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さくらの熱量チャレンジ 第39回

「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」の舞台裏

首里城の3D復元プロジェクトを生んだ小さな奇跡の連なり

2019年12月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曾根田元

提供: さくらインターネット

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 2019年10月31日、沖縄の歴史的シンボルとも言える首里城が火災によって焼失した。悲嘆にくれた多くの人を励ますために生まれたのが、最新のコンピュータービジョンの技術により、3Dの首里城を復元するという「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」だ。スピード感あふれたプロジェクトの裏側を発起人である東京大学の川上 玲さんと参加したメンバーに聞いた。

「自分はなにもしなくていいのか?」と自問自答した

 みんなの首里城デジタル復元プロジェクトでは、過去に首里城を訪れた観光客や地元の住民から写真やビデオを募り、首里城の3Dモデルを構築するという。異なる視点からの写真やビデオを用いて三次元形状を復元する「Structure from Motion(SfM)」の技術を活用しており、多くの写真やビデオが集まれば精度はより向上する。また、3DモデルをAR/VRなどで視聴すれば、在りし日の首里城の思い出をリアルに体験できるかもしれない。首里城という沖縄の歴史的なシンボルが一晩で消えてしまったという喪失感を、テクノロジーで埋めていくのが、このプロジェクトの趣旨と言える。

 みんなの首里城デジタル復元プロジェクトを立ち上げた川上 玲さんは、東京大学 大学院情報理工学系研究科の特任講師として、おもにコンピュータービジョンを研究している。首里城の火災があった10月31日の木曜日は、ソウルで開催されていたコンピュータービジョンの国際会議「International Conference on Computer Vision 2019(ICCV)」に参加しており、文化財のデジタル保存に関するワークショップを実施していたという。おりしも、イベントではインターネットの数千枚の写真からローマの建造物を3D復元する『Buliding Roma in a Day(ローマを一日にしてなす)』という10年前の論文が表彰を受けた。その二日後の未明、首里城の火災は起こった。

東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任講師 川上 玲さん

 川上さんは、「ワークショップをこなして、論文の受賞を目の前で見て、その翌々日に首里城の火災。首里城が焼けたことが悲しくて、ご飯がのどを通らないという小学生をニュースで見て、地元の喪失感が想像できました。自分はなにもしなくていいのか?と自問自答し、その日の夕方にはプロジェクトを決断しました」と振り返る。

 ソウルからの帰りの便で同行した指導教官に相談したところ、前向きな返事が得られたため、川上さんは研究室のメンバーへの声かけを始めた。初期の段階からプロジェクトに参加した亀井郁夫さんは、なんでも屋でありながら、情シスのような役割であり、先んじて全体を俯瞰するブレーン役だったという。

プロジェクト全体をディレクションした亀井郁夫さん

「3月に首里城に行ったということもあったので、川上先生が最初にSlackにメンバー募集を投稿されたところから、なにかやろうとは思いました。初期段階では、写真を集めるという構想すら固まってなかったので、まず検索した画像で3Dモデルを作ってもらい、Webサーバーに載せました」(亀井さん)

 中国出身の邵文さんは3Dモデルの作成を担当した。「卒論のために、自分のPCに写真から3Dモデルを復元するソフトを導入していたので、写真があればすぐに作れる状態でした。亀井さんが検索した写真の中から人があまり写っていないものをセレクトし、金曜日の夕方に3Dモデルを作りました」(邵さん)

3Dモデルの作成を担当した邵文さん

公共性や技術的な親和性が高かったのでサーバーを迅速に用意

 こうしてモデルとWebサイトが完成し、金曜日は研究室のWebサーバーで細々と協力者を募っている段階だった。しかし、協力をつのるためにプロジェクトのシェアを重ねていくうちに、不用意にSNS上で一気に拡散してしまった。苗村研究室以外からも協力者の参加が相次ぐとともに、メディアから取材依頼もかかり始め、プロジェクトに一気にアクセルがかかった。慈善活動でありながら、いよいよプロダクションレベルのサービス構築・運用が必要になってきたという。

 発起人である川上さんは、プロジェクトの目的を伝えるサイト上の文言を手がけた。結果としてプロジェクトのフィロソフィーを磨き上げる作業になったという。「Twitterでどんどん盛り上がってしまったので、まさに誤解を生みかねない状況でした。私としては利用している技術も正しく理解してほしかったし、プロジェクトが東大のものという誤解も避けたかった。その結果、論文のようになってしまったのですが、苗村先生からのアドバイスを受け、大人から小学生までが読むことを想定して何度も書き直しました」(川上さん)。

 プロジェクトメンバーの五日市創さんはプロジェクトの概要と意図をわかりやすく伝えるアニメーションを担当した。「土曜日から川上先生がバタバタしていたのは知っていたので、なにかお役に立てないかなと思っていました。首里城に対してなにかしなければという大きな気持ちだけでなく、周りにがんばっている人がいるので、なにかやらなければというミクロな使命感もありました。AfterEffect魂も騒ぎましたし(笑)」(五日市さん)。2日でアニメーションを作り上げた。

サイト上でのアニメーションを担当した五日市創さん

 同じく木方夏麟さんは五日市さんからの依頼でイラストやロゴを担当した。「グラフィックデザインの勉強をしていたことがあったので、五日市君の下っ端として作ってみました(笑)」(木方さん)とのこと。プロの外注にお願いしようとしていた矢先に木方さんが数案作ってしまい、あっという間に決まっていたという。

イラストやロゴを担当した木方夏麟さん

 多言語への対応も迅速だった。ページの立ち上げ時には日本語と英語のページがあったが、学生や協力者の手により、すぐに中国語や韓国語、タイ語にも対応した。3Dモデルを作成した邵さんは、日本語も堪能で専門用語に長けていることもあり、Webサイトやフォームの中国語への翻訳も担当した。「地元の人より、観光客の方が写真を持っているはずなので、プロジェクトを世界中に届けたいと思い、翻訳を担当しました」(邵さん)とのことで、母国語と日本語が得意なメンバーがそろった大学ならではのスピード感だった。

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