「VMware Tanzu Mission Control」と「Project Pacific」、さらにPivotalの役割強化にも言及
ヴイエムウェアが“エンタープライズKubernetes”製品のベータ提供開始
2019年11月12日 07時00分更新
ヴイエムウェア日本法人は2019年11月11日、“エンタープライズKubernetes”環境の提供を目指す「VMware Tanzu Mission Control」と「Project Pacific」の2製品/サービスについて、それぞれベータ版の提供を開始したことを発表した。さらにパートナー向けに、Kubernetesベースプラットフォームの設計/構築サービス能力を認定資格プログラムもスタートしている。
同日の記者説明会には、米ヴイエムウェア上席副社長のレイ・オファレル氏、“Kubernetesの生みの親”の一人であり、Heptioの創業と買収を経て現在はクラウドネイティブアプリケーション部門の研究開発担当VPを務めるクレイグ・マクラッキー氏らが出席。ヴイエムウェアがKubernetesへの取り組みに注力する理由や、“クラウドネイティブ”領域やアプリケーション開発者に接近していくための戦略を説明した。
エンタープライズKubernetes環境実現を目指す2つの製品をベータ提供開始
ヴイエムウェアでは、今年8月に米国で開催した年次カンファレンス「VMworld US 2019」において、エンタープライズグレードのKubernetes環境提供を目的として、VMware Tanzu Mission ControlやProject Pacificを発表した。さらに今月初旬にスペインで開催された「VMworld Europe 2019」において、これらのベータ版提供開始を発表している。
Project Pacificは、VMware vSphere環境にKubernetesの実行/管理環境を組み込むことを目的として、現在のvSphereを再構成していくプロジェクトだ。コンテナ対応ネットワーク環境やクラウドネイティブなストレージ環境も統合し、管理者は従来と同じvSphereの管理ツールを使って、Kubernetes環境を容易に展開することができる。
ヴイエムウェアによると、Project Pacificのベータ提供(アドバンストベータプログラム)には提供可能な枠を上回る申し込みがあったため、現在は一部顧客に限定して提供を開始している。今後、2019年内にはベータ版の利用枠をさらに拡大する予定だ(ベータ版は本稿文末の関連リンクにあるブログから申し込みができる)。
なお、Project Pacificが将来的な一般提供開始時にどのような提供形態となるのか(vSphereのエディションの一つとして追加されるのか、独立した新製品となるのかなど)については、「現在検討中」だと説明した。
Tanzu Mission Controlは、パブリッククラウドやマネージドサービスから、オンプレミスのディストリビューション、あるいはvSphere組み込み(Project Pacific)まで、実行環境を問わずあらゆるKubernetesクラスタを単一のコントロールポイントから管理可能にするツールだ。
単一のコントロールポイントを用意することで、社内開発者にはKubernetes環境のセルフサービス利用を許可しつつ、運用担当者がアクセスやバックアップ、セキュリティなどの面で一元的なポリシー適用を図ることができる。こちらは現在、一部顧客に限定してクローズドベータ版の提供を開始しているという。
今回はもうひとつ、SIパートナー向けに「VMware Cloud Nativeマスターサービスコンピテンシー」も発表された。これは、アプリケーションの継続的デリバリを目的としたKubernetesプラットフォームの設計構築能力を持つパートナーを技術認定/認証するグローバルなプログラム。今年2月にスタートした「VMware PKSソリューションコンピテンシー」をベースとしたプログラムになっているという。
「クラウドネイティブな開発環境」を担うPivotalの重要性も強調
オファレル氏はプレゼンテーションの冒頭、同日にKubernetes/クラウドネイティブをテーマとした「VMware Cloud Native Day」を東京で初開催したことに触れたうえで、現在のヴイエムウェアがKubernetesへの取り組みにフォーカスしている理由について次のように説明した。
