SDLアプリコンテスト受賞者インタビュー その1
賞金50万円を受賞したグランプリ作品「Instaride」はどう企画されたのか?
2019年10月15日 09時00分更新
クルマとスマホをつなぐ規格である「SDL」。賞金総額100万円の大規模なアプリコンテスト「SDLアプリコンテスト2019」が今年も開催されるが、実はSDL対応アプリを作るのは、それほど難しいことではない。
極めて簡単で、1行もプログラムを書いたことがない人でも楽勝!
――とまでは言えないが、本連載ではこれから、SDLとはどういったものなのか、対応アプリはどうやって作ればいいのかを解説する。そのなかで、基本的な要素のサンプルコードは掲載していくので、それらを参考に(もっと言えばコピペ)しつつ、ぜひ自分の思い付いたアイデアを実現していただきたい。
現在、10月31日締切で「SDLアプリコンテスト2019」が開催されているが、前回の第1回コンテストでは、グランプリが1作品に、そして特別賞が5作品に贈られた。
受賞作品の作者たちは、そのアイデアをどのように考え、そしてどうやって作品としたのか。第1回コンテストの受賞者たちに、発想から実装までをうかがった。まずは、グランプリを受賞した「Instaride」の作者、チームInstarideを代表して、佐田幸宏さんにお話を聞いた。
バーベキューと運営の手伝いのはずだった!?
―― そもそも「SDL」というものはご存じだったんでしょうか。
佐田幸宏(以下佐田) 大阪でのハッカソン(2018年12月8日・9日開催「SDLアプリコンテストに応募しようぜハッカソン」)に関して、知人から聞いたのが最初でした。
―― どんなふうに思われましたか?
佐田 以前から、クルマはもっと便利になるはずだと思っていて、でも単にカーナビがインターネットにつながっただけでは、できることは限られています。それが、スマホとかんたんに接続できるとなると、いろいろ可能性が広がりますよね。
自家用車だけじゃなくて、たとえばタクシーの支払いは、いまスマホでタッチすればできますけれども、目的地の設定もタッチでできるようになるとか。
―― それで、ハッカソンに参加されたと。
佐田 いや、実は、最初は“バーベキュー”と運営の手伝いだったんです。
―― そうなんですか!?
佐田 自分でもコードは書きますが、PHPとか、サーバー側の言語が多いんです。SDLとなると、Androidを触る、Javaで書くことになるんで、もともとちょっと違うとは思ってました。
でも、SDLのハッカソンに興味はあって面白そうだとは思っていて、そもそもハッカソンの主催者が知り合いなんで「運営の手伝いに行こか?」と言っていたんです。それが、直前にキャンセルされた方が出て、数合わせじゃないですけれども、急きょ参加することになったんです。
―― なんと。いきなり飛び込まれたんですね。
佐田 急な参加でしたね。それで、ともかくチームを作ったんですが、僕はアイデアは出しますけどJavaのコードは書きません、というのでも「ほな一緒にやろか」と言ってくれる方がいて、また2日間のうち初日しか参加できない方とかもいらっしゃったんで、SDLに触って楽しく遊べたらええかというので、集まってもらったんです。その場で5名も集まったんですが、寄せ集めと言えば寄せ集めですね。
―― それでできたチーム「Instaride」ですが、このチーム名はネタが決まってからですね。
佐田 そうですね。バイクのライディングで、というアイデアが出てきてから、チーム名も決まりました。
―― その“バイク”というのはどういう経緯で出てきたんですか?
佐田 実はバイクでというのは、一番最初に考えたんです。みんなクルマでSDLアプリを考えるやろうから、ここはあえてバイクにしておいたほうが面白いんじゃないかと。
―― バイクなら、ネタが目立つということですか。
佐田 アイデアというより戦略として、まずはバイクだろうと。そしてバイクありきで考え始めて、その次に「じゃあバイク乗りの課題って何?」っていうのをディスカッションしました。
ちょうどバイクに乗っている人がメンバーにいたので、色々と話をしていたときに、「かっこいいツーリング写真が撮れない」と。その課題が、みんなにわかりやすかったんですね。たしかに、ツーリング行ってきましたと人に話そうにも、バイクと風景の写真しかない。じゃあ、それで行こう! と。
―― けっこうあっさりと決まったんですか?
佐田 いくつかほかにも課題はありましたけれども、解くべき課題が「これや!」というのはすぐに決まりました。ただし、この課題をどうやってSDLで解決するのか、というのはありましたけれども。
ブレイクスルーは「地元の人が撮れば?」
―― そこはどう議論されたんでしょう。
佐田 まず、自撮りなのか、人に撮ってもらうのかというのがありました。でもどうやって自撮りするのかといのと、だいたい危険だろうというので、すぐにボツになったんです。自撮りがボツだとしたら、違う場所にあるカメラで撮ることになるわけですよね。
それで、SDLに対応するバイク同士で、お互いを撮りあうというアイデアが最初に出ました。けれども、それで本当にかっこいい写真が撮れるのかとか、マッチングしなかったらどうなるのかというのがあって、そのままでは先に進みませんでした。
そこでブレイクスルーになったのが、「地元の人に撮ってもらったらええやん」というアイデアです。しかも、必要ならお金払ったらええやんかと。シェアリングエコノミー的なスキームですよね。
つまり、第三者に撮ってもらおうという発想がものすごく大きなブレイクスルーになりました。SDL対応アプリで「撮って」ボタンを押したバイクを、同じアプリを入れた第三者がカメラモードで撮影して送って、それが届くようになればいいんじゃないかと。落ち葉拾って売ってるおじいちゃんばあちゃんがいるなら、峠で写真撮って売ってもいいですよね。
そして、ツーリングに行くような峠ってだいたい山だったり田舎だったり、クルマで生活する場所なわけですよ。そういうところの人が趣味で写真をとか、あるいは小遣い稼ぎというので、アプリ入れる。そうすると、回り回って自分の車でもSDLアプリ入れとくと便利になるっていうことがわかる布石にもなりますよね。
つまりは、このアプリをカメラマン用として配布することで、バイク乗りじゃなくても、SDL対応アプリをスマホに入れる理由にできる。それが、ひいてはSDLのエコシステムの強化につながります。
―― SDL全体の盛り上がりまで考えましたか!
