ログ/メトリクス/追跡による“可観測性”を提供、クラウド時代の新たな課題にも対処
SplunkがクラウドモニタリングのSignalFXを買収した理由を聞く
2019年11月07日 07時00分更新
企業システムのインフラがオンプレミスからクラウド、そしてコンテナへと変化する中で、ログデータの収集と分析で知られるSplunkも対象領域を拡大させている。鍵を握るのは、Splunkが2019年10月に買収した新興企業のSignalFXだ。同社ははクラウドアプリケーションのモニタリング技術を有しており、これによりユーザーは「オブザバビリティ(可観測性)」を得られるという。
2019年10月に米国ラスベガスで開催された「Splunk .conf19」の会場で、SignalFXの共同創業者兼CEOであるカーシック・ラウ氏に話を聞いた。
フェイスブックのモニタリングシステムを構築していたメンバーも創業に参加
SignalFXは2013年、クラウド分野での経験が長くヴイエムウェアにも籍を置いていたことがあるラウ氏や、フェイスブックでモニタリングシステムを構築していたメンバーらが集まって創業された。
当時のフェイスブックは、“Move fast and break things(素早く行動し、破壊せよ)”というカルチャーの下で毎日のようにアプリケーションをリリースしており、そのインフラである大規模なWeb環境の稼働状況を測定するモニタリングシステムが重要な役割を果たしていた。
「クラウドはまだ早期で、2008年~2009年に大規模なスケーラブルシステムを運用していたのはFacebook、Googleぐらいだった。そしてわれわれは、早い段階からDevOps、マイクロサービスなどにも取り組んでいた。利用者が急増し続けるシステムを裏側から支えたわけだが、そこで学んだのはやはり『モニタリング』が重要であるということ。もうひとつ、データの収集は簡単だが、そこから迅速に『意味を見いだす』のは難しいということだ」(ラウ氏)
その後、クラウドがより広範な企業に普及し、コンテナやマイクロサービスアーキテクチャの利用も広がり始めた段階で、ラウ氏らはSignalFXを創業した。ラウ氏は当時の狙いを「アナリティクス手動のオブザバビリティ企業を作りたかった」と説明する。オブザバビリティは、一般的なシステムの「ログ」、CPU使用率やレイテンシなどの「メトリクス」、個々のシステム状態を結びつける「追跡」の3つの柱を持ち、アーキテクチャ全体の運用/稼働状況を可視化するという考え方だ。
「クラウド時代は、これまでのモニタリング手法では対応できない」とラウ氏は語る。その理由として「モニタリング対象のデータ量が急増していること」「アプリケーションのリリースサイクルが極度に短縮されたこと」の2点を挙げる。
大量のデータ、リアルタイム処理――クラウド時代のモニタリングに新たな課題
こうして創業したSignalFXが構築したのは、リアルタイムのストリーミングアナリティクスエンジンだった。クラウドからのデータ収集にはAPIやエージェントを用い、大規模なデータをモニタリングできるだけでなく、異常なパターンが現れた場合にはリアルタイムに検出し、アラートを上げることができるという。
「クラウドシステムは、プロプライエタリなハードウェアではなくソフトウェア定義型(Software-Defined)のインフラを利用している。そして、アプリケーションは複数のマイクロサービスにスライス(分割)されている。オープンスタンダードの採用でデータ収集そのものは簡単になったが、一方でデータの量は増えた。そのため、問題は(収集ではなく)アナリティクスに移行している。どうやって高速に処理するのか、どうやって障害や問題が発生する前に理解するのかが重要になった」(ラウ氏)
さらに、リアルタイムのアナリティクスやオペレーションのインテリジェンス/自動化が求められる中では「マシンがアップ(稼働)しているか、ダウンしているかだけでは不十分であり、トレンドのパターンを理解する必要がある」と語る。
Splunk製品とは補完し合う関係になるという。Splunkは「CIOの問題」を解決する一方で、SignalFXは「CTOや開発部門の課題にフォーカスしている」。同じ問題に対して異なるアプローチをとっていると説明する。
SignalFXによって得られる具体的なメリットは、「リアルタイムの問題検出とトラブルシューティングの機能によって“破壊することなく、素早く動くことができる(move fast without breaking things)”」ことだと語る。Splunkが同時期に買収したOmnitionが有する追跡、モニタリングの技術と共に、顧客に対して「クラウドネイティブ時代に必要なオブサバビリティ」を提供できると述べた。「アプリケーションのリリース頻度が増えているので、モニタリングシステムが問題を指摘し、可能な限りその解決を自動化していくことが、サービスの成功にとって今後重要になる」。
買収完了を受け、SignalFXは今後、Splunk傘下のカンパニーとして独立して運営される。ターゲットはクラウドネイティブアプリケーションを開発、運用する顧客だ。ラウ氏はバイスプレジデントの立場で、引き続きSignalFXを率いる。これまで日本市場には正式展開していなかったが、すでに日本にも顧客はいるという。「Splunkの一部となったので、日本市場への展開も積極的に進めていきたい」と話した。