「なぜヴイエムウェアはここまでKubernetesに注目し、Kubernetesの強化に注力しているのか。それはKubernetesのテクノロジーが、IT管理者(operator)とアプリケーション開発者(developer)の間をつなぐ“架け橋”だからであり、われわれはそれを簡単かつ効率的に実現できるユニークなテクノロジーを提供できるからだ」(オファレル氏)
そうしたヴイエムウェアの方針は、過去2年間の動きにも明確に表れているという。BitnamiやHeptio、そしてPivotalの相次ぐ買収は、すべてKubernetesおよびクラウドネイティブアプリケーション開発に関連するテクノロジー、プロダクトを強化するものだ。
「ヴイエムウェアはこれまで『強力なインフラテクノロジーのベンダー』と見られてきた。しかし過去24カ月間、われわれは『アプリケーション』へのフォーカスを継続的に強めてきた。その間に買収した企業群を見れば、それは明らかだろう」(オファレル氏)
オファレル氏は特に、Pivotalの位置付けが重要であることを強調した。数年前のPivotalは「クラウドモデルのアプリケーション開発」に特化したテクノロジーは提供していたものの、Kubernetesとの連携はできていなかった。開発者がIT管理者と協調しつつ、管理者自身でアプリケーションの世界からインフラもうまく扱えるように、Pivotalは「Pivotal Cloud Foundry(PCF)」のようなテクノロジーをKubernetesベースで再構築してきた。
「そのPivotalを買収したことで、ヴイエムウェアは単に『Kubernetesの方向に動いている』だけでなく、むしろ動きを『加速させている』と言ってもよいだろう。“PivotalプラスKubernetes”の環境を、できるだけ早く提供していきたい」(オファレル氏)
またマクラッキー氏は、多くのエンタープライズがKubernetesに大きな期待をしているが、そこで課題の一つとなっているのが、Kubernetes環境へのアプリケーションの実装であると説明。これからのヴイエムウェアは「エンタープライズレディでセキュアな“最新のソフトウェアサプライチェーン”を提供しなければならない」と、自身の考えを述べた。
「そうした(ソフトウェアサプライチェーンという)考え方を取り込むことで、ヴイエムウェアは、エンタープライズ顧客に対して非常に大きな価値をもたらすことができる。これまでのような『インフラ仮想化のプロバイダー』という自己認識では不十分で、『ソフトウェアサプライチェーンを実現するための開発ツールや機能』の提供に本格的に取り組む姿勢が必要だ。HeptioやBitnami、そしてPivotalの買収は、そうした流れの中に位置づけられるだろう」(マクラッキー氏)
またマクラッキー氏は、特にエンタープライズの開発者においては、Pivotalが主導するOSS Javaアプリケーション開発フレームワーク「Spring」も重要なテクノロジーセットであると指摘した。ここでヴイエムウェアは、単にSpringをKubernetes上に展開するだけでなく、両方のコミュニティと協働し、両方のテクノロジー間での「ハーモナイズ(調和)」を図っていく役割を果たすことができると述べている。
さらに、エンタープライズでは「一貫性のあるテクノロジー標準やセキュリティポリシーの下で開発を進めたい」というニーズから「先進的なテクノロジーを積極的に取り込みたい」というニーズまで、開発者のニーズには非常に幅広いものがあり、ヴイエムウェアはそれらをすべてカバーできる能力を提供しなければならないと語った。
「(そういう意味で)Pivotalはすでに幅広い開発者に受け入れられており、ここにKubernetesの能力を持ち込むことで大きな成功を収めるものとと考えている。ただしそこにとどまらず、われわれはさらにほかの新興テクノロジー、たとえば『Knative』や『Istio』といったものも(統合して)活用していく予定だ。ほかにもリレーショナルデータベースやキャッシュのサービスといったテクノロジーセットも考えられるだろう。ヴイエムウェアではこの分野に戦略的な投資を継続しており、Pivotalの買収が完了すれば、その能力を一層強化することができるだろう」(マクラッキー氏)