KDDIとの連携で5G対応やIPOまで視野に

グローバルコネクティビティを目指すソラコム、IPOはKDDIとの「スイングバイ」

大谷イビサ 編集●ASCII

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 2020年7月14日、IoTプラットフォームを手がけるソラコムは初のオンライン開催となる「SORACOM Discovery 2020 ONLINE」を開催した。ソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏が登壇した基調講演では最新動向や事例について披露。また、KDDIの代表取締役社長の高橋誠氏が登壇し、玉川氏とソラコムとの3年間と次の戦略について語り合った。

200万回線を突破し、さらに深くなるソラコムの事例

 基調講演に登壇したソラコム代表取締役社長の玉川憲氏は、先月IoT回線の契約数が200万を突破したことをまずアピール。スタートアップや新規事業だけではなく、大企業での導入が進み、SPS(SORACOM Partner Space)と呼ばれるパートナーも600社を越えた。

ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

 創業以来、ソラコムが取り組んでいるのが、IoTの敷居を下げる「テクノロジーの民主化」だ。2015年にIoT通信の民主化を目指した「SORACOM Air」からスタートし、クラウド連携や閉域接続、グローバル化、複数の無線対応、可視化やハードウェアのシンプル化、エッジコンピューティングとサーバーレス対応など、矢継ぎ早に新しいサービスや機能向上を続けてきた。最近では実績のある顧客の事例をIoTソリューションとしてサブスクリプション型で利用できる「IoT SELETION」を展開している。

 次に披露したのが最近の事例だ。「先見性を持たれたお客さまはコロナの影響下でも新しいチャレンジを続けています」という玉川氏のコメントに引き続いて紹介されたのは、85万戸を対象に大規模なスマートメーター化を進めている日本瓦斯の事例。また、シェアリングバイクを手がけるチャリチャリ(neuet)は、三密を防ぐ移動手段として、ライド数を5・6月で伸ばしており、こちらもSORACOMでバッテリの残量や位置検出を実現している。また、クックパッドはこだわり食材を駅に設置されたIoT冷蔵庫で受け取れる「クックパッドマート」の温度管理やラベルプリンター操作にSORACOMを活用。さらに、LINEによるテイクアウトサービスを実現するLINEポケオは、導入店舗の端末にSORACOM Airを利用している。コロナ渦で活用されていきそうなサービスでも、次々と「SORACOM入ってる」が実現されているようだ。

 その他、AI化された防犯カメラのリモートメンテナンスに用いるAWL、ナースコールや緊急連絡にSORACOM LTE-Mボタンを使っているフィリップス・ジャパン、大容量のPlan-DUやFunnelで高速成型機械の品質変化に解析する東洋製罐、GPSマルチユニットで医療機器や衣料品の保管・配送をIoT化した冨木医療器、服薬支援ロボット「FUKU助」で服薬記録、在庫、室温の管理に利用するメディカルスイッチ、ギターの保管において温湿度を管理するドルフィンギターズなど、実に多種多様な事例が披露された。数年前はIoT向けの安価なセルラー通信として利用された印象もあったが、最近の事例では各種IoTプラットフォームサービスや組み込みデバイスなど利用形態がますます深化しているイメージがある。

コロナ以前に戻れなくするのがわれわれの役割

 続いて「New Normal 加速するDX」という対談のゲストで登壇したKDDI代表取締役社長の高橋誠氏は、コロナ渦による変化として、まずデータトラフィックの変化を披露。平日の昼間の固定インターネットは60%増になったほか、モバイル通信やピーク時間帯のインターネット利用も感染拡大前に比べて増大したという。KDDI自体も、インターネットのトラフィックが3倍にふくれあがり、ビデオ通話も20倍、ビデオ会議も75倍に伸びたとのことだ。

KDDI代表取締役社長の高橋誠氏

 続いて、玉川氏はNew Normal時代のIoT・データ活用として、星野リゾートの3密回避策について説明した。ここではSORACOMのセンサーを大浴場に設置することで、宿泊客はスマートフォンから混雑状況を把握できるという。ノウハウを持ったパートナーを巻き込むことで、開始から約6週間で実現したという驚きの事例だ。また、店舗の集客やマーケティングを手がけるIntelligence DesignはエッジAIカメラ「S+ Camera」を用いて、原宿の店舗前の交通量をリアルタイムに把握している。これにより、自粛要請中の原宿の通行者が約90%減っていることがきちんとデータ化できたという。

 また、KDDIも、他のキャリアと同じく、スマホとGPSを用いて人流分析を行なっており、関東圏以外への流出人口を可視化している。こうした事例を元に「IoTからアップされたデータをクラウドに挙げ、AIで分析して、またリアルに戻していくという循環ができてきた」と高橋氏は指摘する。この循環はまさに政府が提唱する「Society 5.0」の流れにも合致しており、DXにつながる新しいビジネスモデルを創出する可能性を秘めているという。

 経営者目線でコロナ渦に新しいビジネスモデルを生み出す難しさを聞いた玉川氏に対して、高橋氏は、「ビジネスのレジリエント(強靱さ・復元可能性)があるかどうかが試されている」は指摘する。また、DXはさまざまな定義はあるが、高橋氏にとっては「デジタルや通信を使うことで、顧客と継続的につながることによって実現されるビジネスモデル」だという。IoTでセンシングすることで明太子の在庫を管理するふくやの事例は、まさにその好例と言えるだろう。

