Yamaha Network Innovation Forum 2019で聞いたユーザーの声
クラウドエンジニアが語るヤマハの仮想ルーター「vRX」への期待感
2019年10月25日 15時30分更新
2019年10月18日、SCSKはヤマハのネットワーク機器の製品戦略や最新製品の解説を行なう「Yamaha Network Innovation Forum 2019」を開催した。今年はいよいよ発表されたヤマハの仮想ルーター「vRX」に大きな注目が集まり、ASCIIプレゼンツのアンケート大会も大いに盛り上がった。
ヤマハルーターのスキルがさまざまなクラウドで活きる?
Yamaha Network Innovation Forumは、ヤマハのネットワーク機器の国内総販売代理店であるSCSKが年次で開催しているテクニカルフォーラム。今年は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡と全国6拠点で開催されるが、東京会場では、ワイヤレスファースト時代の企業ネットワークを考えるIDC JAPANの草野 賢一氏による基調講演に引き続き、ヤマハによる製品戦略の披露、日本ネットワーク技術者協会による認定試験の解説、コラムニストによるvRXやアプリケーション制御(DPI)、無線LANアクセスポイントの実証実験レポートなどさまざまなセッションが行なわれた。
今年のテーマはずばりヤマハ初の仮想ルーター「vRX」である。20年以上に渡ってハードウェアルーターを展開してきたヤマハにとって、パブリッククラウド上で動作する仮想ルーターの提供は大きな決断だ。おもに拠点間接続で用いられてきたヤマハルーターをクラウド接続でも利用できるということで、新しい市場が拓かれるとともに、既存のユーザーや販売パートナーにとってもチャレンジが必要になる。新しいジャンルにどう取り組み、どのようにビジネスを生み出してよいか、手がかりになったのはすでにクラウドを使いこなしているエンジニアのセッションだ。
「仮想ルーター『vRX』で実現する、高機動型サービス開発・運用環境の一撃構築」というタイトルで講演したパイプライン代表取締役 濱田康貴氏は、vRXのポイントとして「クラウド上で柔軟ネットワーク設計が可能」「複雑なネットワークを簡単に構築可能」「スマートフォンやタブレットとも直接VPN接続が可能」「ヤマハルーターの設定ノウハウを継承」「AWSマネジメントコンソールによる一元管理」の5つを挙げる。
濱田氏はクラウドエンジニアとしてvRXに高く期待する。たとえば、vRXは既存のヤマハのスキルをそのまま利用できるため、共通のスキルで複数のクラウドが利用可能になる。「現状はAWSのみに対応しているが、今後ほかのクラウドサービスに対応することにより、エンジニアにとってみるとスキルを可搬性が高まることになる」(濱田氏)。また、IPsecのアグレッシブモードに対応しているため、固定IPアドレスなしでもVPN接続できる。会社に行かなくても接続のたびにIPアドレスが変わるリモートアクセスでも利用しやすい。「今まであきらめてたケーブルTVやモバイル回線からもクラウドにアクセスできる」(濱田氏)。さらにアプリケーションごとのトラフィック制御を実現するDPIに関しても、Windows UpdateやOffice 365のトラフィックを“逃す”ことも可能だ。
もちろん、vRXはパブリッククラウド上で動作するため、クラウドならではメリットも享受できる。トラフィックに応じてルーターをスケールすることも可能だし、オンプレミスよりも簡単に冗長構成を組める。たとえば、vRXのクラウドデザインパターンを用いるれば、VPC内のパブリックサブネットとプライベートサブネット間でのシンプルなルーティングから、複数のAZにそれぞれvRXを用意した高可用設計までさまざまな構成が容易に実現できる。
「オレオレ設計はできると気持ちいいけど、やはりクラウドデザインパターンという巨人の肩に乗って、サービスの開発工数を下げながら、自らのアイデンティティを出していければと思います」(濱田氏)。さらにマネジメントコンソールからvRXを触れられるのも大きなメリット。「アプリ開発者に起動・停止などを任せたり、AWSのIAM Rollを適切に設定してDevとOpsを境目をなくすといったことが可能になる」と濱田氏は指摘する。
濱田氏は、SSHでの接続やコマンド利用などvRXでの使用についての注意点を説明しつつ、ユーザーガイドやコマンドリファレンスが充実しているので、安心してほしいとアピール。「ネットワークの設計は、誰に、なにを、どうやってを意識してほしい。まだまだクラウドに対して怖いと思っている方は、ぼんやりとした恐怖を持っている。ですから、こうした方には正しく認証・認可、経路制御ができることを説明してほしい」(濱田氏)。
気がつけばサーバールームにはヤマハのルーターしかなかった
AWSジャパンによる講演の後は、ヤマハの小島 務氏、クラウドエンジニアの大瀧隆太氏、そしてアスキー編集部の大谷イビサが登壇した「ASCIIプレゼンツ vRXの魅力と期待感、みんなで語り合おうぞ」が開催された。「Mentimeter」というツールを使い、スマホから投票した内容をリアルタイムに壇上のディスプレイに反映させ、壇上の3人がコメントしていくという趣向だ。
ヤマハ代表で登壇した小島氏は20年近くヤマハルーターに携わってきたベテランで、開発畑からスタートし、過去には中国市場の事業展開にも関わってきた。今は商品・ビジネス企画を担当しており、vRXの製品企画にも深く携わっている。内部的には独自OSのヤマハルーターを汎用OS上で展開したいという企画があり、これとクラウドシフトがタイミング的に重なったのがvRX誕生の経緯。「数年前、中国から日本に戻ってきたら、サーバーがクラウドに行ってしまったので、ヤマハの物理ルーターだけがサーバールームに残っていた。早くクラウドに持って行かなければと考えた」(小島氏)ということで、商品企画がスタートしたという。
ゲスト登壇した大瀧隆太氏は、IoTプラットフォームを手がけるソラコムのエンジニアとして案件の技術支援を担当しつつ、前職であるクラスメソッドのブログメディア「Developers.IO」のゲストブロガーも務めている。ヤマハルーターやVyattaのような仮想ルーターもがっつり使っていたという経験も持ちながら、AWSについて精通している。
クラウドエンジニアがほしいルーターについて聞かれた大瀧氏は、「サーバーも箱からクラウドに移行して、抽象化されて、オンデマンドに使えるようになったのもルーターも基本は同じ。柔軟性、スケーラビリティをルーターにも求めたい」と語る。これに対して小島氏も「今回のvRXではライセンスを追加したり、インスタンスを変更することで、あとからでも性能を変更できる。いろんな意味でスケーラビリティを感じていただけるのでは」と応じる。
今回のセッションは、3人の登壇者がvRXについて語りつつ、スマホで利用できるアンケートで、会場内の参加者と特定のテーマについてインタラクティブに語ろうという趣旨だ。最初のお題は現状CLIベースの操作体系。GUIが必要か、はたまたマネジメントコンソールの利用かなどを聞いてみた。当初はCLIが圧倒的だったが、リアルタイムにGUIが増えて、ニーズが高いことがわかった。
大瀧氏は、「GUIには2つある。黒い画面のCLIが難しいから、GUIでポチポチしたいという初心者向けのGUIだけではなく、1画面で複数の情報をビジュアル化できる可視化のGUIもある」とコメント。小島氏も、「同時リリースしたDPIなどは、まさにGUIでなければ視認できない。そういう意味ではネットワークの分野でも可視化というGUIの価値は増しているのではないか。ぜひ開発に持ち帰らせてもらいたい」と語る。