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ロシアからロサンゼルスまで試合動画を転送し、編集開始までわずか10秒

IBMがFIFAワールドカップ、全米テニスで活用したデジタルトランスフォーメーション

2019年08月22日 06時30分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木/ASCII編集部

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「スポーツにおける技術の活用が進んでいる」と言うのは日本アイ・ビー・エムで取締役専務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長を務める三澤智光氏だ。2019年7月18日、ソフトバンクが開催した「SoftBank World 2019」でスポーツ業界におけるITの活用について語った。

 あらゆる業界でデジタル化、データの活用などの「デジタルトランスフォーメーション」が言われているが、三澤氏によると「スポーツとエンターテインメントは特に進んでいる」という。背景にあるのは、大容量化するコンテンツ、セキュリティの担保など。「企業のITと同じような課題がある」と三澤氏。

 IBMが支援した例として、三澤氏は「FIFA World Cup」を挙げた。7月はじめまでフランスで開催された女子ワールドカップ、そして2018年のワールドカップロシアで実況放送を担当したFOX Sportsは、12会場で行われた全64時試合をHDとUHDの2種類の解像度で放送した。2大会で320時間のオリジナル放送コンテンツ、1100時間以上のオリジナルコンテンツが放送されたが、これは過去4大会の合計を上回る規模だという。

 これまでなら動画編集をする制作チームが試合会場近くに行って編集作業を行うのが常だった。だがFOX Sportsは、高速なビデオ処理のために22台のTelestreamの「Lightspeed Live」システムを利用し、IBMの高速データファイル転送技術「IBM Aspera」により本拠地ロサンジェルスに転送した。CAD図面や解像度が高い映像データなどの容量の大きいデータを転送する技術で、IBMは2015年、買収により取得した。SaaSとして提供するIBM Aspera on Cluodは、10GBのファイルを東京と米国間で4分32秒(平均速度315.81Mbps)で送ることができるという。他社では、アクセラレーション機能を有効化している場合でも19分45秒(平均72.49Mbps)かかるという。

 このシステムにより、ロシアからライブ映像が配信されてロサンジェルス側で編集を開始するまでの時間はわずか10秒以内。ほぼリアルタイムで編集ができた。実際に、制作チームはライブ映像を編集、ハーフタイムや試合終了後にすぐに配信することに成功した。このような制作サイクルの大幅な短縮を可能にしているのは、Asperaの特徴であるFASP(Fast And Secure Protocol)というプロトコルを利用した転送技術で、ネットワークは公衆回線を用いた。

 ロシア大会ではデータ量にして約2PBがロシア各地の会場からロサンジェルスに送られたという。「人や設備を移動させることなく、データを移動させた」と三澤氏、慣れた環境をそのまま使うことができるだけでなく、人や機材を移動させるコストも発生しなかった。フランス開催の女子ワールドカップでも同様に、フランスから10秒以内に動画を受け取り、ロサンジェルスでAdobe Premiere Proで動画編集を行なった。

 もう一つの事例が女子テニスだ。毎年夏、米ニューヨークで開催される全米オープン(全米テニス協会主催)で、IBMはバックエンド技術とアプリを供給している。

 2週間繰り広げられる熱戦は約70万人がオンサイトで観戦するほか、オンラインでは1100万人のファンが視聴する。試合時間は男女シングルだけでも合計300時間以上、同時試合数は最大17試合で、1日1コートにつき最大6試合が行われることもあるという。これらの膨大なデータの分析で活躍したのはIBM Watsonだ。すべての動画が含む情報を詳細に分析した。

 「IBM Cognitive Highlights」により、データから映像に入っている歓声や選手の動きを分析して、試合の盛り上がった部分を特定してハイライトの動画を自動抽出した。作成したその日のハイライトは公式Facebookページに投稿された他、公式アプリではお気に入り選手登録をしているファンにその選手のハイライトをプッシュ通知したという。

 なお、歓声と盛り上がりはテニス、バスケット、野球などスポーツにより異なるため、種目により違う指標を持つという。

 公式アプリではどの選手がどの会場で試合をするのかに始まり、リアルタイムでの試合情報もチェックできる。それだけでなく、「IBM Slam Tracker」技術を利用して、リアルタイムでファーストサービスが入った確率などのデータ、そして過去の12年分の試合データから特定の選手と選手の対戦成績、対戦のポイントなどを提供したとのことだ。

 このような機能だけではなく、セキュリティも重要な役割を果たしていたようだ。「短期間にユーザーが集中し、極端に高いピークアクセスに対応する。多種多様かつ膨大な量のデータを扱い、同時に脅威への対応も必要」と三澤氏はシステムの要件を説明したが、実際に「期間中100億回の攻撃を受けた」と明かした。

 IBMはこの他にも、数々のスポーツの事例を持つ。例えば6月、NBAファイナルで創設24年目にして初優勝を飾ったトロント・ラプターズでも、IBM WatsonのAI技術を利用してチーム、選手などの多様なデータをリアルタイムで分析するなどのことを行ない、優勝に貢献したという。特に、スカウトや人事では「IBM Sports Insight Central」を利用して強いチーム作りを実現したとのことだ。

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