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「起業家教育」中小企業庁前田泰宏長官×ビジョナルCEO南壮一郎氏対談

社会に出てからも起業家精神を持っていることは強みになる

2020年03月24日 11時00分更新

文● 相川いずみ/編集● 村野晃一(ASCII編集部)

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「ひとつの会社で働かない」という選択

南:前田長官はこれまで起業したいと思ったことはありますか?

前田:私は公務員の道を進んだので、所謂「失敗を恐れる」タイプのトップですね(笑)。

 現在は、高度成長期の「よい学校に行って大きな会社に入ろう」が終わっているのに、それ以外の選択肢がない。すでに、賢い子どもは外に目を向けている気がしますが、南さんも、入社した多くの若者が辞めてしまうのをご覧になったのではないですか?

南:人が流動化していますね。日本とアメリカと比較するとわかりやすいのですが、'80年代までアメリカも終身雇用で年功序列でした。これらの制度は、もともとアメリカの製造業のためにつくられた制度で、当時は情報が外部に流れないので、ひとつの所できちんと学んで技術を発揮するというサイクルで回っていて、ワンキャリア、ワンカンパニーで十分だったんです。

 その後、製造業が通用しなくなるとサービス業に転換し、それにあわせた雇用制度が始まりました。それが、今まさにアメリカで主流となっている自己責任や流動性です。

 日本は、アメリカの'80年代と同じ道を通っています。終身雇用や年功序列は、これまではよい制度でしたが、今後はこれからの基幹産業に合わせた働き方が必要になってくる。若い人たちはみんな気付いていて、「ひとつの会社で働かない」。

前田:現代は、時代の変化の幅が大きすぎるので、慣性の法則で動いている人とそうでない人が大きく分かれつつありますよね。

 起業にチャレンジしても、南さんぐらい大きく成功するのは難しいかもしれない。現在は、SDGsなど課題を解決することがマーケットになっていますが、大きな課題はよく見ると小さな課題の塊です。目の前にある課題をひとつずつ解決していくことで大きな課題の解決になり、企業もスケールアップするという単純なことを振り返る必要がある。そして、課題を解決することで、自己実現と社会の役に立った"自他同時実現"の欲求を満たすようなスパイラルをつくって、スケールアップするものをみんなで示し合わせる、いわば"第二経団連"みたいなものが必要だと思います。

南:「入社して最後まで一つの会社にいる」ということがメインルールになってしまっていることが、起業や創業が活発化していない理由の一つであると個人的には考えています。新卒至上主義を否定するわけではなく、新卒で入って活躍する、外で経験して中途で入る、両方あってもよいと思うのです。これができれば、中途採用のマーケットで欲されている、起業家精神と言われている"主体性があり自ら考えて行動できる"人材が生かされるんじゃないかと。起業創業を経験している人は、中途採用後に非常に重宝されています。

 大きな企業で第二新卒だけでなく、プロフェッショナルな専門職や役職の流動化が起これば起こるほど、外でチャレンジして戻ってくるという人のほうが、むしろ価値が上がります。

前田:中途採用をとらないと、その組織の専門的な資産の価値があがらない。専門性の高い組織をつくるためには、多元化しないと難しいということが、みんなわかり始めていますね。

失敗の経験から成功した人の方が魅力がある

前田:一方、起業は大失敗することもあります。大企業を辞めて起業にチャレンジし、大失敗した後輩も見てきました。失敗を恐れるなといっても、深刻な状況になることもあるので、セーフティネットや最低保証的なラインを引かないとしんどいですね。たとえ自分の責任ではあっても、社会的にどうするかという議論は必要だと感じています。

南:起業創業した経験がある人材は、採用する会社にとってはとてもバリューがあるので、ちゃんとマッチングできればよいのですが、日本ではまだ受け入れられない会社が多いです。グローバル企業のように、「うちの会社の資本で生かしてやってみよう」と風になっていく必要がありますね。

前田:一回失敗した人を優先的に起用する企業はとても強いと思いますが。

南:成功している人より、失敗している人のほうが目立ってしまうのではないでしょうか。でも、創業して失敗したとしても、その後経験を生かして活躍している人にもっとスポットライトをあてるべきだと思います。チャレンジした人の方が、エネルギーがあるし主体性があるし決断力もあるし勇気もあって魅力的です。

前田:偉人の物語の多くは、失敗してからの成功を語っていますね。なのに、社会としては許容していない。物語の世界で終わっているんですよね。

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