に日本にきた」という熱烈なスバリストもいるのだとか。
このようなギャラリーに展示されている車両の多くは触れてはいけないがお約束。ですが、STIギャラリーの展示車は触れてもよいとのこと。さらに係員同席ならエンジンフードやドアの開閉、さらに試座するのも可というから驚きです。これは「これらのクルマはSTIの持ち物であるとともに、STIを支えてくれたファンの物でもある」という考えから。このような車両は触れられないことが多いだけに、とても貴重な体験です。もちろん写真を撮ってSNSで公開してもよいそうです。
壁にはズラリと栄光の証であるトロフィーが並びます。これらも触れることができます。WRC初優勝のレガシィと一緒に、優勝トロフィーを持って記念撮影するのも一考です。ラリーの表彰式のように、ボンネットやルーフの上に立ち上がってというのはNGですのであしからず。ここにもSTIファンに対する感謝を感じさせます。
トロフィーの下には年代ごとのレース参戦車両やコンプリートカーを1/43ミニカーで紹介するコーナーがあります。その中にいくつか白く「Looking For」と書かれた車両が。これはミニカーを探していて、オーナーからの寄付を待っているという意味だとか。寄付すると、ミニカーの下に寄贈者が書かれたネームプレートが置かれるそうです。みんなでSTIギャラリーを作り、いっそう絆を深めるという考えなのですね。
中には絵が送られることも。壁に飾られている絵は、以前米国のグローバルラリークロス(GRC)に参戦していた様子を描いた1枚で、なんとラジコンを使って描かれたというもの。もともとアーティストの方がスバルオブアメリカの依頼で製作したのですが 、海を渡ってSTIギャラリーで展示。それを知ったアーティストは新婚旅行でここに訪れて驚くと同時に、額にサインをされたとか。
ミニカーを持っていなくても、絵が描けなくても、STIとの絆を残すことができます。ギャラリー内2ヵ所の柱にメッセージを残せます。メッセージは定期的に塗り替えられるそうですが、過去のメッセージはスキャンされホームページ上で公開されています。
せっかく来場したのだから、何かお土産を……と思いましたが、残念ながらSTIギャラリーでアイテム販売は行なっていないとのこと。STIは数多くのグッズを販売しているだけに残念です。また愛車を持ち込み、STIパーツをその場で取り付けるといったサービスも行なっていません。ですが、8月頃から自動販売機でアイテム販売が開始予定とのこと。STIギャラリーでしか手に入らないものも用意する予定だそうです。