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GAFAとの戦いで決め手となるのは、著作権ではないのかもしれない

2019年08月26日 17時00分更新

文● まつもとあつし 編集● ASCII編集部

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「著作権」を強くしても儲からない――伊藤氏の慧眼

 2010年代前半、角川氏のような実業家だけでなく、筆者も含めた研究者の間でも「日本の著作権法は時代遅れで、デジタル流通時代に対応しきれていない」という声は大きなものになっていった。

 文化庁も有識者会議を頻繁に開催し、著作権法の改正を進めてきた。ところがこの本のなかで、異なる視点の提言を角川氏との対談で行なっている人物がいる。それが、MITメディアラボの伊藤穣一氏だ。該当箇所(「モノポリーとクリエイター保護」)を引用しておこう。(太字強調は筆者による)

角川 何よりも僕が目指すのは、バランスなんです。これはもう、それこそレッシグの最新の本に書いてあることと同じ。すごく誤解されているけれど、彼も著作権法は大事だと思っているんです。ただ、バランスが欠けているんだと。僕も全くそう思う。

 今度の本でも、「バランス」について強調しているんですよ。今までは著作権者が強すぎて、国民や大衆がコンテンツを自由に使いたい、読みたいという権利を阻害し過ぎていたと思う。それは少し是正したい。でも是正し過ぎると、今度はアマゾン、アップル、グーグルなんかが、クラウドの中で権利者の権利を奪うんじゃないかと……。

伊藤 彼らは、ものすごく器用にプラットフォームのモノポリーをお互いに取ろうとしている。他の人の権利を奪って自分だけ稼ごうというのは、もう当たり前で、だからこそ、著作権や法律は、ビジネスをきちっと理解した人たちがポリシーを作らないといけない。

 国民やユーザーが自由(フリー)でありながら、モノポリーが起きないようにするためのポリシーとは何か、それをどう作るのか。モノポリー者というのは、ちょっとした権利をいかにレバレッジにしようか、と一所懸命、上手に考えている人たちばかりです。

 アップルのデバイスの中には、アップルのものではない特許がたくさん入っている。でもアップルが凄いのは、彼らが一番儲けている。なぜかというと、ブランドとエコシステムのコントロールを牛耳っているから。その力でいろんな相手に対して「この特許を入れてやろうか」とコントロールできる。勝つのは知的財産を持っている側じゃないんだよね。ブランドと、ネットワークと、エコシステム、プラットフォームを持っている側。

(中略)

 著作権をいくら強くしても、著作権者は儲からない。間違ったところに集中しちゃっているんだ。今の世の中というのは、いかにプラットフォームを作るか、ディストリビューションを持つか、ユーザーを持つか、そういうところに力が移っちゃっている。

 僕は、著作権者とかクリエイターの権利をこれ以上高めてもしょうがないと思ってます。むしろ、プラットフォームを作っている人たちに対して、もう少し独占禁止法的に、レバレッジを使いすぎないようコントロールすべきだと思う。フリーマーケットの一番危ない点は、モノポリーを生み出しちゃうということだと思うんですね。昔からみんなそうだとわかっているのに、平気でモノポリー作らせちゃう。

 2013年の伊藤氏のこの重要な指摘は、しかし大きな注目を集めることはなかった。経済産業省がグーグルとアップルに対して聞き取りを行うに至ったのは2018年末になってからのことだ(関連記事:政府がアップルを「GAFA」で括るのは間違いだ)。

 EUで定められたGDPR(一般データ保護規則=EU内外での個人情報の取扱規則)への対応が念頭にあり、まずは個人情報の独占が生む弊害について検討がようやく始まったという段階だ。伊藤氏が言及した「モノポリー者」の市場独占をどう規制するかについて、国としての方針は示されるには至っていない。

 たとえば、フランスでは「反アマゾン法」とも呼ばれる明確な規制がはじまっているが、米国と競争関係にあるEU各国に対して、米国との経済的結びつきが強い日本がどのような姿勢を取れば国益に適うのか、政治的な合意が形成されていないことも背景にはあるだろう。

 伊藤氏は同じ対談のなかで、「コンテンツ屋さんはコンテンツ屋さんで、自分たちのディストリビューションを考えて、プラットフォームと戦うようなビジネスを作らないといけないんじゃないですか」とも指摘している。

 確かにKADOKAWAはじめ出版各社は合従連衡の動きを加速させているが、まだそれは会社あるいはグループ単位で経営効率を高め、プラットフォーム事業者との交渉力を得ようという動きに留まっている。電子出版と著作権の新しいあり方を目指して成立したドワンゴとの経営統合も、その成果を示すことはできず体制の立て直しが図られているのが現状だ(参考記事:https://news.yahoo.co.jp/byline/matsumotoatsushi/20190215-00114899/)。

 巨大な海賊版サイトがまさに示したように、会社間・グループ間の垣根を越えて「出版業界」全体としてビジネスを構築し、著作権とは異なるアプローチで国に働きかけを強めていかなければ、その先行きにはまだまだ困難が待ち受けているはずなのだ。

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著者紹介:まつもとあつし

ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者(敬和学園大学人文学部国際文化学科准教授・法政大学/専修大学講師)。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、フリーランスに。ASCII.JP・ITmedia・ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。

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