中小液晶事業を売却、経営資源を集中化
エプソンの現状認識について、碓井社長、小川次期社長は、「方向感が定まっている状況」と異口同音に語る。
碓井社長の在任11年間において、2回に渡る長期ビジョンを策定。その実行計画として、2020年度は、“Epson 25”の第2期中期経営計画の2年目に入ることになる。
リーマンショック直後の2009年3月に打ち出した長期ビジョン「SE15」では、選択と集中により事業を再定義し、競争力がある事業に経営資源をシフトすることで、安定した利益体質と、新たな成長への道を打ち出すことに力を注いだ。
中小液晶ディスプレイ事業の売却をはじめとする構造改革と、同社独自の技術であるマイクロピエゾによるインクジェット技術をコアに、事業領域を拡大。新興国市場向けに大容量インクタンクモデルを投入したり、ビジネス領域にもインクジェットプリンタを投入して、レーザープリンターからの置き換えを提案。さらには、商業/産業領域にも、インクジェット技術を活用した製品を拡充し、ビシネス拡大の基盤を作った。
SE15では、こうした構造改革と成長戦略の推進に加えて、円安が業績拡大の追い風となり、2013年度以降は、大幅に業績改善を達成してみせた。
大容量インクタンク機をビジネス市場に投入し業績改善
2016年度には、2025年度に向けた新たな長期ビジョン・Epson 25を新たに策定。インクジェットイノベーション、ビジュアルイノベーション、ウェアラブルイノベーション、ロボティクスイノベーションの4つの領域での成長戦略を打ち出し、それぞれの領域において、エプソンが持つ得意技術を生かして、他社との差別化を進めている。
碓井社長は、「2回の長期ビジョンを打ち出すなかで、私が、社長として、こういうことをやりたいという方向感を打ち出した。大容量インクタンクモデルや、オフィス共有プリンタなどの強化領域での販売が順調に拡大し、インクジェットで、世界やオフィスが変わるという流れを見せることができたと思っている。また将来成長につながる製品やサービスは、着実に投入できている。デジタル化への進展も方向付けができ、協業やオープンイノベーションも促進し、プリントヘッドの外販も実利の見通しがつけられるところまできた。会社が目指す方向は定まってきており、事業基盤も強固にものになってきている」と、その手応えを語る。
実際、インクジェットプリンターでは、インクカートリッジモデルから、大容量インクタンクのビジネスモデルへとシフト。コア技術を変えることなく、変革を行うこと成功。2019年度見通しでは、全世界に向けて出荷するインクジェットプリンタの約65%と、約3分の2を大容量インクタンクモデルが占めている。日本や欧米の先進国でも徐々に大容量インクタンクモデルの構成比が高まっているところだ。
「顧客接点のあり方がコモディティではないものは、サービスを中心に変えていく必要があると考えて実施したもの」と碓井社長は表現。インクカートリッジの価格が高いため、ユーザーにあまり印刷をしたくないという気持ちにさせる、これまでのビジネスモデルを自ら変えることに挑んできた。
さらに、プリンタヘッドである「プレシジョンコア」を製品化するとともに、外販を開始。「外販先とカニバリゼーションが起こりにくく、仮にカニバリゼーションが起こったとしても、我々のブランドのビジネスがきちっと成長できる枠組みを作った」とする。
そして、「私はずっとインクジェット事業に関わってきた。社長時代には、プレシジョンコアの開発と、それを使った複写機のビジネスをやるところまでは、なんとしてもこだわった」と力を込めた。
究めて、極めるの思想
また、碓井社長は、自らの座右の銘である「究めて、極める」を社内に徹底した点も特筆できる。
碓井社長によると、「物事を納得できるまで徹底的に追求し、それが決まったら、目標を達成できるように、それに向かって徹底して取り組み、必ずやり遂げる」ということを指す。
「この言葉を社員に言い続けたことで、エプソン独創の技術を生み、磨き、究め、お客様にとって価値のあるものがなにかを、決して見失わず、よりよい社会の実現に貢献できる商品、サービスを提供。社会にとってもなくてはならない会社を目指した」と語る。
そして、その意識が浸透し始めていることも明かす。
小川次期社長も、「エプソンは、開発力と技術力に強みがある会社である。省、小、精の技術をDNAとして、ウォッチから始まり、インクジェットプリンタ、センシング、ロボティクスなど、どれも技術力が高く評価され、市場で受け入れられてきた。エプソンの強みは、独創の技術を具現化するモノづくり力と、それをお客様に届けるグローバルネットワークにある。複雑な構造の部品を、安定した生産に落とし込み、高い品質を実現する製造の力や、全世界の市場やお客様に新技術を浸透させ、商品を送り届ける販売網であり、ここにエプソンは強い自信を持っている」と、技術をベースにした事業モデルが確立されていることを示す。
そして、「2019年度までにエプソンの進むべき方向は定まり、事業基盤の強固なものになっている。碓井社長が築き上げてきた独創の技術、モノづくり力、グローバル能力を生かし、エプソンの英知を集めたチームワークで、社会にとってなくてはならない企業にすべく努力する」と語る。
この連載の記事
-
第606回
ビジネス
テプラは販売減、でもチャンスはピンチの中にこそある、キングジム新社長 -
第605回
ビジネス
10周年を迎えたVAIO、この数年に直面した「負のスパイラル」とは? -
第604回
ビジネス
秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは? -
第603回
ビジネス
日本マイクロソフトが掲げた3大目標、そして隠されたもう一つの目標とは? -
第602回
ビジネス
ボッシュに全株式売却後の日立「白くまくん」 -
第601回
ビジネス
シャープらしい経営とは何か、そしてそれは成果につながるものなのか -
第600回
ビジネス
個人主義/利益偏重の時代だから問う「正直者の人生」、日立創業者・小平浪平氏のことば -
第599回
ビジネス
リコーと東芝テックによる合弁会社“エトリア”始動、複合機市場の将来は? -
第598回
ビジネス
GPT-4超え性能を実現した国内スタートアップELYZA、投資額の多寡ではなくチャレンジする姿勢こそ大事 -
第597回
ビジネス
危機感のなさを嘆くパナソニック楠見グループCEO、典型的な大企業病なのか? -
第596回
ビジネス
孫正義が“超AI”に言及、NVIDIAやOpen AIは逃した魚、しかし「準備運動は整った」 - この連載の一覧へ