 現在は新コロナウイルスがいわば「進化圧」として働き、遠隔医療がOKになったり、印鑑が廃止の流れになったり、デジタル化には追い風となっている。Web会議が一般的になり、むしろ営業現場では訪問件数は増えるという実態もあるという。「大事なのはスピード感。戻るのは簡単なので、戻る前にスピード感をもって実績を作ってしまい、(コロナ以前に)戻れなくすること。これがわれわれに課された使命だと思う」と高橋氏は指摘する。

いよいよ5GのMVNOをスタート そしてIPOを視野に入れる

 玉川氏は、KDDIとソラコムの3年間を振り返る。2017年8月にKDDIグループに参画したソラコムだが、最初に始めたのは「KDDI Open Innovation Fund」という投資案件でのIoTプログラムだ。同社の成長にも大きな影響を与えた日本瓦斯の案件はここが発端になっているとのこと。その後、KDDI回線を採用したSORACOM AirやLTE-M対応の「plan-KM1」、シンプルでわかりやすい「SORACOM LTE-M Button Powered by AWS」などを共同に展開し、昨年はグローバル向けのSIMにKDDIのプロファイルを追加可能になっている。

ソラコムとKDDIの歩み

 今回は、ついにSORACOMの5G対応が発表された(関連記事:KDDI/ソラコム、5Gに対応したMVNO事業を2020年度中に開始)。まだ詳細は決まっていないが、2020年中にMVNOとして5Gに対応する予定だという。高橋氏は「ソラコムにわれわれのものを使ってもらい、最大限なにができるかチャレンジしてきた3年間だった。5Gもいち早くソラコムに使ってもらい、できるだけ多くの人にお届けできるのは非常にいいこと」とエールを送った。その上で、5Gのネットワークを拡げるため、まずは多くのコンシューマに利用してもらい、主要なユースケースであるIoTに対して安価に提供していくという。「IoTの上にどんな付加価値を載せられるかが大きい。だから(5Gを)いち早くソラコムに使ってもらいたい」(高橋氏)。

 もう1つ披露したのは、AWS Wavelengthの取り組み。キャリアの基地局にモバイルエッジ(MEC)を設置し、超低遅延のソリューションを実現するAWS Wavelengthについては、KDDIも昨年から実証実験しているが、7月からはソラコムも本格的に参入する。具体的にはパイロットのWavelength ZoneにSORACOMのコア通信ネットワークを実装するという。玉川氏は、「5Gの低遅延ネットワークというと、自動運転みたいな例がすぐに挙がるが、もっと異端なものが出てくると思う」と述べ、ユーザーのユースケースやアイデアに高い期待を示した。また、小データ・大量デバイスを前提としたいわゆる「マッジブIoT」の需要も高まってくると見込んでいる。

 次のソラコム×KDDIはどうなるか? 現在、SORAOCM Airは200万回線を突破し、KDDIの法人IoTも1200万回線を突破している。「ソラコムがKDDIグループ入りしたとき、実は契約回線数は8万しかなかったが、今や20倍の回線数になった。KDDIに入ったことで、たくさんのリソースとインフラを利用できるようになったので、非常にうまくビジネスを伸ばすことができた。本当に感謝している」と玉川氏は振り返る。

 今後のキーワードはやはりグローバルコネクティビティだ。ソラコムは日本のグローバル企業に使ってもらうだけではなく、グローバル企業に利用してもらうべく、2年前に北米の拠点を設立。2020年にはイギリスにも拠点を開設したという。今後は「人材確保」と「グローバル企業との業務提携」という2つの大きな課題を乗り越えるため、KDDIのアセットを活用して、IPOも視野に入れるという。「M&AでKDDIに参画し、さらにグローバル成長を目指してIPOも検討しているというのはあまり例がないと思う」と玉川氏が語ると、高橋氏は「M&Aによって地力を付けてもらって、うちのアセットをさんざん使ってもらって、プロフィッタブルになったので、いっしょに世界基盤をやっていこうという合意ができた。この道筋は絶対にありだし、ぜひとも成功してほしい」とエールを送った。

 2017年にソラコムがKDDIグループ入りしたとき、スタートアップでよく言われるイグジット(出口)という表現ではなく、エントランス(入り口)という表現を使ったと玉川氏は振り返る。そしてIPOを目指す今回の戦略について、玉川氏は宇宙開発の用語で地球の引力を活用してより遠くへ飛びたつ「スイングバイ」という表現を用いた。「KDDIのリソースを引力として使って、ソラコムが宇宙に飛び立つことをイメージしました」(玉川氏)とのことで、まさに言い得て妙。高橋氏は「これからもソラコムといっしょにスイングを続けていきたい。ソラコムといっしょにIoTの世界を作っていきたい」と語り、登壇を終えた。

 基調講演の後半は前半の事例に出てきた星野リゾートが新型コロナ対策や大浴場でのセンサーについて講演。そして、毎年恒例の怒濤の新発表を披露(関連記事:ソラコム、サブスクリプションコンテナやSORACOM Orbit、新VPGなどを発表)。テクノロジーの民主化に向けた着実な進化を画面の向こうにいる聴衆たちにアピールした。

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