主要クラウドが接続拠点を配置、コネクティビティでもトップを目指すアット東京のデータセンター
クラウドとのダイレクト接続は“マルチPOP”が新たな常識に
2020年03月25日 11時00分更新
この数年間で、アット東京の中央データセンター(CC1)にはAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud(GCP)、IBM Cloudなど、大手パブリッククラウドのネットワーク接続拠点(クラウドPOP)が次々に設置されている。
こうしたクラウドプロバイダー各社の動きは、当然、ハイブリッドクラウド構成へのニーズの高まりが背景にある。だがアット東京の杉山智倫氏は、それだけではなく、ミッションクリティカルなシステムのクラウド移行に伴って「ネットワーク環境にも高い可用性が求められるようになったため」だという。そして、高可用性の鍵を握るのが「マルチPOP構成」であり、今後はクラウドを利用するユーザー企業側が理解しておくべき“新たな常識”になるのではないか、と語る。
クラウドのマルチPOP構成とは何か、なぜユーザー企業側が理解しておく必要があるのか、そしてアット東京はこうしたコネクティビティ(接続性)の提供を通じてどんな将来像を描いているのか。それについて詳しく聞いた。
クラウドインフラへの“出入口”クラウドPOPと、マルチPOP化の動き
まず「クラウドPOP(POP:Points Of Presence)」とは何かを確認しておきたい。
クラウド各社では、ユーザー企業のデータセンターとクラウドインフラ環境を、プライベートネットワーク(閉域網)経由でダイレクトに接続するサービスを提供している。ここでクラウドインフラ環境への“出入口”となる、ネットワークの物理的な接続拠点のことを「クラウドPOP」と呼ぶ。
ただしこの呼称はクラウドプロバイダーごとに異なる。たとえばAWSでは「Direct Connectロケーション」、Azureでは「ExpressRouteロケーション」、GCPでは「ネットワークエッジロケーション」などと呼んでいる(以下、本稿では「クラウドPOP」で統一する)。
いずれの呼び方にせよ、ユーザー企業が自社データセンターから引いた専用線をこのクラウドPOPに接続することで、パブリッククラウド上で構築した自社環境とのプライベートネットワーク接続が可能になるわけだ。
グローバル展開するクラウド各社では、クラウドインフラを配置しているリージョン(地域)近隣の主要都市にクラウドPOPを配置している。ネットワーク接続の可用性や信頼性、利便性を高めるために、クラウドPOPは一般的に各都市の大型データセンターに収容されている。
そして現在、クラウド各社が推進しているのが、1つのリージョン/都市内に複数のクラウドPOPを配置する「マルチPOP化」だ。たとえばAWS東京リージョンの場合、東京都内で2カ所の異なるデータセンターにクラウドPOPを設けており、そのうちの1つがアット東京の中央データセンターである。
複数のクラウドPOPを設置する理由は、ダイレクト接続サービスの可用性を高めるためだ。単一のクラウドPOP経由で接続している場合、たとえばネットワーク機器の障害などでそのクラウドPOPがダウンしてしまえば通信できなくなってしまう。こうしたクリティカルな事故を防ぐために、クラウドPOPを冗長化しているわけだ。
マルチPOP化について杉山氏は、クラウドプロバイダーが1つのリージョン内に複数のAZ(Availability Zone)を設置して、サーバーファームを冗長化可能にする「マルチAZ化」と同じ狙いだと説明する。
「しばしばサービス障害が起きることからもわかるとおり、クラウドインフラと言っても絶対に止まらないわけではありません。しかし、マルチAZやマルチPOPといった仕組みが備わることで、きちんと対策さえ取れば、クラウドで『止まらないシステム』が実現できる状況になってきています」
SLA保証を受けるためのマルチPOP構成は「ユーザー側の責任」
ただし、ここでポイントとなるのが「きちんと対策さえ取れば」という部分だ。杉山氏は、対策を取るための仕組みを提供するのはクラウド側だが、その重要性を理解し、実際にその仕組みを使って対策を取るのは「ユーザー側の責任」だと強調する。
そしてクラウドプロバイダー側でも、徐々にマルチPOP構成を推奨する方向性に動いている。杉山氏は、AWS Direct ConnectのWebサイトに掲載されたSLA(サービスレベル保証)を例に挙げて説明する。
「ユーザー企業のデータセンターから1つのクラウドPOPに接続する構成(シングルPOP構成)では、たとえ接続回線を冗長化していてもSLAの保証はありません。また、この構成が対象とするワークロードも『非クリティカルなプロダクションワークロードまたは開発ワークロード』と説明されています。AWS側はこのように要件を明示しているわけですが、ユーザー側ではあまり知られていないのではないでしょうか」
AWSでは、クリティカルなワークロードの場合は複数のクラウドPOPに接続することを推奨している。そしてアップタイム99.9%のSLA保証は、このマルチPOP接続が条件だ(SLA保証99.99%の場合は、さらに各クラウドPOPへの接続回線も冗長化する必要がある)。ちなみにGCPのダイレクト接続サービス(Dedicated Interconnect)も、SLA保証には同様の要件を設けている。