佐田 サービス屋としての職業病ですね。でも広がりとして、バイクにSDLがつくだけで、そこまで行ける可能性があるというのは、作りながら面白かったところです。
―― 5人のメンバーで、どいういう分担でやられたんでしょうか。
佐田 僕は企画とプレゼン担当でしたが、みなさん得意分野が違ったのと、2日とも来られる人が実は少なかったんで、あなたはSDLからこの情報をとれるようにしてください、あなたはそれをサーバーサイドで受けて保存するのをAzureで作って下さいというふうに分担して、そこをつなぐAPIの仕様を決めてとか。結構楽しみながら作ってもらいました。
一番大変だったのはAndroidアプリなんですが、そこはチームの中で一番現役ばりばりのエンジニアさんにお願いしました。
―― 開発に要した時間はどれくらいですか?
佐田 現在地情報をずっと追いかけていく、裏側でそのデータをサーバーに投げるというのは、イメージを伝えられるところまでは、割とすぐにできたと思います。SDLで取った車両の情報とスマホのGPSデータをサーバーに投げ続ける、受けて表示するという部分ですね。
最初は撮った写真を買って売ってとか考えていましたけれども、決済はさすがに実装するのは無理というので、そのへんはばっさり捨てました。
スマホ側の画面はこうですというのと、ストップボタンを押したらライダーに写真が届くというのは実装して、おおよそ雰囲気が伝わるプログラムは実装できたかなというのが、ハッカソンでできた範囲です。
―― ハッカソン後、実際に応募されるまではどのあたりをブラッシュアップしたんでしょうか?
佐田 Androidアプリとしての精度を上げていくところを、メールとかで連絡をとりながらやりました。たとえばアプリがSDLやGPSのデータを何秒間隔で取るのか。峠で、このあたりにバイクが走っているというのが撮る側にわかればいいので、10秒に1回では遅いけれども、1秒に1回ほどはいらないんじゃないかとかいった部分の調整ですね。
それから、アプリに表示されるのが、最初はバイクの位置だけだったんですけれども、撮影者にとっては、バイクの位置と自分の位置の両方を表示しなければなりませんよね。それを限られた時間内でうまく表示することとかも、苦労した部分です。
ぜひテストコースで実証実験をやってみたい!
―― 今後、実際にサービス化したいですとどこかからお話があったら、どうしましょうか?
佐田 まずは予算じゃないですか(笑)。
というのはさておいて、予算もそうですが、どういう場所でどうやって実験するのかというのがポイントでしょうね。作るだけなら作れますけれども、バイクに乗ってもらって、写真を撮ってもらって、ホントに上手くいくのかというのをちゃんと実証しなければならないのをどうするか。
広大な私有地とか、どこかのテストコースを使わせてもらえるとか? でも実証実験ができるなら、それ自体が楽しいですよね。テストコースで大勢の人にアプリを入れてもらって、第1コーナー、第2コーナー、バックストレートで写真を撮ると。そうやってみんなで触ってみて、実際に動かしてみて、パラメーターをいじってとか。それはやってみたい。
それで、時速何km以上出したら写真が来ないとかいった設定にすると、人は安全運転するようになるのか? とかもちゃんと調べてみたいです。
―― 「Instaride」が実現したら、そもそもコーナーの攻め方が変わるかもしれませんね。
佐田 速く曲がるんじゃなく、いかに安全にかっこよく、映えるように曲がるのを競うとか。
―― 前回見事にグランプリを受賞されたわけですが、どういったところがグランプリにつながったんでしょうか。そして、今回応募されるかたは、何を意識すればよいでしょうか?
佐田 SDLで取れる車両データがいろいろありますけれども、運転中とか、ドライバーがとかにその数字を利用うるシチュエーションを絞るのではなくて、そのほかの部分にも想いをはせると、アイデアの幅が広がると思います。
SDLでアプリコンテストというと、どうしても運転手目線になると思うんです。けれども、我々が違ったのは、運転手以外にも共有する、使ってもらうという部分で、そういうような考え方をしたら、アイデアが広がるのではないかと思います。
「クルマとスマホをなかよくする SDLアプリコンテスト2019」
主催:SDLアプリコンテスト実行委員会(事務局:角川アスキー総合研究所)
協力:SDLコンソーシアム日本分科会、株式会社ナビタイムジャパン
後援(予定): 独立行政法人国立高等専門学校機構、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会ほか
応募締切:2019年10月31日(木)24:00
募集内容:エミュレーターか開発キット上で開発したSDL対応アプリ(既存アプリの移植、新規開発)
募集対象:年齢、性別、国籍等不問。個人・チームどちらでも応募可
応募方法:プレゼンシートと動作解説動画をWebフォームで応募
審査:審査員が新規性、UX・デザイン、実装の巧みさ等で評価
最終審査会:2019年11月22日(金)
審査員:暦本純一(東京大学情報学環教授)、川田十夢(AR三兄弟長男)ほか
グランプリ:賞金50万円+副賞
特別賞(5作品):賞金各10万円
公式サイト:http://sdl-contest.com/
(提供:SDLコンソーシアム)
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