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ロケーションと専業へのこだわり、ビットアイル買収の意義などすべて語る

エクイニクス古田前社長と振り返る激動のデータセンター20年史

2020年02月12日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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「キャリアニュートラリティ」を貫くためにデータセンターを専業に

大谷:結局、エクイニクスは今でもデータセンター専業を貫いていますよね。

古田:確かにデータセンター専業はうちくらいになりましたね。ビットアイルもある時期からクラウドに流れたし、さくらインターネットももともとデータセンター専業ではないですから。NTTコミュニケーションズは幸か不幸かワイヤレス事業を持っていないがため、データセンター事業の割合が大きいですが、KDDIのデータセンター事業は事業全体の一部ですし。

最近は変わってきましたが、日本では専業を認めない風潮ありましたよね。食文化で見たら、うなぎ屋とか、寿司屋とか、そば屋とか、専門店が許容されるのに、IT市場は全部入りの定食が求められます。だから、経験者は「ITサービスと統合して全体をフルパッケージ化しないと競争力ないよ」としたり顔で言うんです。でも、心の中では「確かにそうだけど、そうじゃない選択肢もあるよね」と思ってました。実際、データセンター事業者でありながら、上のレイヤーに手を伸ばしていった※サヴィスはうまくいかなかった。

※サヴィスコミュニケーションズ(Savvis Communications) 1995年に金融会社のIT部門がスピンアウトする形でスタート。インテルのデータセンター事業やケーブル&ワイヤレスの資産を買収

最近は変わってきましたが、日本では専業を認めない風潮ありましたよね(古田氏)

大谷:社内では議論にならなかったのですか?

古田:もちろん、グローバルのエクイニクスでも「ホスティングをやるのか、やらないのか」という議論はつねにありました。でも、議論のたびにエクイニクスでホスティングをやらないという決断を繰り返してきました。これに関しては、現チェアマンのピーター・バンキャンプの手柄だと思いますね。

エクイニクスは創業当初から「キャリアニュートラリティ」を重視してきましたが、上のレイヤーをやってしまうと、自ずとこの中立性が保たれなくなります。結局、この方針がぶれなかったということです。

役割の違うTY2、TY3、TY4 そしてビットアイル買収で実現したもの

大谷:外資系のデータセンター事業者の多くが撤退する中、エクイニクスが日本で順調に成長した背景を教えてください。

古田:エクイニクスのビジネスモデルって、ネットワークとクラウドをたくさん集めて、データセンターとインターコネクトの価値を結果的に引き上げるということに尽きるんです。だから、とにかくネットワークハブを作ることが重要でした。たとえば、品川にあるTY2は国際キャリアあわせて85もの事業者が乗り入れています。だから、日本の会社もここにつないだ方が結果的にグローバルネットワークは安上がりになります。

でも、これを日本でどうやって実現するかは、時代によって異なっています。創業から長らくエクイニクスはTY1とTY2しかありませんでした。TY2の場合は隣接しているアパートと老夫婦がやっている旋盤工場になんとか土地を売ってもらおうとアプローチしましたが、けんもほろろです。ふざけんなーと、塩かけられそうな勢いでした(笑)。

大谷:天下のエクイニクスも、老夫婦には勝てなかったんですね(笑)。では、TY2を拡張するというのは難しかったと。

古田:でも、TY2にはAWS Direct Connectが来ました。これが後のクラウドエクスチェンジのはしりですね。

一方、TY3は江東区に作りました。2011年にできたTY3では、おもに金融機関に対してネットワークの集積効果を提供できています。株やFXなどの金融取引はレイテンシ(遅延)に非常にセンシティブなので、それこそラックの位置すら近い方がいいんです。2012年にICAPというメジャーな金融ハブを持ってきたのもエポックメイキングでした。

内装工事中のTY3(古田氏提供)

でも、2011年は震災がありました。TY3はまだ建設中だったし、計画停電や震災の緊張感が半年くらい続きましたから、あの頃はずっとドキドキしていました。通年で血圧高かったです(笑)。

大谷:やはりロケーションが重要なんですね。

古田:はい。2013年にはTY4を大手町に開設しました。当時は、社内ではとにかく「大手町に行こう」という合い言葉でした。日本ではなく、グローバルのメンバーから「大手町にはないのか?」「大手町はどうなったんだ」と言われていたんです。

なにせ大手町であれば、道の向こうのNTTコミュニケーションズさんがファイバ引いてくれます(笑)。いったんつないでしまえば、他のデータセンターとファイバ網でつないで、メトロコネクトを構築できるし、なければダークファイバを引けばいいんです。

TY4のオープニングセレモニーの模様

実際、ワシントンDCの近くのアシュバーンはいわゆるデータセンター集約地なので、けっこうすごいですよ。あとはヨーロッパだとドイツでも同じようなケースあります。

大谷:日本だけではないんですね。では、ネットワーク接続の多いTY2、金融系に近いTY3、顧客とキャリアに近いTY4という役割の異なる3つのデータセンターが日本での成功要因だったんですね。

古田:はい。ただ、悩みはそれぞれがスケールしないことでした。でも、2015年のビットアイルの買収によって、品川のTY2の近くにTY6、TY7、TY8を確保できました。直線距離で400~500mの範囲なので、これならダークファイバーで直結できます。これでエリアが拡大できたのが大きかったです。

大谷:ビットアイルの買収に関しては、どう評価していますか?

古田:必要なロケーションをまとめて確保できたので。グローバルからの評価は90点だと思います。もちろん、決断まではけっこう大変で、米国の幹部を東京に呼んで、一人一人に説明して実現に至ってます。結果的には、エクイニクス史上もっともいいディール(取引)という評価をもらっています。

ただ、個人的には70点ですね。結局、組織を統合するのに、日系企業と外資系企業のギャップは思いのほか、大きかった。一言で言えば、大変だったということです。

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