そのほかのクラウドプロバイダーも、各都市へのマルチPOP配置が進んだ段階で同じような方針を示すのではないか、というのが杉山氏の予測だ。ミッションクリティカルシステムのクラウド移行を促すためには、高い可用性を保証できる仕組みが必要となるからだ。どのクラウドを利用する場合でも、マルチAZとマルチPOPの構成が“常識”になっていくはずだ。
「社会のさまざまな側面でデジタル化が進み、重要なサービスの停止は社会的にも許容されない時代になりつつあります。たとえクラウド側の障害であっても、サービス停止を回避できる仕組みも提供されているわけですから、クラウドを使っている企業側が『なぜマルチAZやマルチPOPの構成を取らなかったのか』と責任を問われることにもなりかねません。これからクラウドを使ううえでは、障害対策や復旧対策をどう考え、構築していくのかが大切になると思います」
「コネクティビティ」を強化してきたアット東京データセンター
冒頭で触れたとおり、アット東京のデータセンターには多くのクラウドプロバイダーがクラウドPOPを設置している。なぜクラウド各社はアット東京を選ぶのだろうか。杉山氏は「データセンターとしての信頼性」などいくつかの理由を挙げたが、最大の理由は「ユーザー企業が接続しやすいデータセンター」だからだと語る。
「アット東京が、特定のベンダー/キャリア色のない“中立、ニュートラル”な立ち位置のデータセンターであることは大きいと思います。海外の通信事業者を含め、すでに30以上のキャリアが引き込まれており、外資系企業も含めユーザーは回線(専用線)を手配しやすい環境です。また、これまで自社データセンターとしてアット東京をご利用いただいているエンタープライズのお客さまも多いですから、そうしたユーザー企業が利便性高くクラウドPOPを利用できます」
アット東京では、2017年ごろからデータセンターの「接続性(コネクティビティ)」を強化する施策を展開してきた。その結果、現在では国内大手インターネットエクスチェンジ(IX)3社が接続拠点を設けているほか、AS番号を持つインターネットサービスプロバイダー(ISP)も50社近く利用するなど、アット東京 中央データセンターは大規模なインターネット集積拠点となっている。
また、クラウドPOPへのダイレクト接続サービスも充実している。最大10Gbpsの高パフォーマンスな構内専用線接続(プレミアムコネクト)が利用できるほか、論理回線を用いた柔軟な接続性を持つ「ATBeX(AT TOKYO Business eXchange)」経由でもクラウドPOPに接続できる。さらに、企業のネットワーク接続拠点をアット東京データセンター内に集約し、クラウドへのダイレクト接続だけを利用可能にする「Cloud Direct Connect Pack」といった新サービスも展開している。
BCP、5G/IoTエッジなど時代のニーズに全国規模のデータセンター連携で応える
収容するクラウドPOPも増え、コネクティビティの高いデータセンターとしての成長を続けるアット東京。それでは、これからの時代にどのような将来像を描いているのか。そのひとつが「クラウド接続とともに、全国のデータセンターと連携するアット東京」という姿だ。
アット東京では、今春から大阪においても“関西地区のネットワーク集積拠点”を目指す新たなデータセンター(DC12)を設置し、サービスを展開すると発表した。ここでは主要クラウドプロバイダー各社の大阪リージョンと直結されたクラウドPOPと接続できるほか、東京の中央データセンターとの間でもATBeXのゾーン間通信が利用できるようになる。
2021年冬には、AWSの新たなリージョンとしてAWS大阪リージョンが開設される予定だ。これにより、ユーザー企業はクラウドを利用した地域分散によるBCP/DR構成を実現しやすくなる。そこにアット東京が、東京/大阪の両リージョンにダイレクト接続できるサービスを提供することで、ユーザーのニーズを柔軟に実現していく。
また前述のとおり、アット東京のデータセンターには国内の主要なIXやクラウドPOPが収容されているため、全国のデータセンターがATBeX経由でネットワーク接続するケースが増えているという。こうした各地方のデータセンターとの相互接続環境を生かし、全国規模の“データセンター連合”を作るというのが、杉山氏の語る今後のアット東京の姿である。
「5GやIoTでエッジコンピューティングの利用が加速すると、今度は各地への“分散”が必要になります。しかし、全国規模でエッジを展開したい場合に、ユーザー企業自身で地方データセンターと一社ずつ契約を結ばなければならないのでは、手間も時間もかかります。そこで、アット東京がワンストップで手配を行うというスキームを考えています」
つまり、アット東京を窓口として、全国各地のデータセンターのラックスペースとネットワーク接続を一括手配することができるということだ。さらにATBeXを介して、エッジ(各地方のデータセンター)からクラウドへのダイレクト接続も可能になる。そうなると、エッジとクラウドを組み合わせて利用するIoTシステムの展開が、非常にスムーズなものになるはずだ。
「われわれは日本のデータセンター事業者ですから、やはり国産らしく、日本の顧客ニーズに対応したサービスを作っていきたいと考えています。そのひとつがこの取り組みですが、そのほかにも新しい顧客ニーズをふまえつつ、一歩一歩確実にサービスを成長させていきます。アット東京のデータセンターを利用して社会に新しい価値をもたらすサービスを展開できるように、お客さまを支援していきたいですね」
(提供:アット東京)